経営者が営業をしたらNG! 持続的に成長する企業の作り方
「あなたの会社のビジネスモデルはどのようなものですか?」
そう問われて即答できる経営者はどのくらいいるだろうか。
経営者にとって最も重要な仕事はもちろん経営だ。では、経営をするということは何を指すのか。それは、会社が儲かるための戦略を考えることに他ならない。
今や、良いモノやサービスを提供するだけでは立ち行かない時代だ。
全国380万社の中小企業のうち、約80.5%は年商1億円を超えていないと言われているが、そんな状況を脱するためには、経営者が「儲かる仕組み=ビジネスモデル」を考えなければならない。それも長期的に継続していく売上が出せるビジネスモデルが必要だ。
しかし、中小企業経営者の多くは、自社のビジネスモデルを突き詰めて考えたことがないのではないだろうか?
ビジネスモデル構築のノウハウを指南する『すぐに1億円 小さな会社のビジネスモデル超入門』(ダイヤモンド社刊)は、中小企業経営者にとって、実にわかりやすい内容になっている。本書はストーリー+解説という構成で、紹介されている事例も中小企業や個人経営店などの小さな会社ばかりだ。
そんな本書の著者、株式会社Carity最高顧問であり「No.1ビジネスモデル塾」の講師を50期以上に亘って務める高井洋子氏に、ビジネスモデルのつくり方とポイントをうかがった。
後編となる今回は、「ビジネスのストック化」を実践するための方法について詳しく解説していただく。
(取材・文:大村佑介)
――本書の中で、「ストックビジネス」と並んで、もうひとつのキーワードになっているのが「ジョウゴの法則」です。こちらについてもお教えください。
高井洋子(以下、高井):ジョウゴというのはご存知かと思いますが、液体を別の容器に移したりするときに使う、注ぎ口が広くて、先が細くなっている道具です。あの形をイメージした集客から販売までの流れを「ジョウゴの法則」と呼んでいます。
継続的な売上を出していくためには、本当に儲かる「本命」のサービスや商品がなくてはいけません。この「本命」のサービスや商品を売るためには、集客のための「おとり」の商品やサービスをつくる必要があります。
おとり商品というのは、気軽に買って頂けたり、消費したいという感情を引き起こしたりするものです。
たとえば、女性は必要でないものでも「カワイイ」というだけで買ったりしますよね。他にも「みんなが持っているから」という理由でほしくなって買うこともあります。そういうふうに、気軽に買えるものが「おとり」の商品やサービスです。
ネットのビジネスでは「アカウント5つまで無料で使えます」とか「○ヶ月無料」というのもあります。無料は敷居が低いので使ってもらえますよね。これも集客のための「おとり」です。
――確かにインターネットをしていると、よくその言葉を見かけます。
高井:でしょう。この「おとり」を入り口にして、最終的には「本命」を売らなければいけません。
でも、儲けが出るような価格の高い「本命」の商品をいきなり売っても、なかなか買ってはもらえませんよね?
そこで、「おとり」と「本命」の間に、「リピート」の商品やサービスを入れます。
「リピート」の商品やサービスでお客様とコミュニケーションを図り、関係性をつくってから「本命」を売りましょう、というのが「ジョウゴの法則」の全体像です。
先にお話しした美顔ジェルの例で考えてみますね。
お店がエステサロンだとして、商品はしっかりとした売上を出すために高級美顔ジェルだとしましょう。
まず、集客のために初回半額とか無料といったサービスを打ち出します。これが「おとり」です。
次に、お客様の囲い込みをするために「リピート」となる商品やサービスを提供していきます。たとえば、エステ施術の割引サービスや比較的低価格なコスメを利用していただいて、競合他社に目移りしないような関係性をつくります。
そうやって関係性ができたところで、継続的な売上が立つ「本命」商品の販売へ移るわけです。
もちろん、各プロセスでお客様に提供するサービスや商品は、質の良いものであることが大前提なので、自社の商品やサービスを常にブラッシュアップしていくことも必要です。
このようにして、ストック化して儲かる仕組み――ビジネスモデルをつくる戦略は、どんな業種の経営者にも必要です。しかし、優しい目で見ても80%、厳しく見れば95%くらいの経営者の方が、こうした仕組みを持たないままビジネスをしていますね。
――なかなかシビアな数字ですね。ちなみに、ビジネスモデルを持たないままビジネスをしている経営者の方の共通点というものはありますか?
