だれかに話したくなる本の話

新刊ラジオ第1478回 「日本人の9割に英語はいらない」

「頭の悪い人ほど英語を勉強する」「楽天とユニクロに惑わされるな」「早期英語教育は無意味である」「インターナショナルスクールを出て成功した人はいない」。今まで、ビジネスのため、子供の将来のためと必死になって英語を勉強してきた人・させてきた人にはショッキングな内容かもしれません。マイクロソフト社の元社長、成毛氏の主張をひと言で表すならこうです。「英語を学ぶ必要のない人間は、英語を学ぶ時間があったら本を読め」。

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マイクロソフト元社長が無意味な英語学習を批判

● 著者プロフィール  著者の成毛眞(なるけ・まこと)さんは、1955年北海道生まれ。中央大学卒業後、自動車部品メーカーや株式会社アスキーなどを経て、1986年マイクロソフト社に入社。1991年同社代表取締役社長に就任。2000年に退社後、投資コンサルティング会社「インスパイア」を設立。現在は、同社取締役ファウンダーのほか、早稲田大学客員教授なども務めています。

 成毛さんは、マイクロソフト社に入社した当時はほとんど英語が話せなかったそうです。普通ならば、ここで、「全く話せなかった私がこのようにして英語を習得していった」……、というような内容の本になりそうなものですが、全く逆の、“英語を勉強するのは無意味だ” と言いきってしまうのだから面白い。

 なぜ“英語を勉強するのは無意味” なのか? 成毛さんは、こういいます。 「日本は明治時代に開国する前から、外国とつきあってきた。たとえば杉田玄白らはオランダ語の医学書を日本語に翻訳し、「解体新書」を完成させた。森鴎外はイギリス人のシェイクスピアを翻訳し、川島忠之助はフランス文学者ジュール・ヴェルヌの「新説八十日間世界一周」を翻訳した。  つまり、日本人はさまざまな外国語を日本語に置き換えて、日本語で理解するよう努めてきたのである。だから、日本人は日本中どこでも日本語で会話をし、高校でも大学でも日本語で授業を受けられ、書店で日本語の書籍を手に取るという至福のひと時を享受できる。  確かに英語ができればビジネスでは有利になるかもしれない。しかし一方、伝統文化やアイデンティティを損なう危険がある。たかだか金儲けのために教育や思想、伝統文化を犠牲にするのだろうか」 (P5より抜粋)

 日本人ならば、日本という母国を深く知って、自分なりの考えをしっかりと持ち、日本語でしっかりと伝えられる、そんな “日本人力” が必要なのだと、成毛さんは言うのです。

英語学習“妄信”に警鐘を鳴らす

 “ビジネスには英語を勉強しなければ”、 “子供のころからまずは英語” などと、「英語は必要なことで、勉強すべきだ」と妄信している英語信者は、“小学校から英語が必修化される” “英語を社内公用語にする会社が増えている” という情報に踊らされているだけだと、成毛さんはいいます。

 その情報が正しいのかどうか検証もせずに、無批判で信じ込んでいる。そのような人がいま、熱心に英語を勉強しているというのです。何の必要性もないのに懸命に英語を暗記する人は、残念ながら頭がいいとはいえず、実際に、「英語が得意」「英会話学校に通っている」と胸を張って自慢している人と話していると、中身は空っぽということが多いと感じるのだそうです。

 こうまでズバっと言われると、「いや、そうじゃない、やっぱり英語は必要だ!」と反論したくなる人もいるのではないですか? そこで、この質問。

「あなたはなんのために英語を学ぶのか?」

 答えられますか? その答えに対して、成毛さんは、こう本の中で注意を呼びかけています。 「この問いに即答できない人は、英語を勉強しないほうがいいだろう。 英会話を学ぶ大半の人は、「会社でTOEICを受けるように言われているから」「海外旅行に行ったとき現地で話せるようになりたいから」「ほかに趣味もないから何となく」という理由で勉強するのだろう。 外国語=教養ではない。語学はコミュニケーションの手段のひとつである」 (P24より抜粋)

