VUCA時代に活躍するために知るべき脳の悪癖
これまでうまくいっていたやり方を変えたり、自分を周りにそれとなく合わせたり、大成功より「失敗しないこと」を優先してしまったり、といった性質を私たちは多かれ少なかれ持っている。
変化を嫌い、失敗を恐れ、集団に埋没する。これらは「VUCA時代」と呼ばれる現代を生き抜くために必要な資質とは正反対である。しかし、私たちの脳は、どうやらこういうクセを持っているらしい。
『脳マネジメント 脳を味方にして独自性と創造性を発揮する技術』(秋間早苗著、クロスメディア・パブリッシング刊)はこうした脳の性質を明らかにしたうえで、その性質を利用しつつ、変化が速く予想が難しい時代を軽やかに生きる秘訣を授けてくれる。今回は著者の秋間早苗さんに、現代と現代に生きる人間の特徴と、これから必要とされる変化について教えていただいた。
■VUCA時代に人類は本来の生き方に戻る
――『脳マネジメント 脳を味方にして独自性と創造性を発揮する技術』について、まず本書をお書きになった動機について教えていただきたいです。
秋間:本の中でも書かせていただいたのですが、私自身これからの時代に対して「このままじゃまずい」とひしひしと感じつつ、でもどう自分を変えればいいのかわからずにいたんです。
「VUCA時代」とよく言われていますが、この時代を生きていくためにみんなで力を合わせないといけないことはわかっているのに、どうしてこんなにも力を合わせにくいんだろう、多様性の時代は「共創」という考え方が必要なのに、どうしてそれができないんだろうとずっと考えていたんです。
誰かがそれについて書いているんじゃないかというのを期待していたのですが、ただ期待するのではなく自分なりに試行錯誤してきたアプローチを書いてみればいいんじゃないかと思いたって書いたのがこの本です。
――「VUCA」という言葉は本の中でも書かれていましたね。変化が速く、先の予測が難しい時代という意味ですが、この時代に合わせて変わっていかないといけないと書いている本は見かけたことがありますが、それを脳の観点から書いている本は、私は初めて読みました。
秋間:ありがとうございます。ただ、VUCA時代が「これまでとは違った新しい時代」とされていることには私は違和感があります。なぜかというと人間は狩猟をして暮らしていた時代からずっと先が不確実な時代を長く生き抜いてきたんですよ。
それが、たまたま農耕が始まったこと、あるいは産業革命が起こったことで、私たちは「定まった答えがある」という世界を仮想して生きてきたわけです。だから、VUCA時代というのは、まったく新しいものではなく、もともとやってきた生き方を取り戻す時代なのではないかと捉えています。
――「答えがある世界」で、脳は省エネモードを覚えた。それによって人間は変化を嫌ったり、周囲と違うことを避ける性質を持つようになった、ということを書かれていましたね。
秋間:そうです。ただ、省エネとは対極の、何かに夢中になったり、おもしろがる力を、本来人間は持っていたはずなんです。そういう抑え込まれていた力を、VUCA時代は解放してくれる可能性があるんじゃないかという期待を持っています。
――この本を読んだ人にどんな変化が起きてほしいとお考えですか? 「脳マネジメント」が目指すものについて教えていただきたいです。
秋間:自分に足りないものやないものにばかり目が行ってしまったり、「どうしてこんなこともできないの?」と人を責めたくなってしまったりといったことはどんな人にもあると思いますが、そういうふうに考えてしまうのは、その人本人に問題があるのではなくて、脳が本来そういう性質を持っているからなんです。
人に寛容になれなかったり、変化が怖かったり、ないものがあることが不安だったりすることに罪悪感をおぼえるのではなくて、「これは脳のせいなんだ」と理解することで、いったん自分を責めるのをやめて立ち止まってみるということができるようになればいいなと思っています。
もう一つは、これからの世の中はこれまでの世の中の延長線上にはないと思っている人たち、このままじゃまずいと思っている人たちが、勇気を持てればいいと思っています。
――「脳の無自覚なクセ」というのがキーワードになっていますね。「変化を嫌う」「違うことより、同じことに安心する」といった脳のクセは、日本人の気質とされているものとも重なりますが、このクセはどんな人でも持っているのでしょうか?
秋間:私は仕事でアフリカに行ったりもしているのですが、この本で書いた「脳の無自覚なクセ」は、全てではないにしてもある程度は人類が皆持っているものだという理解を持っています。
ただ、やはり日本人特有の部分もあって、失敗を恥と考えたり、周りと違うことを恐れたりする性質は強いと思います。
(後編につづく)