人生の質は口内環境で決まる?人生100年時代に知るべき口内ケアの重要性
普段、当たり前のように使っている「歯」。
虫歯にならないよう歯みがきをすることを欠かさない人は多いかもしれないが、歯の本当の「大切さ」と「怖さ」を知る人はあまりいないのではないだろうか?
歯科医師であり、咬み合わせの名医として知られる安藤正之氏は、著書『人は口から死んでいく──人生100年時代を健康に生きるコツ!』(自由国民社刊)で、「口の中は“小さな地球”。その環境を大切にすれば人生は変わる」と述べ、「歯」や「口」や「舌」の健康を保つことが、さまざまな病気の原因を取り除くことにつながると指摘する。
■歯は「第三の心臓」である
よく、「ふくらはぎは第二の心臓」と言われる。心臓から送り出された血液は、静脈を通って心臓に戻る。その際、動力となる筋肉がない静脈の代わりに、歩くことで筋肉を収縮させて下半身の血液をポンプアップしているのがふくらはぎだからだ。
血流を担うということでいえば、「歯」は、ふくらはぎに次ぐ「第三の心臓」といえる。全身の血流のうち7割をふくらはぎが、そして、3割が「歯」のポンプによって循環していると安藤氏。よく噛んで食べることで、首から上の血流が促進されるという。
一方、咬み合わせが悪かったり、片方の歯だけで噛んでいたり、歯を失ってしまうと、血流が滞りやすくなり、口の中だけでなく全身に不調をきたす恐れがあるそう。「人生100年時代」と言われているが、体の不調を抱える人生は辛いばかりだ。日々の歯みがきや口腔ケアはもちろん大切だが、まず、歯の持つ役割とその大切さを知ることは何よりも重要だろう。
■身体の中で唯一無二な構造をしている「歯」
人間の身体の内外は、皮膚や粘膜などのバリアで守られている。ところが「歯」だけは体の中と外を貫いて生えている特殊な存在だ。
安藤氏は、このような構造をしている歯を「腕に釘が刺さっているようなもの」だと喩える。
この喩えから想像するとわかりやすいが、歯は、体の内と外でつながっているため、虫歯や歯周病になると、その菌がさまざまな臓器に届く。すると、全身の健康にも影響するし、アレルギーや自己免疫疾患などの原因にもなりやすいのだという。
たとえば、心筋梗塞で亡くなった人の冠動脈の血栓を調べる研究では、血栓の中から歯周病菌が多く発見されているという報告もある。また、虫歯菌は歯を溶かすことで毛細血管から血流にのって、全身に悪影響を及ぼす可能性がある。最近では、「虫歯が脳出血に関与している」という研究報告も注目を集めているという。少し怖い話だが、歯は健康にとってそれだけ重要な体の部位だということだ。
■「舌のストレス」が体に及ぼす意外な影響
安藤氏は、口の中は「小さな地球」だと説く。地球には海と陸地があり、そこには多くの生物が住む。口の中にも「唾液の海」「歯の山脈」などがあり、そこには数百種類、数千億個の微生物が住んでいるからだ。そして、口の中には「舌」という「巨大生物」がいる。
安藤氏は研究を重ねる中で、「舌」の重要性に気づき、「舌ストレス」が健康に影響を及ぼす可能性があることを指摘する。
舌は非常に敏感で、歯にぶつかったりこすれたりしないよう24時間動いており、たった1本の歯が尖っているだけで緊張して縮こまるという。
舌が委縮して引っ込むと、下あごもそれに合わせて引っ込む。その連鎖で頭蓋骨が傾き、首や骨、背骨のバランスを崩す。その結果、筋肉や神経に負担がかかり、頭痛や肩こり、めまい、腰痛などの不定愁訴を招くのだという。
もし、身体に慢性的な不調があるなら、可能性の一つとして、口の中が舌にストレスを与える環境になっていないかを疑ってみることも必要なのかもしれない。
(ライター:大村 佑介)