 海外旅行に行く時にはツアーガイドに頼って、ほとんど英語を使わないでしょう。だいたい海外旅行など年間で数週間ではないですか? ビジネスでも、海外勤務になったとか、取引先が海外の企業でないかぎり英語を使う場面はないでしょう。国内の支店しかない企業、国内向けのサービスしか提供しない企業では、間違いなく英語は必要ありません。

 大学の英文科を出た人は、その英語を活かせているのでしょうか? 地方の場合、英語力を活かせる企業は殆どないのが現実です。英語教師を目指す人はどうでしょう?しかし、その英語教師でさえ最近は外国語指導助手というネイティブのスピーカーを雇う場合が多いのだそうです。

英語ができても内容が薄っぺらな人々

 都心部でも外資系の企業に入社する人はそれほど多くはありません。また、日本企業に就職した英文科卒の学生が海外との取引をする部署に配属されても、実際に学校では文法重視の勉強なので、現場では殆ど役にたたず、海外への電話や、ビジネスメールさえも打てない人が殆どなのだとか……。

 それが日本の英文科の実力なんだそうです。思い当たりませんか? もちろん、通訳になりたいなどと具体的な夢を持って学んでいる人もいることでしょうが、そういった明確な目標がある人は、日本の大学を卒業しただけでは通訳になれない現実をすでに知っているというのです。

 アメリカに渡って10年のイチロー選手も、インタビューでは通訳を付けています。英語で質問されて日本語で答え、通訳が訳すのです。発音も流暢でチームメイトとは英語で話すイチローですが、やはり言葉を大切にしているので、日本語での微妙なニュアンスを伝えるのは通訳のプロに任せているのだそうです。

 立ち返って「何のために英語を使いたいのか」を考えてみて、明確な目的意識がないのであれば、「英語を勉強することは時間の無駄だ」と成毛さんは言います。

 「備えあれば憂いなし」。そんな思いで英語を学ぶ人が殆どなのではないでしょうか。 しかし、語学に関しては“泥縄”で大丈夫なのだそうです。 海外支店勤務が決まったら、赴任してから慌てればいい。外国人の上司がきたらその時から慌てればいい。 いつ始めても必要であれば、間に合うのが英語なんだそうです。

 それでも、早期英語教育が必要と信じて疑わない人には、こう忠告します。 早期英語教育のなにが問題なのか、それは英語の“発音”という点しか重視していないこと。日本人の言う「英語がペラペラ」は、発音がネイティブに近いという意味で、それだけで英語が堪能と思ってしまい、話しの内容が伴っていないことが多いのです。

 そんな英語など無意味だといいます。確かに、発音がネイティブでも、知識・教養がない人はなにをしてもダメなのは理解できますよね。教養・知識・思考力などを身に付け、きちんとした日本語がはなせるようになったうえでの英語であるというのです。母国語である日本語をきちんと話すことができず、話しの内容も薄っぺらい状態であるものは英語を学んでも、挨拶程度以上の会話はできないというのです。

それでも英語を学びたい人は・・・

 もちろん英語を必要とする人もいます。しかし、それは1割に過ぎず、残りの9割はまず読書をすべきであると成毛さんは提案しています。それでもどうしても英語を学びたいという人には、本書の最後に、成毛流英語学習法も載っています。

「頭の悪い人ほど英語を勉強する」 「楽天とユニクロに惑わされるな」 「英語ができても仕事ができるわけではない」 「インターナショナルスクールを出て成功した人はいない」 「早期英語学習は無意味である」 など、いままで英語を勉強してきた人の身にはショッキングな見出しが並ぶ、この本はビジネスマンだけでなく、子を持つ親も一度は読んで欲しい一冊です。

日本人の9割に英語はいらない

3億円の負債から見えるもの(ひとつ前の新刊ラジオを聴く)