だれかに話したくなる本の話

令和を生きるリーダーへ。「回す力」を身に付けよう(後編)

社会が変化するスピードが早くなり、今までの常識がすぐに陳腐化する時代。そして、人材の流動性の高まりや、労働人口の減少にともなう採用の困難化も相俟って、リーダーの知識や持論だけで、一方的に部下に指示を出し、問答無用でやらせる…という「プッシュ型」のマネジメントが困難になっている。今後は、「プル型」のマネジメント、つまりリーダーが知らない情報やアイデアを引き出すために、各人の組織エンゲージメントとモチベーションを高めていくアプローチが益々求められていく。ただそれを実現するために、リーダーは具体的にどのようなスキルを身に付ければいいのだろうか。

『人・場・組織を回す力』(クロスメディア・パブリッシング刊)は、「プル型のマネジメントとは何か?」を考えるうえで、大きな示唆を与えてくれる。本書でいう「回す力」こそが、その真髄だと言っても過言ではないだろう。その「回す力」とはどのようなものかについて。著者の楠本和矢さんにお話をうかがった。今回はその後編だ。

楠本和矢さんインタビュー前編を読む

■「楽しさ」を生み出すコミュニケーションスキル。それが「場を回す力」

――前編の最後に、「場を回す」上での、最も重要なキーワードは「楽しさ」だと仰いました。これを、もう少し詳しく教えて下さい。

楠本:作りたい「楽しさ」とは、リーダーが「楽しい人になる」ということではなく、「周りを楽しい気持ちにさせる」ということです。リーダーは積極的に前に出て、何か面白いことを言いましょう、なんてことを提案しても、無意味であり現実的ではありません。そうではなく、メンバー自身が発する言葉をきっかけに、それに上手く反応したり、また他の人の発言を促したりして、そのやり取りで「楽しい気持ちにさせる」ということです。サッカーで喩えると、自分がフォワードとなってゴールを狙いにいく役割ではなく、司令塔となってボールを受け、他の人にいいパスを出す役割を担うようなイメージです。「場を回す」とはそういうことです。

――なるほど。サッカーのポジションの例がわかりやすいですね。「司令塔の役割」というのは、何となくイメージできるのですが、上手くその役割を担うためのコツはあるのでしょうか。

楠本:本書の「+αの反応」編で最初に紹介していますが、まずは、「ただ相手の話を聞く」だけでなく、何かしらの情報を付け加えるということです。つまり、単に「ふーん」とか「そうなんだ」で終わらせるのではなく、せっかくこちらにパスを出してくれたのですから、「それを聞いてこんな話を思い出しました」とか「こういうことについてはどうですか?」というふうに相手の話をさらに引き出すように返していくのです。そういう細かいパスの積み重ねで、コミュニケーションは活性化していきます。

――「+αの反応」編では、相手の話に「的確な突っ込み」をいれるという技法も紹介されています。それは、かなり高度なテクニックのようにも思えましたが、続けることで向上するものなのでしょうか。

楠本:おっしゃる通り、本書で紹介している20種類の技法の中で、最も難しいのは「突っ込み」のパートです。難しいとは言え、場を活性化するためにはかなり効果的であり、リーダーには是非会得してもらいたい技法です。本書で幾つかの「突っ込みの切り口」を紹介していますが、簡単なものが1~2つほどありますので、それを実践するところからやれば充分です。楽しませるコミュニケーション技法なので、シリアスに捉え過ぎず、肩の力を抜いて実践してもらえればと思います。そういう気持ちを込めて、あえてカジュアルな突っ込みの事例を沢山用意してみました。

――これができれば、日常のやりとりも、仕事でのコミュニケーションも、間違いなく活性化すると思います。そして、メンバーの話を丁寧に拾って、面白く展開してくれるリーダーは魅力的に思えます。

楠本:まさにそうなのですよ! 逆のケースをイメージするとよりわかりやすいです。例えば、仕事で高いパフォーマンスを発揮しているリーダーがいたとします。そんなリーダーが、カジュアルなやり取りの場面や、アフターファイブの場面などで、自分の話しかできなかったり、上から目線の話しかできなかったりすると、部下からみると興ざめですし、正直、人としての魅力をあまり感じることはできません。それでも一応、自分の上司なので、ホンネでは、「この人といても、全然楽しくないな-」と思われながらも、きっとニコニコしながら、楽しそうなフリをして聞いてくれます。だから気付くことができません。

