だれかに話したくなる本の話

「金銭的、時間的自由を手に入れてほしい」 起業を志す人へ、女性経営者のメッセージ(後編)

「起業すること」は以前よりもハードルが下がったように感じられる。資本金1円から会社を立ち上げられるし、自分のやりたい仕事をするために「起業」という手段を使うことも珍しくなくなった。

しかし、その一方でほとんどの企業が「続かない」というのも事実だ。
起業してビジネスを軌道に乗せ、継続していける企業にするために、経営者は何をすべきだろうか?

2社で代表を務める芳子ビューエルさんは、著書『私を幸せにする起業』(同友館刊)で、「簡単に起業をすすめるなんて無責任なこと」と喝破した上で、それでも起業を目指す人たちに向けて「自分の経験が少しでも役に立てば」と、自身の経営者としての半生と生々しい経営の現実をつづる。

また、もう一つの本書の特徴は、「働く女性」「働くお母さん」として経験したことをアドバイス含めて書きつづっているということだ。子育てをしながらの起業経営、周囲との人間関係など、ビューエルさんにしか語れない内容となっている。

今回はそんなビューエルさんにインタビューを行い、前半では自身の起業までの半生を振り返り、後半では女性が起業したときに起こることをお話いただいた。今回はその後編だ。

インタビュー前編はこちらから

(新刊JP編集部)

■「お金がなかったから、子どもとの時間を取ることができた」

――前半では起業当初までお話ししていただきましたが、起業間もなくの慌ただしい時代を経て、「ようやく落ち着いてきたな」と感じられるタイミングはいつ来たのですか?

ビューエル:化粧品販売が事業の一つなのですが、そのうちの化粧オイルがヒットして3万本売り上げたことがあったんです。そこで瞬間的にふと会社も、自分たちの生活も上にあがったような感じになりました。

債務超過の時期が長くて会社も生活も大変で、「いつになったら楽になるんだろう」と思っていました。でもこれくらいのヒットで何となく軌道に乗ったというか、そんなに大きな成功でなくても、会社って伸びていけるんだと思いましたね。

――ビューエルさんには起業されたとき、すでに3人のお子さんの母親でした。働き詰めで家族との時間が取れないというようなこともあったのではないでしょうか。

ビューエル:すごく忙しかったけれど、できる限りのことはしていたつもりだし、一生懸命な私の姿が子どもたちに伝わっていたと信じています。

自分は覚えていないこともあるんですが、子どもたちは私がやったできる限りのことを覚えているようで、例えば雪の日に子どもが熱を出して寝ていたら、私が洗面器いっぱいに雪を積んできて、枕元で一緒に雪だるまを作ったとか。何か普通の大人がしないようなことを結構したかもしれないですね。そういうことは子どもたちがすごく覚えているんです。

――少ない時間の中でもちゃんと子どもと関わる時間を持っていたんですね。

ビューエル:経営者ながらお金がなかったことも良かったのだと思います。私と同時期に起業した女性の方には息子さんがいるのですが、忙しいためご飯を作れなくて、いつもお金だけ渡していたそうで、結局グレてしまったそうなんです。

うちはお金がなかったから、忙しくてもできる限り一度家に帰ってご飯の支度をしていました。でも、私もお金があったら、それだけ渡して「コンビニで買ってきて」って言っていたかもしれません。

――この『私を幸せにする起業』は女性向けに書かれていますが、やはりいまだに女性の経営者は少ないと思います。そこにはどのような問題があると思いますか?

ビューエル:日本は独特ですよね。暗黙の了解であったり、空気を読めという文化や気質の中で、「男性は仕事をし、女性が子育てをすべき」という昔からの考え方や美徳がなかなか消えない。そのような価値観は薄くなってきているとも思いますが、それでもまだ強く残っています。

――ビューエルさんが起業された頃(1990年前後)は、その価値観がより強かったのではないでしょうか?

ビューエル:すごくありました。それは今でもそうで、小学校に保護者向けに講演に行くと7割方のお母さんは仕事と子育てを両立しています。仕事をしていない親御さんのほうが少ないですよね。

その両立も保育園や学童保育などの制度を使って頑張っているけれど、やはりギャップはまだまだ埋められない。保育園は午後4時までなのに、仕事は午後6時までとか、カバーできる制度が整っていなかったり。「男性は仕事で成果を出すもの」という考え方も強く残っているので、お父さんに仕事を休んでもらうこともしにくい。となると全部お母さんに負担が行ってしまう。

それに、女手一つで子どもを育てているシングルマザーの方々も本当にすごいと思います。

――女性が子育てと仕事を両立しながら、キャリアを積み重ねていけるように経営者はどんな配慮が必要でしょうか?

ビューエル:これはすごく難しいと思うんです。女性の場合、結婚、妊娠、出産そして子育てというイベントがある中で、普通で考えるなら時間か成果報酬のどちらかで管理するしかないんですよね。その両方で管理することはできません。

だから時間で管理ということになるんですけど、私はすごく迷って成果で管理をするようにしました。初めて女性社員が妊娠して、出産を経て会社に戻ってくるにあたり、どういう風にすればいいのか考えて。それで、勤務時間ではなく成果で見てみようと。そうすれば、時間の融通がきくようになりますからね。

――ビューエルさんの会社では女性が営業として活躍されているそうですが、そういう背景があるからなんですね。

ビューエル:そうなんです。だからその女性社員もすごく頑張ってくれて、本当に活躍しています。思い切った選択をしたと思うのですが、今は一番しっくりくる形になったと思います。

――今後もその方針は変えずに?

ビューエル:社会情勢も変わっていくので、何かしらの変化はあると思います。制度的な影響もあるでしょうし、合わせていくしかないかなと。

――これまで30年間会社を経営してきて、経営者が求められる素質はなんだと感じますか?

ビューエル:柔軟性とバランス感覚ですね。年齢を重ねてくるとだんだん凝り固まってしまいますから。

――では、起業を志す人やフリーランスとしてやっていこうとしている若い人たちにメッセージをお願いします。

ビューエル:起業というチャレンジを通して、会社員でいたら得ることができない金銭的、そして時間的自由をぜひ手にしてほしいです。特にフリーランスとしてやっていくのであれば、その部分はすごく魅力になるはずです。

――最後にビューエルさんが「起業して良かった」と思う瞬間はなんですか?

ビューエル:うーん、なんでしょうか(笑)。いつも大変でしたからね。でも毎日がハラハラドキドキしています。何も起こらない平凡な毎日がいいと思う人は起業をしないほうがいいと思うけれど、私はどうせ生きていくのであれば、ワクワクとドキドキがあったほうが幸せだと思うので。そういう意味では良かったなと思いますね。

(了)

インタビュー前編はこちらから

私を幸せにする起業

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起業はとことん“自分ファースト”でいい。

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