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【「本が好き!」レビュー】『武田氏滅亡』平山優著

提供: 本が好き!

最初に結論を書きます。
「戦国時代後期の東海・甲信越・関東を知りたいなら100の時代小説よりもこの1冊を読むことをお勧めします」

『甲陽軍鑑』『信長公記』『家忠日記』『甲斐国誌』『甲乱記』などに、勝頼、信長、家康などの発給文書、配下の武将や他の戦国大名に送った書面(同盟国・友好国に自身の戦況をこれほど頻繁に送っているとは知りませんでした。)などで徹底的に日付や事象を検証しています。信玄が死去して武田家が滅亡するまでの9年をなんと700ページを超える分量で描き切っています。

もともと諏訪氏の跡取りという位置づけで高遠城を預かっていた勝頼。しかし、父・信玄は、今川家との断絶と絡み嫡男・義信を廃嫡、自刃させ、「信」という武田家の諱を持たない勝頼が後継になりますが、武田譜代の重臣たちからすれば、諏訪の人間でした。実際、天目山で彼とともに散っていったのは高遠や諏訪の人間たちでした。

そんな家臣たちの不和と信長との徹底対決という大きな問題を作り出し、結局それを解決しないまま信玄は急死してしまいます。信玄の死後、家内をまとめて信長と向き合ったころには、浅井・朝倉・長島一向一揆、足利義昭という反信長勢力は討伐されてしまっていました。決して彼は愚鈍ではなかったのです。父の残した負の遺産が大きすぎたのです。

長篠の合戦で重臣たち・歴戦の侍たちの多くが討ち死させてしまった後、新たな軍団を急ごしらえしつつ、信長・家康と戦い続けます。勝頼の指示が通るようになったとはいえ、質の低下は否めません。

勝頼にとっての転機は、謙信死後の御館の乱で上杉景勝と同盟してしまったことでしょう。ただ、上杉景虎も反景勝派に祭り上げられてしまっただけで、双方を和睦させれば、甲越相同盟ができるのではと思ってしまった勝頼の見込みの甘さがあったともいえますが、これも、信玄の甲駿相同盟が基にあるのではと思われます。御館の乱で体力を失った上杉家は武田家の助けにならず、勝頼は、織田・徳川・北条との三方面での戦いを強いられます。それでも、信玄でも成し遂げられなかった北信濃の領有だけでなく、下越・中越の一部、さらにはほぼ上野全土まで領域を広げていました。当然、領内の課税は重くなっていきました。

父信玄のやったことを自身もやろうとする勝頼ですが、時代の変化が彼を呑み込みます。

木曽義昌が離反するとともに、わずか1か月余りで武田家は滅亡してしまいます。どれだけ勝頼が踏ん張ろうと思っても、中小豪族や彼らを支える百姓たちがそれを許しませんでした。

最後の10日間あまりの詳述は、読み手の涙を誘います。

この本の題名を読むと、勝頼ばかりに注目してしまいそうですが、時代の急激な変化でなんとか息の功労とする中小豪族の立ち居振る舞いが非常に細かく書かれており、大名⇔中小豪族⇔百姓という歴史の教科書や小説ではすくい取れない部分を読み手は感じることになります。また、書面一つ送るにも敵対国を通ることの難しさ(織田氏の向こうにいる毛利氏とのやり取りには片道1か月)や増水で足止めをされる橋のない当時の川を超える行軍の難しさが運命を分けます。

もう一度書きます。読み終えるのに2週間かかってしまいましたが、
「戦国時代後期の東海・甲信越・関東を知りたいなら100の時代小説よりもこの1冊を読むことをお勧めします」

(レビュー:祐太郎

・書評提供:書評でつながる読書コミュニティ「本が好き!」

本が好き!
『武田氏滅亡』

武田氏滅亡

戦国の雄・武田氏はなぜ、亡国へと追い込まれていったのか。戦国史研究の未踏峰を拓く大著!

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