――そんなリーダー本当に沢山いそうです。もったいないですよね。仕事での高い能力を、少しでも「場を回す」というところに使えば、更なる人望にも繫がりそうです。

楠本:おっしゃるとおりです。一般的なマネジメントの教科書に、そんなことの重要性が一切書かれていないことも一因かと思います。

――その話を聞くと、近年その必要性が唱えられている「傾聴」だけでは、コミュニケーションは活性化しないような気がします。

楠本:じっくり耳を傾けるところで終わってしますしね。傾聴した後、…で何なんだと。「傾聴」という技法が広まった理由は、圧倒的に簡単だからです。その重要性については、全く否定するつもりはありませんが、リーダーとしてより高みを目指していこうとするなら、単なる「傾聴」で留まっていてはダメでしょう。本書の「+αの反応」編は、やや難易度は高いですが、だからこそ取り組む価値があると捉えていただきたいです。「その他大勢とは違う自分」になるためのものとして。

表紙

――「散らかりの収拾」も「回す力」の一つとして位置付けられています。例えば会議の場で、本線からズレた発言が出た時には、「やさしく正す」ということを提唱されていました。メンバーを萎縮させずに議論を本線に戻すためのコツを教えていただきたいです。

楠本:一旦、発言を受け止めるということでしょうね。たとえズレた発言であっても、自分なりに一生懸命考えたものでしょうから、無下に却下しない方がいいでしょう。ただ、あまりに肯定的に受け止めると「今の発言であっていたんだ」と誤解され面倒臭いので、「そうかー」とか「そういう見方もあるんだね」と、肯定も否定もしない感じで受け止め、その上で「それは確かに大事なことだけど、先にこっちを片付けよう」とか「それは重要な意見なので、後でじっくりやりましょう」と、一旦留保して、元々話していたテーマにやんわり戻せばOKです。

――「回す力」は、どちらかというと「縁の下の力持ち」的なアプローチです。プレイヤー時代にエースだった人などは、こうしたやり方に不慣れかもしれません。それに慣れていない上司に向けて、回す力を身につける意義についてアドバイスをいただければと思います。

楠本:「自分で動き成果をあげること」がプレイヤーだとしたら、「人を動かして成果をあげること」が管理職の仕事です。立場が変わった以上、得意不得意の問題ではなく、「縁の下で回す」という視点がそもそも必須であると捉えるべきです。仕事の進め方はもちろん、普段のコミュニケーションも含めてです。ちなみに、プレイヤーの意識のまま管理職になった人は、下と戦ってしまいがちです。部下がいい成果を出したり、自分より鋭い見解を出したりすると、自分の立場が脅かされていると恐れ、挙げ句の果てにそういう部下を潰しにかかることも。またそういう人は、日常のコミュニケーションでも、マウント型のやりとりを知らずに展開し続けます。こういう上司の下についた部下はちょっとしんどいです。

――最後に、皆様にメッセージをお願いできればと思います。

楠本:あまり偉そうなことを言うつもりはありませんが、インタビューのまとめとして、本書を通じてお伝えしたかったことを、三つ申し上げます。一つ目は、相手が持っているアイデアや思いは、もっと引き出せるということ。そのために、相手を尊重したり、いい関係を作ったり、面白い問いを立てたりすることに取り組んでみて下さい。二つ目は、「愉快な時間」や「楽しさ」を意識したマネジメントの重要性です。皆様は、様々なマネジメント論やコミュニケーション論を学ばれ、日々実践されているかと存じますが、「楽しさ」を作るための工夫も、そこに加えて欲しいと思います。三つ目は、いい環境を作ろうと思ったら、まず自分から変わっていくということです。他責にせず、自分がどう動けばいいか?と考えて動くことが、何より大切なことなのではないかと思います。

是非、本書を通じて、そんなメッセージを感じ取って頂ければと思います。

楠本和矢さんインタビュー前編を読む

人・場・組織を回す力

人・場・組織を回す力

「この人といたら、何となく気持ちいい」
「この人がいたら、場が楽しくなる」
「この人のおかげで、組織が活き活きしている」

そんな風に周りから思われる方法や、リーダーシップの方法があるなら、その技法を身に付けてみたいとは思いませんか?
それが、本書でご紹介する「人・場・組織を回す力」です。

①人を回す力……相手との何気ないやりとりを通じ、徐々に好意を集めていく力
②場を回す力……メンバーとのやりとりを通じ、その場を愉快なものにしていく力
③組織を回す力…そのコミュニティを裏方で支え、さらに活性化させていく力

最初から全部をやる必要もありません。誰にでも簡単にできるコツから、やや高度なスキルまであり、ちょっとずつ、段階的に進めていけるようになっています。
つまみぐいでも問題ありません。60点くらいを目指せば充分です。
この本をきっかけに仕事、人間関係、そして人生をさらにいいものにする方法をぜひつかんでもらいたいと思います。

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