新刊ラジオ第1456回 「ロッカク」
技術者の現場と思いを描く、見ル野栄司さんの新シリーズの登場です! 今作の舞台は、全国の若き技能者たちが集結し、技術を競い合う「技能五輪」。主人公の月光トキオが、技能五輪を目指して入社した町工場で巻き起こる、感動のストーリー。技術者の現場と思いに触れる人間ドラマも見どころです。
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技能五輪大会を目指す新人技術者
●著者プロフィール 著者の見ル野 栄司(みるの・えいじ)さんは、半導体製造装置や、ゲーム機などの設計・開発の会社に10年間勤務した後に、漫画家としてデビューした作家さんです。描きあげるテーマは、もちろん“技術者”。代表作となっている漫画は、『シブすぎ技術に男泣き!』(中小企業の技術者たちを追った漫画)です。現在、2巻まで出ていますが、来週17日ごろに3巻が発売になるそうです。
今回取上げた『ロッカク』ですが、まずは、裏表紙に書いてあったあらすじをご紹介します。 ものづくりとは何か? 働くとは何か? を問う、熱血技術漫画!! ものづくりの技術を競う技能五輪大会。その大会で見かけた凄腕職人・鉄流太(くろがね・りゅうた)に憧れ、工場へ入社した新人技術者・月光トキオ(つきみつ・ときお)は、初日から感電、装置の損傷、納品先でのトラブルなど失敗ばかり……。誰も教えてくれない状況の中、ベテラン職人・原成がトキオの指導をかって出るが?!
物語は、技能五輪大会のシーンから幕を開けます。技能五輪大会とは、<全国の若き技術者たちが互いの“技”を競い合い、その目標へ向かっての日々の鍛錬が、どれだけ大きな力になるかを証明できる大会>なんです(フィクションじゃなくて本当にある大会なんですよ)。
高校を卒業してフラッと技能五輪大会を見に来た、この物語の主人公・月光トキオは、大会に参加していた1人の技能者に魅せられます。その技術者というのが、後にトキオが就職することになる町工場「立花メカニカル」の鉄流太(くろがね りゅうた)。鉄は超一流の技術を持った叩き上げの技術者で、“この大会に優勝するためだけに部署が作られるような大手企業の技術者たち”を凌駕する技術で、課題をクリアするのですが、なかなか破天荒なところがありまして。「技能者らしい態度とは言いがたい」という理由で、失格になってしまうんですね。
失格とはいえ、技術は超一流。そんな鉄(くろがね)に魅せられたトキオは、立花メカニカルに入社することになりました。
技術者のものづくりの心とは
出社初日に待ち構えていたのは、立花メカニカル 社長の立花盤次郎(たちばな・はんじろう)と、専務の立花キリコ。 ※音声では「ばんじろう」と読みあげていますが正しくは「はんじろう」です。音声版も近日中に修正いたします。
そして、トキオが工場に足を踏み入れてすぐに・・・
「遅い新人! 早く手伝え! 今日中のこの2台出荷なんだー!」
と、キリコに怒鳴りつけられてしまいます。 入社初日で、いきなり現場に放り込まれて、しかも超短納期。もしかして、町工場ってこうなのかな? なんていう現実が見えておもしろいですね。
そしてトキオは、鉄(くろがね)にあこがれて入社したわけですから、「がんばるぞ〜!」と、やる気にはなっているのですが、どうにも効率が悪いのです。スクリューネジのケースを倒してバラ巻いてしまったり、ネジ穴をバカにしてしまったり、挙句、電源ケーブルを“通電したまま”切断しようとして感電してしまったり(笑)
そんな、技術はからっきしのトキオなんですが、職人の心はもっていたのです。いきつけのうどん屋さんでご飯を食べようとしたら、製麺機が故障して困っているうどん屋の店主の姿が。そんな店主を見て、ここでトキオは、「うちが直します!」と、製麺機の修理を、勝手に請け負ってしまうんです。
工場に持って帰ってバラしてみるも、もう製造されていない機械のため部品の交換もできないし、代替えできない部品も出てきて、苦労します。トキオは技術もまだまだ半人前ですから、結局製麺機をバラバラにしてしまってどうしようもなくなってしまうんです。
見かねた古株の社員、原成(はらなり)さんがここで出てきます。
情熱は革命を起す!
原成さんは、この物語のキーマンです。昔はバリバリの職人気質の技術者で、それはもう色んなところに飛び回って、ものづくりをして、「世の中をよくしよう!」と情熱に溢れていた方なんですが、「よいものを作ろう」とするあまり、納期がかかったり、費用がかさんだりという……。いわゆるクライアントとの不一致が原因で、“よいものを作っても世の中は良くならないのではないか”なんて考えるようになっていって、いつのまにか、与えられた仕事だけをやるようになってしまった、という人なんです。
そんな原成さんが、トキオに苦言を呈します。
「会社に迷惑をかけてるのがわかるか? お前の人件費や残業代はその修理代では補えないんだぞ」
しかし若いトキオは情熱を持って、原成さんに食ってかかるんです。
“費用ならボクの給料から引けばいい! 大将と あのうどんを楽しみにしているお客さんが待っているんだ。 情熱は革命を起せます!“
すると、原成さんは、「今の言葉忘れるなよ・・・オレみたいにな」とつぶやいて、ボロボロになった作業着を羽織って、トキオに指示を出し、一緒に修理を始めるのです。そして、この出来事をきっかけに、トキオは原成さんについて色々な技術を学んでいくことになります。
トキオと原成さんとのやりとりを見ていると、ものづくりの心、職人の魂というものを感じざるを得ません。たとえばトキオは、仕事が遅いのにも関わらず、規定の作業外である面取りまで(つまり、機械をさわる人のことを想い、とがった部分をやすりがけで削る)手間暇かけて行います。
キリコには、「ムダなことを・・・」と一蹴されてしまいますが、原成さんはちゃんと見ていて、自分の記憶(昔担当したお客さんに、「原成くんが面取りしたところ、パートさんがすごく使いやすいって言ってるよ、ありがとな」と言われた経験など)を思い返して、さらにトキオに共感していくのです。
「ムダじゃないぞトキオ・・・それこそがものづくりの真髄だ!!」
とは原成さんの心の言葉です。
本作は職人さんの思いに触れることができる素敵な漫画です。
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