ラブホ覗きを30年続けた男が見た「幸福なセックス」と「不幸なセックス」
■「屋根裏の覗き魔」が見た幸福なセックス・不幸なセックス
念のため説明しておくと、「モーテル」とは自動車旅行者などに向けたホテルのことで、「ラブホテル」として利用されることも多い。フースのホテルもこのタイプだった。
フースに連れられ、問題のモーテルにやってきたタリーズは、いくつかの部屋の天井に「通気口」に見せかけた覗き穴が設置されているのを目にする。その穴からフースは日々室内を覗いているのだ。
特筆すべきは、フースが妻の協力のもとで覗き行為を行っていたことと、過去15年間にわたる覗き行為を、彼が細かく記録していたことだ。
その記録は、その後タリーズのもとに、過去のものから定期的に送られてくることになった。その一部にこんなものがある。
今回の観察対象の女性は乳房こそ大きいものの、見た目は小柄で愛らしかった。すでに中年の域に近づきつつあるというのに、あれほどおいしそうで、かつアスリートを思わせるすばらしい体形の女性がいることが、覗き魔には信じられなかった。その女性がスカートとパンティを脱ぎ去った。(P152より引用)
この魅力的な女性はパートナーと情熱的で性的に自由かつ貪欲な、文字通り完璧なセックスを行った。こうした魅力的なセックスの場合、フースは屋根裏でマスターベーションに及ぶこともあったようだ。
この二人のセックスは、フースの覗き魔としての幸福な思い出として記録されているが、もちろん「魅力的な男女による完璧なセックス」だけを目撃できるわけではない。
互いの性欲のレベルが異なるカップルの不幸なセックス、パートナーのどちらかがその気にならないためにやむなく行うマスターベーションくらいならまだいい方で、兄妹による見るに耐えない近親姦の一部始終、そしてついには室内で起きた殺人事件まで目撃してしまう。
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ここで注意しないといけないのは、これらの証言は全てフースのフースによる記録でしかないという点だ。ウソが混じっているかはともかく多少の脚色があってもおかしくはないし、タリーズ自身、この本の中でフースの記録に対して100%の信頼を置いているわけではない。
しかし、それでも一人で宿泊した女性客のマスターベーションや、レズビアン同士の性行為、ベトナム戦争で負傷し下半身不随になった兵士に対して妻が施す献身的な性行動など、フースの記録でつづられる、完全に私的な空間でしか見せることのない人間の姿にはリアリティがあり、覗き魔としての誠実さ(?)は確かに感じられる。
本国アメリカで大論争を巻き起こし、先日ついに日本に上陸した本書。読むことに多少の罪悪感を抱きつつ、しかも読むのをやめられないという不思議な体験が待っているはずだ。
(新刊JP編集部・山田洋介)