体力のない中小企業が採用すべき「ストックビジネス」、その意外な始め方とは?
「ストックビジネス」に対して、どのようなイメージを持っているだろう。
多くの経営者や事業責任者は、会社に安定収益をもたらすビジネスではあるが、ビジネスとして軌道に乗せるまでにそれなりの時間と労力がかかる、と考えているのではないだろうか。
ただ、継続した売上をもたらすストックビジネスは中小企業にとって強い味方となる。
だからこそ、ストックビジネスの成功確率を上げる方法をぜひ知っておく必要があるはずだ。
今回は『中小企業の「ストックビジネス」参入バイブル』 (クロスメディア・パブリッシング刊)の著者で、自らの企業でもストックビジネスの多角化経営を成功させている小泉雅史氏にインタビュー。後編は中小企業でも応用できるストックビジネスの手法について教えていただいた。
(新刊JP編集部)
■時間と労力が必要なストックビジネスの成功確率を高めるには?
――前編の最後でストックビジネスのメリットとデメリットについてお聞きしましたが、「立ち上げから軌道に乗るのに時間や労力がかかる」というデメリットを解決する方法はあるのですか?
小泉:その部分を解決する方法を本書で書いています。具体的には「投資・M&A手法」を使うことで、デメリットとなっている時間とビジネスシステム構築の問題を一気に解決し 、素早く参入できる仕組みを提案しています。
――「投資・M&A手法」とは何ですか?
小泉:本書は 日本の中小企業の経営力の底上げに貢献したい気持ちもあり執筆させていただいたのですが、その多くの中小企業は「社内経営リソース不足」という問題を抱えて います。それを解決するのが「投資・M&A手法」です。
つまりウォーレン・バフェットや孫正義さんと同じく、M&Aで事業を買収したり、投資によってノウハウを外部から手に入れるというやり方です。立ち上げがなぜ難しいかというと、ゼロからノウハウを築き上げていく手間と時間がかかるからです。
――だから、仕組みをまるごと買ってしまってノウハウを築き上げる過程を省くということですね。
小泉:そうです。なんでも自社で立ち上げることにとらわれている日本の経営者は多いですが、投資・M&Aで一気に「獲得」してしまうという発想を持つべきです。立ち上げはこれからの「計画」にお金を投じますが、投資・M&Aは実稼働している「実績」のあるビジネスにお金を投じる行為です。どちらが合理的かはすぐわかると思います。
ただ、ストックビジネスは積み上げですから、短期間で大きく儲けたいときには不向きなんですね。フロービジネスの方が数字的な華やかさもあるのでどうしてもそちらに目がいってしまいがちです。
――たしかに「ストックビジネス」は育てるビジネスだと思います。「育てる」やり方は効率的ではないから避けて、M&Aや投資をすべきということでしょうか?
小泉:いえ、そういうわけではありません。M&A・投資したストックビジネスを維持していくことも重要です。その過程で育てていく必要はあります。ただ、今やっている本業をストック化するパターンや新規事業を0から立ち上げるパターンと比べると、すでにある程度育ったビジネスを獲得するわけですから、一から育てる時間を大きく短縮できるということです。中小企業にありがちな「社内経営リソース不足」も一気に解決できます。
■ZOZOはストックビジネス?
――実際にストックビジネスで安定した収益をあげている企業はどのようなところがありますか?
小泉:本書で紹介した企業事例としてはAmazon、マイクロソフト、ドクターシーラボ、パーク24、クックパッドなどがあります。他にたとえば31期連続で増収増益の家具製造小売業のニトリは家具だけではなく生活必需品も揃えており、リピート率が高いストックビジネスの仕組みをつくっています。
――今、話題のZOZOはいかがでしょうか。
小泉:ZOZOは(最近ユニクロと同じ製造小売業を目指していますが)基本的にはメーカーではなく、アパレルの小売業なのでAmazonと同じリテーラーモデルです。本書では「自社に合ったストックビジネスの見つけ方」の章でAmazonを「エリアトップ小売型」として紹介しています。ようは、特定エリア(商品カテゴリー・地域など)で規模や品揃えを活かして一番店を目指すビジネスです。そのカテゴリーの買い物客のリピート率が非常に高い小売業なのでストック性のあるビジネスです。アパレルの中ではZOZOはエリアトップ小売型としてストック性が高い仕組みをつくっていると思います。
――ストックビジネスで失敗をしてしまうケースもあるかと思います。たとえば、全く顧客が増えないなどがあげられると思いますが、そうした失敗ケースの共通点はどこにありますか?
小泉:これは本書の「失敗しないストックビジネス参入ノウハウ」に詳しく書いたのですが「多角化経営 3つの基本戦略」をしっかり実践できていない企業です。詳しくはぜひ書籍を読んでいただきたいですね。
簡単に言うと、ニッチ独占型ストックビジネスを上手く構築できていない企業、余剰資金を投資・M&Aサイクルで回せていない企業、ROIC(投下資本利益率)で事業の取捨選択ができていない企業です。
独占性の低い低収益ビジネス、投資・M&Aの失敗、数値による事業管理が徹底できていない企業がストックビジネスで失敗してしまう企業ですね。
――それではここで、投資・M&Aによるストックビジネスを始めようと考えている経営者、もしくは新規事業担当者に向けて、アドバイスや必要な考え方をご教示ください。
小泉:本書の「投資・M&Aによるストックビジネス多角化経営法」はストックビジネスの安定収益を、さらに事業ポートフォリオで複合的に多角化・リスク分散化させるという非常に盤石な「守りの経営」を構築する部分と、投資・M&Aで一気に社外リソースを獲得して参入・拡大する「攻めの経営」手法を併せ持つ、「堅守速攻」型の経営法です。
ウォーレン・バフェットや孫正義さんが実践し、結果を出しているビジネス経営手法でもあり、上手くやれば巨大な企業に自社を成長させることが可能です。まずは本書を読んで頂き、2つのスキル、「ストックビジネス多角化経営法」と「投資・M&A手法」の基礎を身につけてください。そして、自社の資本力に応じて、まずは小さく実践してみてください。
本書でも書きましたが、資本力に応じて、投資・M&A案件は数百万円から数千億円くらい まで、さまざま存在します。だれでも体力に応じて始められる経営法だと思います。
――最後に、本書をどのような方に読んでほしいとお考えでしょうか。
小泉:3つの読者層を想定しています。まずは、安定収益の多角化、複数の収入の柱をつくりたいと願う中小企業の経営者。そして、ストックビジネス参入に興味がある新規事業開発の担当者や投資・M&Aを検討している経営企画担当者など。最後にストックビジネス成功企業の事例を研究したい大学経営学部やビジネススクールの学生です。
特に経営に悩んでいる経営者はこの経営法を知った瞬間に頭の中がスパークするかもしれません(笑)。目からウロコと思うことが書かれているはずなので、ぜひ参考にしてみてください。
(新刊JP編集部)