だれかに話したくなる本の話

【「本が好き!」レビュー】『本当はブラックな江戸時代』永井義男著

提供: 本が好き!

巷を席巻している「日本スゴイ」の元は
疑問符が付いた「江戸しぐさ」を始め「江戸時代はスゴイ」だと思います。
その「江戸時代はスゴイ」を広めたのは、
間違いなく、NHKで放映されていた「お江戸でござる」であり、
解説の杉浦日向子さんであったといえましょう。
ただし、彼女が問題提起したのは、
時間にあくせくする現代人へのアンチテーゼとして
江戸時代を持ち出していたのですが、
彼女の死後、残ったのは
「江戸時代スゴイ」→「日本スゴイ」という流れだと私は考えています。
皮肉なものです。

そんな「江戸時代スゴイ」の幻影を打ち破るべく
『江戸の糞尿学』の著者・永井義男がつづったのが本書です。

『江戸の病』や
『江戸の乳と子ども: いのちをつなぐ』でも生まれた子供の半分ぐらいしか大人になれなかったことが書かれていますが、
日本橋の大店「白木屋」の31年分(326人)の奉公人(主に近江の農家出身)の
退職理由がすごいです。
円満退社110人、病気82人、死亡64人、家出(出奔)44人、解雇26人。
病気と死亡が4割に至っています。
大店でこれですから、中規模以下のお店がどうたったか。

杉浦日向子は「江戸っ子はグルメだった」と何度も語っていましたが、
実態は、ハレとケではっきり分かれていました。
庶民が魚を口にするのは月に3回程度。
あとは米と味噌汁と漬物で生活していたのが実態です。
100万都市を賄う動物性たんぱく質は著しく欠如していました。
その魚にしても、江戸湾で網などで獲った瞬間から劣化が始まります。
そんな魚をぼてふりが氷もなしに町中を売り歩くのです。
贈答用でも腐った魚が贈られたりしたそうですから
一般庶民の口に入る魚をやです。

そして、杉浦日向子は
「江戸っ子は一日に何度も銭湯に行った」と
これまた何度も語っていましたが、
町人や武士の日記を見ていると
せいぜい6~7日に一度であり、
夏は行水で済ませていた様子が見てとれます。
また、この本では語られていませんが、
銭湯で髪の毛は洗えませんでした。
それはそれで現代の目から見れば、
スゴイ臭いが漂っていたのでしょうね。

この本自体、「義理と人情にあふれた清潔な江戸時代スゴイ」を否定すべく、
それらの事例を文献から引用しているので、
文字通り「ブラック」な事例ばかりなのです。
正直、バイアスがかかっているのは否めません。
それでも、「江戸時代スゴイ」というのが
現代人から見た幻影でしかないのは
否定できないことなのでしょう。私も同感です。

(レビュー:祐太郎

・書評提供:書評でつながる読書コミュニティ「本が好き!」

本が好き!
『本当はブラックな江戸時代』

本当はブラックな江戸時代

江戸時代を無邪気に礼賛する風潮に一石を投じる一冊。

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