ある日父親が認知症に 誰にとっても他人事じゃない「ワンオペ介護」の記録
高齢化が進む日本において、家族が認知症になるという事態はどんな家庭でも、どんな人にも起こりうる。
『お父さんは認知症 父と娘の事件簿』(中央公論新社刊)の著者・田中亜紀子さんの父もそうだった。田中氏によると、認知症と診断される前から、父の様子に異変を感じてはいたものの、「年のせいだろう」「ちょっとおかしいけど、まだ大丈夫だろう」と、自分をごまかすような時期が続いたという。しかし、気づくと父の人格が変わっていた。
■認知症と診断されても運転免許を手放そうとしない父
本書で田中さんは、父の認知症介護の過程で経験した恐ろしい出来事や面倒なこと、そして介護保険や公のサービスを活用し、「ワンオペ介護」をどのようにしのいでいったか、どんなことに救いや小さな希望見出していったかなどを綴っている。
一口に認知症と言っても、実はいろいろな種類がある。田中氏の父は、認知症のうち、日本で4番目に多い「ピック病」という病を抱えている。「自分勝手になる」「穏やかだった人が怒りっぽくなる」「急に泣いたり怒ったりする」などの傾向が表れ、理性的な行動が取れなくなるといった情緒的、人格的な障害が生じることが多い。
認知症と診断されても運転免許を手放そうとしない父との修羅場、もう少しで火事を出しそうになったヒヤヒヤな出来事など、日々さまざまなことが起こる田中氏の生活の中で、元気づけられるのが友人付き合いだった。
介護生活で夏もほぼ遊びに行けない生活の中で、友人にSNSや電話でいろいろ話を聞いてもらい、精神の安定を保っていたという。ただ、介護の話は人を選ぶ。家族の陰湿なトラブルの話は、誰もが聞く許容量があるわけではないからだ。幸い、田中氏の同業のライターや編集者の友人は酷い話への免疫があるのと、好奇心旺盛なのとで、時にはネタとして興味深く聞いてくれた。深刻な話や辛い話をしても、最後にはブラックな笑いとなって着地させることができる相手だったのだ。
そんな友人付き合いが、一人で介護をしていた田中氏の孤独に陥りやすくなっていた日々を紛らわせてくれたという。
認知症や介護は、その当事者にならないと本当の苦労はわからない。現在介護に悩んでいる人や予備軍の人にとって、田中氏の経験は知らないことや役に立つことも多い。本書から認知症、介護の現実を知っておくべきだろう。多分その現実は、今まで漠然と思い浮かべていたイメージとは全く違うはずだ。
(T・N新刊J P編集部)