だれかに話したくなる本の話

離婚に相続、誹謗中傷…人気弁護士が法的トラブルへの対処知識を伝授

私たちの多くは刑事事件の被告人になったりしないし、誰かに訴えられたりも、訴えたりもせず、法的なトラブルとは無縁に暮らしている。

でも、人間関係があるかぎり、そこにはトラブルがつきものだ。遺産相続で親族ともめるかもしれないし、離婚で慰謝料を請求されるかもしれない。だから、法律について多少の知識を持っておくのは、社会人としては必要なことかもしれない。

■再婚するつもりが…男性が陥った重婚トラブル

法律を知りたい気持ちはあっても、ほとんどの人は分厚い六法全書を読んだり判例を調べる情熱も時間もないだろう。でも、マンガならどうだろうか?

『弁護士高橋裕樹のマンガでリーガルチェック!』(忍田鳩子著、高橋裕樹監修、竹書房刊)は、「無罪請負人」の異名を持つ弁護士の高橋裕樹さんが、身近に起こりうる事例を挙げつつ、法律の知識を授けてくれるコミックだ。個別の法律というより、法律の全体に通底する「考え方」を教えてくれるのがありがたい。

表紙

一般人が直面しうる法的トラブルといえば、やはり離婚と相続にまつわるものが多いはず。離婚について、本書ではこんな珍しい事例が紹介されている。

とある関係の良くない夫婦の話。妻は気性が荒く、稼ぎの少ない夫に対して「出ていけ」と迫った。夫の方はそれに耐えかねて自宅マンションとなけなしの貯金600万円を妻に渡し、自分だけ署名捺印した離婚届を「出しておいて」と頼んで家を出たという。

そして一人暮らしを始めた彼だったが、その後ビジネスが当たり、一儲けしたという。仕事が軌道に乗ってくると新しい恋人もでき、彼女と再婚しようと役所に行ったところで、予想外の事態が起きた。婚姻届を出そうとしたところ、まだ自分の離婚が成立しておらず、現在婚姻中だということがわかったのである。

驚いた男性は妻に連絡、事情を問いただしたところ「気が変わり、離婚届を出していなかった」という事実が判明。男性は再婚どころか、婚姻中に不貞行為をし、なおかつ重婚をしようとしていることになってしまった。

表紙

当然、妻の側は男性に対して慰謝料と離婚の条件として財産分与を要求してきた。慰謝料の額は2000万円におよんだ。

一見、男性側はある程度の慰謝料の支払いを覚悟しなければいけないように思えるこのケースだが、高橋さんは「払う必要なし」と断言。その理由として『法律は「現状」が優先される』と説いた。

高橋さんによると、財産分与も不貞行為も「夫婦の体をなしていること」が前提。この夫婦のように別居しており、夫婦関係もなく連絡もとっていないという「現状」を鑑みると発生しない(両者の同意がある場合は別)というのが実情だという。

■「遺産はすべて愛人に」遺言書で親族の取り分はどうなる?

相続も、法的トラブルが起こりやすい。「故人の遺産は配偶者の取り分が半分、残りの半分を子息が分ける」というのはよく知られているが、遺言状があった場合はその限りではない。

表紙

たとえば「財産はすべて愛人に渡す」と遺言状に書かれていたら、配偶者も子どもも遺産を相続できなくなってしまう。まるでドラマのような話だが、「財産はすべて長男に譲る」と遺言状に書かれていた、など法定相続分と遺言の内容のギャップによってトラブルが生じるケースは決して珍しくないのだという。

遺言状は法定相続分よりも優先される、ということで、こんなケースは遺言状に従うしかないのだろうか? 実は本来の相続人は「遺留分侵害額請求」という民事裁判で、法的に認められていたはずの遺産額を請求することができる。ただ、これは遺言を作成した本人が亡くなってから1年以内しかできないため注意が必要だ。

SNSでの誹謗中傷から生じた「名誉毀損」や「侮辱罪」、動画サイトに投稿する動画にまつわる「著作権侵害」、賃貸物件の契約での借主が不利益を被る条件での更新などなど、私たちの生活の実は身近なところに潜んでいる法的トラブルについて、本書では知っておくべき法律の知識と考え方を授けてくれる。

法律というと難解なイメージを持ちがちだが、本書での高橋さんの説明は極めてシンプルでわかりやすい。法律が身近に感じられるのが本書の真骨頂。知識を深める足掛かりとして最適の一冊だ。

弁護士高橋裕樹のマンガでリーガルチェック!

弁護士高橋裕樹のマンガでリーガルチェック!

刑事事件や相続案件を得意とし「無罪請負人」とも称される高橋裕樹弁護士が相続とお金の問題とズバっと袈裟斬り!!

法律って「前提」が大きいんです!!

※記事で取り上げている書籍を購入すると、売上の一部が新刊JPに還元されることがあります。

この記事のライター

新刊JP編集部

新刊JP編集部

新刊JP編集部
Twitter : @sinkanjp
Facebook : sinkanjp

このライターの他の記事