だれかに話したくなる本の話

「人との出会いが新しさをもたらす」。『SWITCH』編集長が語る「インタビュー」と「旅」

■「編集よりも会って話し、それを書く方が好き」

――『SWITCH』もインタビューという「人に話を聞く」ということが軸になっていますが、人との出会いが前提で雑誌が作られていくんですね。

新井:そうですね。会った人が表現者だったら、なぜその人は表現するのか、その原点を見出したいという想いがあるんです。その人の原点、原風景を訪ねることがインタビューの一つのベースになっています。

僕は編集よりも、人に会って話し、書くことの方が好きなんですよ。

ただ、書いても、誌面に載るためには誰かに見てもらって評価してもらわないといけない。それが面倒だと思って自分で『SWITCH』という雑誌を作ったんです。自分で作れば自分で書いたものを掲載できますから。

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インタビューも、旅も、新井編集長にとっては同じなのだろう。そして、「人に会って、その人の言葉を書いて伝える」という一貫した姿勢が、『SWITCH』『Coyote』といったスイッチ・パブリッシングから発行される雑誌を作り続けてきた。その姿勢がすべてをつなげてしまうのだ。

『SWITCH Vol.34 No.5』でマツコ・デラックスは、「エセ・アバンギャルド雑誌」と批判する。しかし、その一方で、その批判の中に『SWITCH』に対する期待を感じることもできる。

8月20日発売の『SWITCH』の最新号では写真家・若木信吾を特集。浅野忠信や木村拓哉など、最先端の表現者たちに「再会」し、若木自らがインタビューと撮影を試みるという。

これからも新井編集長は『SWITCH』『Coyote』で尖った特集を作り、新しい発見を読者に提示し続けていくはずだ。

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――最後にお聞きしたいのですが、新井編集長にとって「尖った企画」とはどんな企画だと思いますか?

新井:それは未発見だった洞窟に分け入っていくような感覚があるかどうかじゃないですか。誰かが発見してしまった場所は、リスクも少ないけれど、新鮮さに欠ける。逆に尖っているものは、常に新しさを提示していますし、危険だけれどもワクワクしますよね。

同じ場所に行ってもいいんです。同じことをしなければ。何度も同じ場所に行くと土地勘も生まれるし、空間も把握できるようになるけど、そこからもっと深くその場所を掘り下げるには、人と出会って話すことです。そうやって新しさを追い求めていくことで飽きずにいることができる。

自分にとってハラハラドキドキが尽きない、新鮮な気持ちでいられる企画が尖った企画だと思いますね。

(了)

■新井敏記さん

1954年、茨城県生まれ。スイッチ・パブリッシング代表取締役社長。1985年『SWITCH』、2004年『Coyote』、2012年『MONKEY』を創刊。インタビュアー、ノンフィクションライターとしても精力的に活躍を続ける。著書に『SWITCH STORIES 』『片山豊 黎明』『モンタナ急行の乗客』『池澤夏樹 アジアの感情』『鏡の荒野』『夏の水先案内人』などがある。

『Coyote No.59 星野道夫の遥かなる旅』

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金井元貴

1984年生。「新刊JP」の編集長です。カープが勝つと喜びます。
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audiobook:「鼠わらし物語」(共作)

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