高井:まず、経営者の方が自ら働いてしまっていますよね、戦術となって。
経営者がやるべきことは戦略をつくることです。「自分が動いて売上を出さなきゃいけない」ということは、そもそもビジネスモデルがないからでしょう。
そういった経営者の方々は「社長」と「経営者」の違いが曖昧なのかもしれませんね。「社長になりたい」と言われる方は多いですけれど、「経営者になりたい」という人は少ないですから。
会社や企業のトップは「経営者」なので、営業や開発ではなく「経営」が仕事ですよね。そこでなんでもかんでも自分でやろうとしてしまうのは、経営者の姿ではありません。
このことについては、ビル・ゲイツ氏がいい例だと思うんです。
彼はCEOとして経営をやっていたけれど、クリエイティブな人だから経営がつまんなくなってしまって、自分が開発部長になってゲーム機のXboxをつくってたりしていました。
けれど、彼は社長の座にいながら開発部長をやっていたわけではないんですよ。やはり、経営は経営、開発は開発ということをわかっていらっしゃる方です。
営業社長になってしまうと、当然、経営は疎かになります。結果、戦略を練る時間もつくれないから儲からない、という悪循環に陥るわけです。
――そういえば、今回お話を伺っていてもそうですが、本の中でも「儲かる」という言葉をよく使っておられたのも印象的でした。
高井:そうですね。「儲かる」という言葉は多くの人がその意味を誤解していると思うんです。
私が経営者の方に「儲かっていますか?」と聞くと、「儲かる」の意味が分かっている方は「儲かってますよ!」と答えてくださるのですが、意味がわかっていない方は「ボチボチです」とか「言いたくないです」と答えるんです。
「儲かる」という漢字は、「信じる」に「者」と書きますよね。ビジネスは、やっぱりお客様や社会から信用されたり信頼されたりしないと、お金の意味でも儲からないんですよね。 だから「お金儲け」って、結局は「人儲け」なんです。顧客の方々に信頼され続けない限り、儲かりませんから。
だから、「儲けることなんて簡単よ」と言うと、がめつい人だと思われがちですけれど、そうではありません。
ちゃんと「お金儲け」をするなら「人儲け」することが必要です。人儲けするとは何かというと、顧客に信頼されるモノやサービスを提供した上で、関係性をつくる。そうやって囲い込みができていないと儲かりませんよ、という意味合いなんです。
――なるほど。そういう意味合いがある、と。「儲かる」のお話に関連してうかがいたいのですが、高井さんは「儲かっているお店があると偵察に行く」というお話を本書の中で書かれていましたけれど、実際に偵察に行くとどういうところを見るのでしょうか?
高井:飲食店だったら、まずはターゲットと客単価ですね。どこをターゲットにしているかというのはすごく重要です。そのターゲットと単価がズレているとうまくいきませんから。
あとは、店員さんにそれとなく色々と質問をします。
私は今、シンガポールに住んでいるので「日本人客と現地のお客さんは何%くらい?」「何が一番人気なの?」「リピーターの人はどれくらいいる?」とか、具体的なことを聞きます。追加注文する際とかにさりげなく聞くと、結構、みんな答えてくれますよ。
――すごいですね。常にビジネスモデルについての好奇心があるんですね(笑)高井さんは株式会社Carityの「No.1ビジネスモデル塾」の講師を50期以上続けておられますが、ビジネスモデル塾をやっていて、ご自身にプラスになることはありますか?
高井:ビジネスモデル塾には、これまで900社近くの塾生さんが来てくださっているので、よくわからないという業種業態がないんです。
いろんな塾生さんにアドバイスができるように、自分自身もその業種についての知識を習得しようとアンテナが張り巡らされているので、そういった意味ではいろんな業種業態のことを理解できていると思います。
あとは、旧態ビジネスと今のトレンドが、時間軸でわかっているというのもあります。時代背景も含めて、この時代はこういうビジネス、という流れですよね。旧態ビジネスだけではなく、今のビジネスモデルも捉えて、その変遷が把握できていると思います。「今からそんなビジネス立ち上げても儲かりませんよ」ということもアドバイスできないといけないので。
そういう意味では、来てくださっている塾生さんに育てて頂いたという部分もあるので有難いことです。
――最後に、ビジネスモデルを持たずに悪戦苦闘している経営者の方にメッセージをお願いします。
高井:今回の『すぎに1億円 小さな会社のビジネスモデル超入門』は、本当にわかりやすく書いているので、ぜひ多くの方々に読んで頂きたいです。
これからの世の中はAI社会だと言われていて、職業がなくなるなんていう話もあります。
でも、これからは逆に小さい会社や中小企業がAIを導入していって、任せられる仕事はAIに任せる。そして、どんどんアイデアを出す時間をつくる。そうやってビジネスの原点である目の前のお客様を喜ばせるという目的を忘れず、お客様の囲い込みをしていくことが重要だと私は思っています。
経営者はお客様を大事にしたいという気持ちがあると思うんです。その気持ちを形にするには、ビジネスモデルや戦略が絶対に必要です。多くの経営者の方々は強い気持ちを持っていても、ビジネスモデルに関して甘いところがあります。それを今回の本から学んでもらえたらと思います。
(了)