だれかに話したくなる本の話

いつの間にか味方が増える「巻き込み力」の源

企画を立てれば周囲の人々を驚かせ、味方に巻き込む。
プレゼンテーションでは聴衆の心をわしづかみ。協力者が次々と現れる。

ビジネスシーンにはこういうすごい人が何人かいる。周囲を味方に引き込んで、自分のやりたいことをどんどん実現させてしまうタイプの人である。彼ら彼女らは特別な「カリスマ」であり、一握りの「天才」なのだろうか?

実はそうではない。『相手を巻き込む伝え方』(フォレスト出版刊)を読むと、こういう人々と「普通の人」の差は案外小さいのかもしれないと思えてくる。

では、人を巻き込む力の正体とは一体何なのか。この力がある人は、普通の人とどこがちがうのか。本書の著者、鵜川洋明さんにお話をうかがった。今回はその後編をお届けする。

(インタビュー前編を読む)

■パワフルに人を巻き込む人が共通して持つ「思いの強さ」

――たとえば、会社の中で新規事業を立ち上げたり、社内で何か提案を通したい時に、周囲のメンバーを巻き込みたいと思っても、みな自分の業務で忙しいなかで巻き込まれるのを嫌がるケースがあるかもしれません。こういう時はどうすればいいのでしょうか。

鵜川:小さい範囲でまずはじめて、形にしてみることは有効だと思います。小さなものでもいいので実績や現物を作って見せることは大きなインパクトがあるので。人は言葉だけを聞いていてもピンと来ないものですが、実績や現物を見せられるとイメージが湧くので。

たとえば10人くらい仲間を作りたいけど、3人しか巻き込めなかったら、その3人でとりあえず小さく始めて、何らかの成果が出たら残りの7人に見せる。「こんなことができたんだけど、一緒にやりませんか?」というように説得すれば、参加したいという人はだんだん増えていくはずです。多数派になればしめたもので、「あそこに乗っからないと」という空気ができていくと思います。

――温めているアイデアがあっても「みな忙しそうだから」と提案することをためらっている人にメッセージをいただきたいです。

鵜川:そこは超えないといけないところですね(笑)。しかし、勇気を出して言ってみても、「忙しいから無理」とか「へえ、いいじゃん頑張って(自分は手伝えないけどね)」と返ってくることはもう避けられません。ある意味、お店に入ったらいらっしゃいませと言われるくらい当然なものだと思ってください(笑)

でもそこからなんですよね、スタートって。一度言って断られたら、今度は別の人に言ってみる。同じ人であっても、何日か続けて話しかけていれば、昨日は断られたけど今日は興味を持ってくれるかもしれない。だからあきらめないことが大事です。そして、あきらめないためには、「それは自分が本当にやりたいことなのか」という問いに何度も立ち返る必要があります。

これまでやっていなかったこと、新しいことをやろうとしたら、面倒くさがって巻き込まれたくない人はやはり抵抗します。そこで折れてしまうかどうかは、本人がどれだけそれを実現したいかにかかっているんです。

――やはり「インサイドアウト」に行きつく。

鵜川:そうですね。極端な話、物事が成功したり、事業がうまくいったりというのは、やり方がすばらしかったりとか市場のニーズにマッチしていたという要素もあるのでしょうが、それよりも、やっている当人たちがどれだけそれを実現したいと考えているか、そのためにいかに必死で考えたかの方が大きいと思います。「これ、うまくいくかわからないけど、当たったらいいよね」くらいの気持ちだと、壁にぶつかったときに早々にあきらめてしまう。思いの大きさの違いはすごく大きいんです。

――それはそうかもしれませんね。

鵜川:私はファンケルという化粧品や健康食品のメーカーに勤めていたのですが、その会社が1995年に初めて直営店舗を出したんですね。

化粧品も食品も賞味期限・使用期限があるものなので、店舗を出してしまうと鮮度のコントロールと在庫のコントロールが難しくなるということで、通販が主体だったんです。

今でこそネット通販で化粧品を買うことが一般的になりましたが、当時はまだ店舗に行って買うのが主流でした。それもあってやはり店舗が必要だと創業者とその事業の立ち上げリーダーの二人は思っていたのですが、周りは役員含めて大反対だったそうです。

でも、そのリーダーはあきらめずに実現の道を探りました。そこからブレイクするアイデアを出しながら結果的に直営店舗を形にしたのですが、それが今ではファンケルの基幹事業になっています。これは実現したいという思いの強さが成功を生んだ例だといえます。

――「意味のイノベーション」についての個所が印象的でした。これは既存の物事を別の視点から見ることで、これまでになかった価値を生み出していくということですが、こうした視点を磨くためにどのような鍛錬が必要なのでしょうか。

鵜川:やはり、自分の内なる疑問や感情の動きを無視しないことでしょうね。「これは何だろう」とか「これはおもしろそう」とか「これはちょっとつらいな」といったものを自分の中にとどめて、どうなったらより良くなるのか、どうして違和感や疑問を持ったのか問い続ける。これを続けることが物事を別の視点で眺めるトレーニングになります。

ただ、かならずしも自分だけの力でやる必要はありません。他社、他業界で「意味のイノベーション」に成功した事例があったら、それを自分たちの会社や自分の業界に置き換えて考えてみるのもトレーニングだと思います。

――最後になりますが、読者の方々にメッセージをお願いいたします。

鵜川:この本をきっかけに、読んでくださった方がビジョナリーワーカーになってくれたらこれほど嬉しいことはありません。

新規事業をしたい人、自分でビジネスをやってみたい人など、何かやりたいことを形にしたいという思いが少しでもある人すべてに読んでいただきたいです。

それから「こうあってほしい」「もっとこうだったらいいのに」という思いやアイデアを持っていて、その価値を誰かと分かち合いたいんだけど、うまく伝えられないという人にとっても役立つと思うので、ぜひ手に取ってみていただきたいと思っています。

(インタビュー前編を読む)

(新刊JP編集部)

相手を巻き込む伝え方

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