新刊ラジオ第1455回 「リーダーシップは「第九」に学べ」
オーケストラの演奏は、企業組織と似ています。オーケストラを率いる指揮者の強力なリーダーシップは、企業では、「経営者」や「管理職」に当てはまります。指揮者の仕事を知ることで、リーダーシップを学ぶことができます。そして、いつの世も人々の心を奮い立たせる「第九」も、リーダーシップに通じるものがありました。
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なぜ、“指揮者”か?
● 著者プロフィール 著者の小松長生(こまつ・ちょうせい)さんは、福井県生まれ。東京大学美学芸術学科卒。イーストマン音楽院大学院指揮科卒。エクソン指揮者コンクールで優勝ののち、モントリオール響、ケルン放送響、ザルツブルク音楽祭、モスクワ放送響、北ドイツフィル、ボリショイ劇場、ヴェネズエラ国立響等を客演指揮してきました。東京フィルハーモニー交響楽団正指揮者を経て、現在は、コスタリカ国立交響楽団桂冠指揮者、セントラル愛知交響楽団名誉指揮者を務めています
『リーダーシップは「第九」に学べ』には、指揮者が、オーケストラでのリーダーであり、オーケストラのリーダーとして求められることが一般の会社での管理職ととてもよく似ている、ということが書かれています。
ヴァイオリン、ホルン、トロンボーンなど、さまざまな楽器の奏者たちが、各自の特性を発揮して、一致団結し、素晴らしい演奏を作り上げる、これが、「会社」「組織」です。オーケストラはひとつのチーム。そのチームをまとめるのが指揮者。会社における、「経営者」「管理職」が、オーケストラの指揮者と重なる、ということなのです。
本書では、なかなか一般の人が知ることのできなかった、指揮者という仕事を紹介しながら、リーダーとして、小松さんが、組織を率いていくためにしていることが書かれています。指揮者に必要なものは、信頼関係、管理能力、マネジメント力。それだけではなく、豊富な知識と経験、常に学ぶ姿勢など、どれをとっても会社が求めるリーダー像と一致するのです。
なぜ、“第九”か?
小松さんが「第九」に惹かれる理由はなんでしょうか。本書の中で、次のように語っています。
「この交響曲は、クラッシック音楽の世界にエベレストのようにそびえ立ち、シューマン、ブラームス、シューベルト、マーラーなど多数の作曲家が、「「第九」のあとでいったいどう交響曲を書けばいいのか」と途方に暮れたほどの傑作です。先輩たちの重責の任を継ぎ、さらに一歩先を見据えなければならないリーダーには、ピンとくるはずです」 (P4より抜粋)
「一生に一度はやってみたい」と思う方もいるでしょう。 タキシードに身を固め、颯爽と登場してオーケストラを指揮する姿は華麗なものです。それに、指揮棒を振るだけだから、すぐ誰でも出来るようになるんじゃないかな、な〜んて思っている人、いませんか?
この本を読むと、指揮者がこんなにも重要で、経験や能力だけでは決してできないものだということを知らされます。指揮者は、作曲家が書いたスコアを読みこなし、完成すべきものをイメージ化して、それをもとに現場でテキパキと楽員たちを指揮していかなければならないのです。
また、指揮者が求められる知識も非常に幅が広く多いのです。実技では、指揮法、楽譜視唱、各種楽器など。知識では、作家理論、管弦楽法、音楽史。語学も、イタリア語、ドイツ語、ラテン語、フランス語、英語の発音法なども知らなければならないそうです。他にも、教養として、西洋史、文学史、哲学史、美術史、心理学が必要だといいます。
オーケストラと一般会社の共通点
指揮者になるためには、帝王学を学ぶ必要があるとよくいわれます。オーケストラの楽員は、超難関のオーデションで選ばれたスペシャリストです。その楽員のリーダーになるためには、生半可な知識や教養、経験では太刀打ちできません。オーケストラでの指揮者のリーダーシップ力を学ぶことが、一般の会社でも役立つという訳なのです。
例えば、リーダーが目的や意義を示すことは、オーケストラも一般の会社も同じだと、小松さんは本の中で言っています。
小松さんの言葉を紹介します。
経営者は、「こうなりたい」「これをめざす」という経営理念なり、使命、ビジョンや長期的な展望をもち、それを達成するための具体的な計画性や決断力が必要とされますが、それは、リーダーとしての指揮者にも求められていることなのです。 多数決だけで決めていけばいいのであれば、リーダーは必要ありません。目標を明確にして、それをみんなで共有し、実現に向けてみんなを引っ張っていくリーダーがいなければならいのです。 いくら頭でわかってはいても、行動する力がなければ目標は実現できませんし、リーダーがどこに向かいたいのかわからなければ、目標には到達できません。指揮者が描いている構想がはっきりしていないと、まとまった演奏はできないのです」 (P66.67より抜粋)
成果を出すチームリーダーの姿
一流のプロ集団であるほど、自分でも思ってもいないような力をひきだしてくれる、力あるリーダーをオーケストラの楽員も、企業のスタッフも、求めているのです。
人も技術もトップクラスを常に求める、それは、最高水準を求めて維持し続ける姿勢が大事であるのです。そのためには、リーダー自身が、これまで以上の出来栄えを目指して、常に挑戦して自らを磨き続けることが必要なのです。
本書の最後には、「第九」の魅力と解説、訳も載っています。
「リーダーは孤独です。自分にははっきり見えていることがほかの人に伝わらず、もどかしいときもあります」 (P203より抜粋)
そんなときに「第九」は、道しるべになってくれたそうです。 「第九」を知り、リーダーシップを学ぶ、そんな一冊です。
リーダーシップは「第九」に学べ |