だれかに話したくなる本の話

本好きアイドル・夢眠ねむ、“ミーハー読書”のススメを語る

でんぱ組.incの夢眠ねむが自分の本屋を開いたら、一体どんな本が並ぶのだろう――。

本好きとして知られるアイドルの夢眠さんが、自分の書店である「夢眠書店」をいつか開店させるために、出版業界と本作りのイロハを学ぶ一冊が本屋に並んでいる。『本の本: 夢眠書店、はじめます』(新潮社刊)である。

本書は出版取次の日販が運営する「ほんのひきだし」の連載をまとめたもの。本作りのキーマンたちとの対談を通じて、本の魅力や面白さに迫っていく。

夢眠さんは対談を通して、一体どんな書店を作りたいと考えたのか? そして本にかける想いとは? 前編と後編の2回でお届けする夢眠ねむさんへの「本」にまつわるインタビュー。前編では取材に行った場所からいくつかの印象的なシーンと、夢眠さんの好きな本についてお話を伺った。

取材・文:金井元貴(新刊JP編集部)

■本に囲まれることが幸せ

――『本の本』、読ませていただきましたが、最初の感想は「とにかくマニアックな内容」でした。出版業界のことを追いかける本って専門的な話になりがちなので。でも、業界外からの視点で夢眠さんが出版について探っているので、分かりやすかったです。

夢眠:内容はポップな感じになればいいなと思っていました(笑)。もともと本が好きで、実際に本屋さんで働いていたこともあったので、POPとか本の陳列とか、そういう部分は分かっていたんです。

ただ、今回、本を作るところから全部遡って、一冊の本が私たち読者に届くまでを追いかけると、想像つかないくらいの規模感がありましたね。

――取材を通して特に驚いたことはなんでしたか?

夢眠:取次会社の日販さんの王子流通センターの取材ですね。本って1日でこんなに動いているんだって思いました。

――流通センターは、出版社から搬入した本を仕分けて書店に発送する倉庫ですね。

夢眠:そうです。私が見学したのは王子流通センターというところなんですけど、そこでは1日約180万冊から200万冊を書店に出荷しているそうです。あんなに規模が大きいのに、小さい本屋さんからの注文にもちゃんと対応していて素敵でした。

――流通センターの中で本に囲まれて写っている夢眠さんの写真がとても楽しそうです。

夢眠:「イエーイ!」って表情をしてますよね(笑)。ここ、本しかないんですけど、本好きからすると、お宝の山にいる感じがして面白かったです。

――本好きって、基本的に本がたくさんある場所に行くとテンション上がりますよね。

夢眠:図書館とはまた違うんですけど、本がたくさんあって、なんだか楽しい気分になりました(笑)。

■夢眠ねむ作の絵本「いろんな胃」

――絵本・児童書の専門出版社である偕成社さんへの取材では、文章から夢眠さんのテンションが少し違うなと感じました。

夢眠:絵本がすごく好きなんです。多分、絵本ってみんなにとって最初の読書体験だと思うんですよね。私もそうですし、本を読む=勉強というイメージを持っている人も、幼い頃は絵本を読んで楽しんでいたと思います。

自分が大人になった今でも、絵本を通して得たことが大事なものとして残っています。子どもの頃、食べ物が載っている絵本ばかり読んでいたんですけど、料理好き、ごはんが好きなのは、多分その頃に培ったものなんでしょうね(笑)。

――子どもの頃に読んでいた絵本って確かに心に残りますよね。

夢眠:残りますよね。今でも覚えているのが『からすのパンやさん』です。小さなパンが全体に並んでいるページがあるのですが、当時、子どもなので俯瞰してページ全体を見られないので、無限にパンが置かれていると思っていたんです。それがすごく印象的でした。

その後、学生時代に「絵本を描きたい」と思って実際に描いたこともあります。

――それはどんな絵本だったのですか?

夢眠:テーマは「胃」です。

――「胃」ですか。

夢眠:そうです(笑)。「お父さんは胃潰瘍、お姉さんは胃下垂、いろんな胃があるけれど、人間にたった一つしかない大切な胃だ。ジャーン!」みたいな絵本でした。

――ぜひ出版に向けて動きましょう。他に印象に残っている絵本って覚えていますか?

夢眠:自分の名前を打ち込んで注文をすると、主人公の名前が自分になって届くという絵本があったんです。『おてつだいできた!』という作品なんですけど、お母さんのハンバーグ作りをお手伝いするというストーリーで、大好きでした。

それで、どこかでその絵本の話をしたら、ファンの子に「私もその絵本持っていました!」って言われて、すごく嬉しかったです。自分が物語の主人公になれるってその時が初めての経験でしたし、印象に残っていますね。

■憧れの人に会えて泣いてしまった過去

――この本で、絵本と並んでテンションの高ぶりを強く感じるのが、装幀家ユニット「クラフト・エヴィング商會」の吉田浩美さん、吉田篤弘さんとの鼎談です。夢眠さんはこの2人が書いた『クラウド・コレクター』という本を学生時代に読んで以来、ファンだそうですが、今回お話できた感想は?

