だれかに話したくなる本の話

最もシンプルな書籍名を勝手に選定! 「日本一“タイトルが短い”本」を調査してみた

ゼロ年代後半になってビジネス書、小説などの「長いタイトル」が目立つ時期があった。

しかし、近年ではそのブームも落ち着き、反動からか「短いタイトル」の書籍がチラホラみられるようになっている。

このままいけば、よりシンプルで、より短いタイトルが、出版界の流行になるかもしれない。
そこで、現在までに出版されている書籍で**「世界一“タイトルが短い”本」**は、どの本なのかを調べてみた。
――とは言ったものの、このテーマは結果が見えている。

なぜなら、「一文字」未満のタイトルはあり得ないからだ。

商品と売り出す以上、何かしらのタイトルがなければ商品として判別できない。
だから、万国共通で、「一文字」が最短であることは間違いない。
したがって、ギネスブックなどでも記録として採用されることがないので、独自に調査をしてみることにした。

だが、世界中の書籍を調べることは到底無理だ。そこで、調査を**「日本一“タイトルが短い”本」**に切り替えた。

どんな国でも「一文字のタイトル」が最短であるならば、「日本一」は、「各国の一文字タイトルの書籍と同率で一位」と考えていいはずだ。

このように己を正当化し納得させるレトリックで、筆者はさっそく調査に乗り出した。

■意外に多い!? 「漢字一文字のタイトル」

一口に「一文字タイトル」と言っても、漢字、ひらがな、カタカナ、アルファベットや数字、記号など、さまざまにある。

漢字の「一文字タイトル」で有名なのは、時代小説家・綱淵謙錠氏の作品だ。

『剣』『鬼』『乱』『苔』(いずれも中央公論新社刊)、『幻』『殺』『狄(てき)』『妍(けん)』(いずれも文藝春秋刊)など、長編短編合わせて48作品もの「一文字タイトル」がある。

『妍(けん)』のあとがきで綱淵氏は、「漢字への郷愁と言おうか。全て音読みにしているところに私のみそがある」と述べており、一文字でタイトルをつけることに、こだわりがあったことが窺い知れる。

他にも、漢字一文字でのタイトルの書籍は多い。
『蚊』(椎名誠著、新潮社刊)、『血』(新堂冬樹著、中央公論新社刊)、『手』(山崎ナオコーラ著、文芸春秋刊)、『目』(三島由紀夫著、集英社刊)、『蠱』(加門七海著、集英社刊)など、時代にかかわらずある。

海外作品でも、邦題が漢字一文字である作品はあったが、調べた限りでは、原題も一文字、ということはなかった。やはり、日本語だからこそ一文字でも意味が伝わり、タイトルとしても成り立つというところが大きいのだろう。

■よりシンプルな「一文字タイトル」は何か?

ただ、漢字の「一文字タイトル」を最短とするのは、いかがなものか。
なぜなら、漢字のタイトルは画数が多いものがほとんどだからだ。

もっと画数が少ないほうが、短い、という印象も強いはずだ。
前述した作品でも、「手」が画数としては一番少ないが、ひらがな、アルファベット、数字や記号なら、もっと画数が少なく、短さの印象が際立つものがあるに違いない。

そこで、日本各地の図書館の書籍検索データベースを使い、漢字以外の一文字タイトルがないかを調べてみた。

近年の書籍で、ひらがな一文字のタイトルとして知られるのが、**『ん』(山口謠司著、新潮社刊)**だ。

同書は、文献学者である山口氏が「ん」という文字がいつ誕生し、日本語にどんな影響を与えたのかを紐解き、日本語の奥深さを感じることができる内容になっている。

ただし、同書には思わぬ落とし穴があった。副題があるのだ。