だれかに話したくなる本の話

現地の商習慣を尊重した結果起きた悲劇…企業の海外進出に潜む落とし穴とは?

人口減に伴う国内市場の縮小となかなか活発化しない個人の消費行動など、日本企業を取り巻く環境は厳しい。そんななか海外に目を向ければ、アジア、中東、南米などなど伸び盛りの市場がゴロゴロしている。

そうなると「国内よりも成長著しい海外市場」に活路を見出そうと考えるのは自然だ。しかし、海外市場はかならずしも「楽園」ではなく、死屍累々の戦場である。法律も文化も、国民の気質も習慣も違う地で成功するのは、やはり簡単ではないのだ。

■「郷に入っては郷に従え」は危険?企業の海外進出に潜む落とし穴

『次世代リーダーが知っておきたい 海外進出”失敗”の法則』(森大輔著、パノラボ刊)は公認会計士として数々の企業の海外進出に携わってきた著者が、実際にあった様々な事例から、海外市場でのビジネスに潜む落とし穴の存在を明らかにする。

こんな事例がある。
日本のある大手商社のアジアの拠点となっていた中国・北京のZ社に赴任していたBさんは、日常的な贈物のやりとりや根回しの多さといった中国の商習慣に精通し、着実に成果をあげていた。

日本の本社からの評価もうなぎ上りで、本人も中国での仕事、中国人との仕事に自信を深めていたのだが、そんな矢先にBさんは本社の上司に思わぬ指摘を受ける。順風満帆に思われていたZ社から大量のキャッシュが消えていたのだ。

その背後には「循環取引」の存在があった。循環取引とは、複数の企業が共謀して商品の転売や役務の提供を繰り返すことで、取引が存在するかのように偽装し、売上や利益を水増しする行為。Z社の場合は、まず関連会社のA社に商品を売り、A社はその商品をそのまま海外の関連会社Bに売り、B社からZ社がそれを買い戻していた。自社商品を販売し、それを買い戻していただけだから、当然利益はゼロである。この不正取引はBさんの赴任を境に少しずつ行われるようになり、最終的にZ社は50億円近くあったキャッシュのほとんどを溶かしてしまったのだった。自分では中国でのビジネスに精通していると思っていたBさんは、実は現地スタッフになめられていたわけだ。

Bさんが循環取引に気づけなかった理由には、「現地の商習慣への過剰な配慮」が挙げられる。中国の商習慣として、互いの信頼関係をもとに口約束で契約を進めることがある。当然、契約書は残らないのだが、Bさんは現地の社長や経理部長からそういうものだと聞かされていたそう。こうした、中国独特の商習慣をBさんは鵜呑みにし、「中華企業同士の取引は、当人たちに任せておくのが一番」とその中身にはあえて口出しせず、成果だけを求めていた。結果としてこれが裏目に出てしまったのである。

日本であれば、「結果を出せばその過程は問わない」というやり方でも、「正しく契約が結ばれているか」「取引や出入金が適正化」といったことをどこかの部署がチェックするため不正は起こりにくい。ただ、この感覚で海外に出るのはリスクが伴う。「郷に入っては郷に従え」という言葉があるが、郷に従いすぎると現地法人の不正の温床になってしまうことがある、というのは海外進出の落とし穴の一つなのだ。

現地拠点や現地法人のマネジメント、現地での人材採用、文化や言語の壁による摩擦など、本書では日本企業の海外進出で「落とし穴」になりうる要素の数々を、ストーリー形式で解説していく。

どれも、海外進出をもくろむ企業にとっては「他人事」とは思えないはず。ただ、これらをあらかじめ熟知しておけば、成功の可能性はまちがいなく高まるはずだ。

次世代リーダーが知っておきたい 海外進出”失敗”の法則

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