夢眠:めちゃくちゃ嬉しかったです! 本当に大好きで上京したての頃、サイン会にも行ったことがあって、感動して泣いてしまったんですよ。だから、こういう風に一緒にお仕事できるのは嬉しいですし、緊張もしました。

自分が憧れている世界観を作っている方々ですから、なんかファンとの交流の時間になってしまっているかもしれません(笑)。

――分かります。自分の憧れている人であればあるほど、想いを伝えるだけでいっぱいになりますよね。

夢眠:そうです!だから、他の対談よりも浮ついた感じがあるかもしれません(笑)。

――『クラウド・コレクター』を最初に読まれたのは小学生の頃だそうですが、どのように出会ったのですか?

夢眠:出会いは本屋さんでした。当時、大阪の上本町にある近鉄百貨店の本屋さんによく行っていたんですけど、そこにこの本がバーン!と並べられていまして。装幀がかっこいいし、これ欲しいってお母さんにお願いしたんです。

でも2500円くらいするし、字も小さいし、本当に読める?と聞かれて「絶対読む!」って言った記憶があります。

――自分にとっての大切な本って、不思議とどこで手に入れたか覚えていますよね。

夢眠:覚えているんですよね。棚の上のほうにこの本が並べられていて、上を見て、ピカピカ光ってる本がある、あの本が欲しいって思ったことも記憶しています。

――夢眠さんの目から見たら光り輝いていたんですね。でも書店の棚を見ると、あまり上のほうって見ないですよね。これは特別だったのですか?

夢眠:そうです。目に入ってきた瞬間に「あ、格好良い!」って。自分が表現するものにも、この『クラウド・コレクター』の装幀のデザインに影響を受けていると思いますし、紙の手触り、風合いも良くて…。初めて衝撃を受けたという感じでしたね。

■読書は「ミーハー」からスタートして良い!

――読書って何がきっかけになるか分からないですよね。装幀や表紙のデザインから入ることもあれば、誰かが好きといっていた本を読んでみるのもいいし。

夢眠:そうですよね。numabooks代表の内沼晋太郎さんとの対談の中でも言っていますけど、私は「ミーハー読み」でも良いと思うんです。

例えば、私は文豪が好きなんですけど、その文豪のルックスであったり、生き様であったり、そういうところに興味を持って読み始めるみたいな感じです。気になった文豪が書いた文庫本をまず一冊、読んでみる。そういう入り方も良いと思うんですね。

――なるほど。ちなみに、夢眠さんが気になっている文豪は誰ですか。

夢眠:森鴎外です。森鴎外もかなり変わった人生を送っていますし、森茉莉さんの本も好きなので、森一族が気になっています。

私、森鴎外が気になり過ぎて、宮島の「岩惣」という旅館に泊まりに行ったことがあるんですよ。本当に最高の旅館で、そら文豪も愛するわって思いました。窓を開けると、川のせせらぎが聞こえてきて、俳句を詠みたくなるような。

――かなりミーハーな行動といいますか(笑)。でも、文豪が愛した味とか気になりますよね。

夢眠:そうそう! 私の活動は秋葉原界隈が中心なんですが、池波正太郎先生が愛した蕎麦屋さんやあんこう鍋屋さんが淡路町にあって、その近くを通ると想いを馳せたりします。本の内容ももちろん気になりますが、ここでどんな話をしたんだろうとか、聖地巡礼みたいな。

――文豪の聖地巡礼ですね。

夢眠:そうです! 和食屋さんで「文豪が愛した味」を掲げているお店がありますが、そういうところに行ったりするのも聖地巡礼の一つだと思うんです。「文豪が愛したカツ丼」、食べたいじゃないですか。

――それは…食べたいです。

夢眠:でしょ? そういうところから興味を持って本に親しんでほしいというのがあって、ミーハーなのって格好悪いと思う人もいるかもしれないけど、作品を愛して、作家を愛して、その作家が愛したものを愛して。

本好きって、掘り起こしていくのがすごく好きな人が多い印象がありますが、入りはミーハーでもどんどん入って掘り起こしてほしいなと思います。

(後編は2月1日配信予定!)

■夢眠ねむプロフィール

7月14日生まれ。三重県伊賀市出身。多摩美術大学卒業。
アイドルグループ「でんぱ組.inc」のメンバー。愛称は“ねむきゅん”。みえの国観光大使。他の著作に『ゆめみやげ』『まろやかな狂気』『夢眠軒の料理』などがある。

本の本: 夢眠書店、はじめます

本の本: 夢眠書店、はじめます

編集と校閲の役割から装幀の現場、書店の1日まで、現役アイドルが謎多き本の仕事に迫ります。

この記事のライター

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金井元貴

1984年生。「新刊JP」の編集長です。カープが勝つと喜びます。
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audiobook:「鼠わらし物語」(共作)

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