だれかに話したくなる本の話

マツコ・デラックスは、なぜ出たくなかった『SWITCH』のインタビューを受けたのか?

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――『SWITCH Vol.34 No.5』では、マツコ・デラックスさんに7時間ものロングインタビューを行ったそうですが、マツコさんはあまり雑誌のインタビューを受けない方です。新井編集長はどのようにアプローチをされていったのですか?

新井:まずは手紙を書いて、自分の聞きたいことを伝えます。そこで断られるわけですが、マツコさんは誠実な方ですから、断るにも会って断ってくださるんです。でもお会いすると、魅力的な方なのでどんどん話は弾んで、また新たに聞きたいことが生まれます。

そこで次にもう一度会ってくださいとお願いをすると、会ってくれる。その繰り返しでいつの間にかインタビューが成立していったんです。

最初は「嫌です」と言われていたけど、断られるところから書くことで、マツコさんは認めてくれた。「勝手にしなさい。でも私は悪口も言うからね」というように。自分にとってはその過程がとても面白く思えた。怒られて、悪口を言われながらも、マツコさんの独特の示し方があった。僕はマツコさんの人に対する誠実さを見たのです。その濃密な時間をなるべく忠実に再現したいと思ったんです。

マツコさんはもともと雑誌編集者ですし、雑誌が本当に好きな方です。編集者として目は確かで、『SWITCH』を「エセ・アバンギャルド」と批判されても、どこか愛情があってこちらは何も言い返せない。それはマツコさんが『SWITCH』を嫌いといいながらも長く読んでいてくれたからなんです。

――マツコさんは『SWITCH』をちゃんと読んでいて、その上で批判をされていますよね。ただ、その批判をそのまま誌面に載せてしまうことも、率直に驚きました。

新井:もちろんカットした部分も多いのですが、批判そのものを受け入れて、その批判に対して自分がどう答えていくか、それはインタビューの一つの醍醐味だったと思います。単なる言葉の表層をなぞるのではなく、厳しい言葉の行間にあるマツコさんの優しさをどう伝えるか。僕にとってのこのインタビューの核でした。

何十年も生きてきた一人の人間の歴史は、1時間、2時間ではわかるわけがないんです。表から見えない年輪があるもので、その部分を深く知りたい。そういう気持ちで僕が質問すると、それにマツコさんが付き合ってくれる。ちゃんと原稿もチェックして、赤字を入れるんです。「何でこんなこと書いてあるのよ!言ってないじゃない!」とやりとりを重ねながら。まさに共同作業ですね。

マツコさんは雑誌編集者だったこともあって、「語り言葉」と「書き言葉」は違うということを知っています。編集者の役目は「語り言葉」をトランジットして「書き言葉」に換えて読者に伝えることですから、そのフィルターの通し方について、やりとりをしていた部分もあります。

インタビューは表現者とどのようにセッションするかによって、大きく変わります。一方通行だとつまらなくなるだけです。何度も会って話を聞く中で、新しい発見を見つけて、それを絶えずインタビュイーに聞いていく。そういう積み重ねがあって関係が深まっていくんですよ。

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「表現者とセッションする」という表現は、マツコ・デラックスを表紙に据えた『SWITCH Vol.34 No.5』を読めばわかるはずだ。

SWITCH Vol.34 No.9 若木信吾 写真家の現在

SWITCH Vol.34 No.9 若木信吾 写真家の現在

若木信吾さんとSMAP・木村拓哉さんの対談も掲載。