ソリューション型ビジネス 能力を発揮する社員はここで見極める
「モノが売れない時代」と言われて久しい。
これまでのように、商品を仕入れ、営業をかければ売り上げが立つ時代ではなくなった今、企業にとって大事なのは、顧客の困りごとや潜在ニーズをいかに汲み上げ、その困りごとへの解決法として自社の商品を売るソリューション型ビジネスである。
『「最強」ソリューション戦略』(日本経済新聞出版社刊)は、このソリューション型ビジネスで勝つためのノウハウを明かす一冊。今回は本書の著者で、経営コンサルタントの高杉康成氏に、ソリューション型ビジネスに必要な要素や組織作り、そして失敗する原因について語っていただいた。注目のインタビュー後編をお届けする。
■ソリューション型ビジネスで活躍する社員の見極め方
――顧客ニーズを踏まえた提案力の磨き方についてもアドバイスをいただければと思います。
高杉:提案力はある程度先天的なものがあって、顧客のニーズに気づいて、それにマッチした提案をするのが得意な人がいるんですよね。
ただ、一定のレベルまでは、提案力は情報力とニアリーイコールとも言えますから、まずは自社の製品や顧客について、さらには顧客の顧客について深い情報を集めることです。
そこまでは前提としてできないといけませんが、提案の内容はパターン化できる部分もあって、成功パターンは部署内で共有することで、横展開できるようにするのもポイントです。こうすることで個人のスキルに依存しにくくなるので。
まとめると、提案力はもともとセンスがいい人がいるので、そういう人はより提案力を磨けばいいですし、自力で磨いていくこともできます。ただセンスがない人は、センスがいい人がやってうまくいった提案の事例をパターン化するという手がありますよ、ということですね。
――「教育システム」も組織としてソリューション戦略を展開していくためには重要です。ソリューション型ビジネスに適している人材とそうでない人材の違いを教えていただければと思います。
高杉:問題意識の高い人や、ちょっとした違和感、腑に落ちないことに気づく人はソリューション型ビジネスに適していると思いますね。
たとえばある顧客から「4リットルのポットが10個欲しい」と言われた時に「なぜそんなにたくさんポットが必要なんですか?」と聞ける人は、ソリューション能力の高い人です。なぜポットが必要なのかを突き詰めて考えると、本当のニーズはポットではなく別のものかもしれません。そこに気づいてすぐ質問できる人はセンスがいいというか、何か持っている。
一方で、何も疑問に思わず「すぐ見積もりします」と言ってしまう人は、あまりソリューションの能力は高くないかもしれません。
――しかし、「気づける人」はそう簡単に集まるものではありません。社内の人材を「気づける人」に育てるために、マネジメント側はどんな取り組みや指導をしていく必要がありますか?
高杉:やはり上司の毎日の教育でしょうね。特に大事なのが、客先に行く際の事前事後報告です。いきなり気づくようにはなりませんから、事前に「こういうことを聞いてきなさい」というヒントをあげる。何らかの開発情報(顧客の困りごとなど、潜在ニーズの把握につながる情報)を得られるようなヒントだといいですね。そして、事後ではとってきた情報をもとに、営業提案をするための作戦会議をしてフォローする。
うまいこと開発情報をとってくることができれば、いい提案ができるようになりますから、本人からしたら成功体験になります。「こうやって開発情報を集めるんだ」「こうやって提案するんだ」というのが、徐々にわかってくるはずです。事前にヒントを与えて、事後にフォローをするというのを続けることで教育システムが機能していきます。
――従業員の「モチベーション向上」も重要です。たとえば、部署のなかに顧客との情報のすり合わせがなかなか上達せず、やる気を失いかけている従業員がいたとしたら、どのように指導するべきだとお考えですか?
高杉:やはり先ほど同様、情報探索とかロールプレイングの事前準備ですよね。そこに時間をとってあげることです。
営業活動がうまくいかないケースの大半は準備不足なんです。なので、訪問件数を多少減らしても準備をしっかりとするように指導したり、実際に十分な準備ができたかをチェックしたりといった指導が有効だと思います。
――「組織支援」のところで、ソリューション戦略に適した組織づくりをについて教えていただければと思います。
高杉:本の中で、「1割の支援で9割を活かす販売支援組織づくり」と書いているのですが、組織図的なところでいうと、「1割」にあたる販売支援部門の置き所がポイントです。
――優秀な人は営業の現場に配置するのではなく、優秀な人こそ販売支援に置くべきと書かれていましたね。
高杉:そうすべきだと思います。1割の優秀な人が販売支援をして、残りの9割を生かすという考え方です。ですから、販売支援部門は営業部の部長よりも上位に来る方がいい。最低でも同位ですね。そうでないと、営業部が販売支援部の言うことを聞かなくなってしまうので。
――これまで培ってきたやり方を変えたがらない営業部が、販売支援部のサポートを拒絶する光景が目に浮かびます。
高杉:それぞれ視点が違いますからね。販売支援の視点は経営層に近くて、全体最適を優先させないといけません。端的には少数のエース社員に頼るのではなくて、80点の成績をあげられる人が10人いるような組織を目指す必要があります。
一方で、営業部は目の前の売り上げをどうあげるかという視点になりやすいので、少数のエースがいてうまくいっているようなら、それをわざわざ変えようとは思わない。結果、全体最適と個別最適の争いになってしまう。
販売支援を営業部の上に置くべき理由も、優秀な人を販売支援に配置する理由もそこにあります。優秀で、社内でリスペクトされている人の言うことならみんな聞くので。
――最後になりますが、本書の読者となる経営者の方々やマネジメント層の方々にメッセージをお願いいたします。
高杉:今回の本の一番の狙いは、質の高いソリューション、役立ち度の高いソリューションを実践するための戦略を解説することでした。
ビジネスの世界、結局は「どう勝つか」なんです。同じようなビジネスをしている会社の中でどう自分たち差別化し、勝っていくか。
ソリューションで差別化しようとすると、行きつくのは「質」と「深さ」です。どれだけ顧客の潜在的ニーズをとり、質のいい提案をするか。その方法をこの本では書いています。
とかく価格勝負になりがちな今のビジネスですが、いい提案をしていけば値段以上の価値を出だせる。たとえ商品力で勝てなくても、ソリューション力が高ければビジネスとして勝つことはできるんです。ですから、ぜひ深い提案ができる組織づくりを目指していただきたいと思います。この本は勝ち残るために必要なことを書いたつもりです。
(新刊JP編集部)