「申し訳ございません」の連呼はNG! 本当の「クレーム対応」とは
おもてなし、サービス…そんな言葉がついてくる「接客」だが、人と人のコミュニケーションの仕事だからこそ、なかなか正解がつかめないものだ。
でも、そもそも正解はあるのだろうか?
『接客の一流、二流、三流』(明日香出版社刊)の著者で、日本航空(以下、JAL)で客室乗務員として活躍、さらにサービス教官として1000人以上を指導した実績を持つ七條千恵美さんは、「正解はお客様が持っている」と語る。
七條さんへの「接客」についてのインタビュー、後編では七條さんご自身の経験や、接客の「鬼門」ともいえるクレーム対応について話を聞いた。
■人が一気に成長する瞬間は「気付き」を得られたとき
――七條さんはもともと体育会系だったとインタビュー前半でお話されていましたが、何をされていたんですか?
七條:私はフェンシングをやっていました。もともと人間観察が趣味で、フェンシングも相手や審判に対する洞察が勝利につながったことも多かったです。相手への観察力が身についたのはフェンシングのおかげかもしれません。
――フェンシングが七條さんのバックグラウンドにあったんですね。でも確かに頷けます。
七條:そうなんですよ。そこで完全に「見ること」を刷りこまれましたね。
――教官として訓練生たちに教える中で、急に接客のレベルが上がる人もいると思います。その瞬間にその人には何が起きているのでしょうか。
七條:確かにいますね。それは「気付き」を得られたかどうかだと思います。もっと言えば、今まで気付けなかったことに気付けたということです。
お客さまがまぶしそうにしていらっしゃるのでカーテンを閉めるとか、コップが空っぽだからお茶入れるとか、そういったことも大事ですけれど、なぜ自分は評価を得られないのか、なぜ同じ勉強をしていて自分だけ点数が取れないのかということに対して気が付けない。それに気付けたときに人は変わるんです。
――一気に行動が変わる、と。
七條:行動というか、いかに自分が周囲からサポートされているか、恵まれているか、そして視点が狭くなっていたかに気付き、視点が広がるという感じですね。
以前、新人のクラスでいつもヘラヘラしていた訓練生がいたんですね。接客もテストの成績も抜群に良いわけではなく、でも悪いわけでもない。伸び悩んでいたんです。ある時、その訓練生がテストで少し悪い点を取ってしまって、呼び出して「どうしたの?」と聞いたんです。
そうしたら、急に涙を流して「クラスに馴染めません」と言ったんです。自分以外の訓練生たちが優秀に見えて、自分がここにいていいのかと悩んでいたんですね。
そこで、私はあえて厳しい言葉で「ここに何をしに来たのですか?友達をつくりにきたの?」と言いました。その子が本気でやっているなら「何しに来たの?」とは言いません。でも私はその子を見ていて、まだ全力を出していないと思ったんです。だから「もし、本当に(飛行機に乗って)飛びたいんだったら全力でサポートをしますよ」と。
――その訓練生はどうなったのですか?
七條:がらっと変わりましたね。彼女の中のゴールが定まったんです。私は友達を作りにきたのではなく、CAになりにきた。ヘラヘラしていた彼女が一気に凛とした美しい女性に変わりました。
――素晴らしいエピソードですね。
■「申し訳ございません」の連呼はNG 本当のクレーム対応
――七條さんがこれまで見てきた中で、「これはすごい」と思う接客をされていた方はどんな方でしたか?
七條:どのCAにも心を開くことのないお客様がいらしたのですが、ある先輩CAにだけは違いました。最後には大笑いをしてお話しをされていて、「どうやってあのお客様と心通わせたのだろう??」と思ったことがありますね。
また、先輩に限らず後輩でも、サービスがしっかり行き届いている子を何人も見てきました。誕生日を迎えたお客さまがいると、カードにきれいなイラストを描いてお渡ししたり、機内販売でとてもきれいなラッピングをしたり。少しでもお客様に喜んでもらうために、自分で(ラッピングを)習いに行ったと話していて感心しました。
今あるものでより良いものを提供したいという向上心ですよね。そういう人たちがたくさんいた職場だと思います。
――『接客の一流、二流、三流』にはクレーマー対応についても触れられていますが、これはちょっとお聞きしたいです。
七條:これについては一冊目の本である『人生を決める「ありがとう」と「すみません」の使い分け』にも詳しく書いているのですが、クレームがあったときの「申し訳ございません」という言葉はもちろん大事です。
ただ、その言葉をやみくもに繰り返しても、謝罪の言葉にはなりません。「とりあえず許して!」という意思表示に過ぎない。言われている方からすれば、謝って逃げたいだけという印象を受けます。何に対して謝っているのか具体的に言うことが大切で、それを聞いてお客様も納得するわけです。
――つまり、客側がなぜ怒っているのか分かっていることが大事だと。
七條:そうなんです。「申し訳ございません」だけでは、マニュアル通りの対応と思われる。それでは接客する側もお客様側も根本的な解決には至りませんよね。
――はじめのほうで「接客の正解はお客様が持っている」という話をされていましたが、そこに気付けないと一流になれないんですね。
七條:もちろんマニュアル通りの対応なら平均点は取れるでしょう。でも、時と場合によってはそのマニュアルがお客様を不快にさせてしまうこともある。
また、マニュアル通りにしていれば、それ以外の気づかいをしなくてもよいということではありません。行間を読んで、マニュアルになかったとしてもお客様に対する気づかいは計らうべきですよね。
――本書をどのように読んでほしいですか?
七條:この本をひとつのきっかけにしてほしいです。一流の接客術の中で「これはいい!」と思うものがあれば真似をしてもらえればいいですし、「これが一流なの?」と感じたなら、それはそれでいいのです。何が正解かは実際の場面で試すしかありません。
研修の打ち合わせで、「答えはひとつにしてください」と言われたことがあるのですが、お客様の数だけ正解があるので、それはできないんですよね。
――確かに、この本を読むと正解を1つにしたらいけないと感じます。
七條:答えをいくつかつくると、その中のどれがいいのか悩んでしまうらしいです。だから、私はお客様から正解を探る観察力や洞察力、そして想像力が大事だと言っています。
――本書をどのような人に読んでほしいですか?
七條:接客業の方はもちろんですが、それ以外の仕事をしている方にもおすすめしたいです。「どんな場面でもコミュニケーションは必要なので勉強になる」という嬉しいご感想も多く寄せられています。ぜひたくさんの人に読んでほしいと思います。
(了)