だれかに話したくなる本の話

「人との出会いが新しさをもたらす」。『SWITCH』編集長が語る「インタビュー」と「旅」

――『Coyote』では星野さんを幾度も取り上げていますよね。それはなぜですか?

新井:「旅の雑誌」という発想は、もともと1994年の『SWITCH』での星野さんの特集をきっかけに生まれました。そして、彼と話をしながら構想を固めていった。つまり、彼と話すことによって生まれた雑誌と言えます。

だから、何度も繰り返し彼のことを特集するし、没後20年に改めて取り上げることも、僕にとっては必然性があります。その中で、自分にとって旅とは何か、自然の中に人間が分け入ることとはどういうことか、自然の中で人が暮らすとはどういうことを、繰り返し自分に問いている感じですね。

それが自分にとっての雑誌を作る上での大きな座標にもなっています。

  ◇     ◇     ◇

新井編集長と星野さんは、初めて会ったときから意気投合したという。

「彼はとんかつが好きだったんですよ。僕も大好きで、食の好みが一致した。あとは二人とも食べるスピードが速くて、僕も彼もそれまで(速さで)負けたことがなかった。同じ感覚で生きていた人がいたということが嬉しかったですね」

そして、「食」で結び付けられた二人の関係の主軸は、「旅」へと変わっていく。新井編集長自身、今でも取材のために世界を飛び回る。その背景にある星野の存在は大きいだろう。

  ◇     ◇     ◇

――新井編集長自身も海外を巡られています。なぜ旅をするのでしょうか。

新井:星野さんは自然の中で暮らす人間を写してきたように、やはり人なんです。僕も人と会いたい。

これは星野さんも繰り返し言っていますが、見知らぬ土地をより身近に感じるようになるためには、人と出会うことが大切です。人と出会うことによって、その人からいろいろなものを紹介され、大事な場所に行くことができるようになる。

その土地には、そこにいる人しか分からない物語があります。それを拾うには人と出会うことである、ということです。

もちろん圧倒的な自然の風景にも感動するけれど、その土地の人と出会えば、その土地にもっと分け入っていけます。もし日本に帰ってきたあとに、その土地で災害が起きたときに、「大丈夫かな」とまず心配するのはそこで出会った人たちのことですよね。

人とのつながりで記憶は残るし、また行きたいと思うのも、その土地にいる人に会いに行きたいから。だから僕が旅をする理由は、人との出会いを求めるからです。人と出会って物語を聞いて、それを伝えたいということですね。

――それに記憶は何度も会うことでどんどん強くなっていきますよね。

新井:強くなっていくというよりは、何度も行くたびに更新されていく。新しい発見があるんです。

『Coyote No.59 星野道夫の遥かなる旅』

Coyote No.59 星野道夫の遥かなる旅

なぜ星野道夫はアラスカを目指したのか?