だれかに話したくなる本の話

人生の転換点を設定するのは難しくない。意思決定に悩むすべての人に贈るメッセージ

愛知県常滑市にあるワイナリー・ネイバーフッドは農家レストランを併設し、きれいな夕焼けを見ながらワインを飲んだり、アメリカンスタイルな料理を楽しむことができる。

このワイナリーレストランを15年かけて育ててきたのが、株式会社ブルーチップ代表の馬場憲之さんだ。いちご農園やハンバーガーショップなどの事業も展開し、その勢いを加速させている馬場さんだが、ブルーチップを立ち上げたのは40代になってから。

なぜ、こんなにもバイタリティがあるのか。そして、どんな人生を送ってきたのか。馬場さんのすべてが語られている著書『RAIL 人生には2本のレールが訪れる』(ゴマブックス刊)についてお話をうかがった。

■「本当にこのままでいいのか?」という人生から一念発起。転換点をどうやって作った?

――馬場さんは2008年に飲食業や観光農園業を営む株式会社ブルーチップを立ち上げられて、今年でちょうど15年になります。本書を読むとゼロからのスタートだったことが分かりますが、15年走り続けてきた原動力はなんだったのでしょうか。

馬場:釈然としない人生の中で新しいことをしたいという思いと、小さな頃から憧れてきたアメリカのカルチャーを仕事にしたいという2つの思いを持ってやってきました。

「すごく努力されてきたでしょう?」と聞かれることもあります。ただ、自分としてはやりたいことをやっているだけなので、努力している感覚はないんですよね。

――どんなときでも後ろを振り向かず、先を見ているような感じですか?

馬場:そうですね。ワイナリーの立ち上げはゼロからのスタートでしたが、真新しいことをやるわけではなく、アメリカで見たワイナリーの風景があっていかにそれに向かっていくかということだけでしたから、そこに向かってまい進してきたという感覚です。

――馬場さんご自身についてうかがいます。もともと小学校時代に観ていたテレビ番組を通してアメリカに憧れ、今に至るまでその憧れを持ち続けていらっしゃるそうですが、「アメリカ」にどんな夢を抱かれたのですか?

馬場:当時観ていたのは『白バイ野郎ジョン&パンチ』というカリフォルニアハイウェイパトロールのテレビドラマでした。青く抜けた空の下で悪いやつをやっつけるという内容でかっこいいのもあるんだけど、自由な空気が漂っているんですよね。それが憧れた理由の一つだと思います。

――その時に抱いたアメリカへの思いは今に至るまで続いています。ただ、そうした憧れを抱きつつも大学卒業時には証券会社に就職をされます。そのときはモヤモヤしたものがあったのではないでしょうか?

馬場:僕が就職をするくらいのタイミングでちょうどバブルが弾けたんです。ただ、まだ浮かれた空気があって、卒業旅行でアメリカに行ったりもしましたし、就職した後もまた(旅行に)行けばいいと思っていたくらいなので、モヤモヤはなかったです。

ただ、就職してからは壁にぶつかって、本当にこれでいいのかとよく考えていました。今は会社を経営しているので、最終的な決定権は自分にあります。でも、当時はやらされている感じがすごくあったんです。もちろん、自分の中で整理して主体的に動くこともできたのかもしれませんが、まだ若かったところもあります。

ノルマが達成できなければ給料は下がるし、仕事柄、大人の事情を垣間見ることも多かった。しかもその事情すらクリアではないんですよね。そういうところで自分の中に落としどころが見つからず、釈然としない時間を送っていました。バブルが弾けたあとの空気感も息苦しかったですし。

――そうした殺伐とした空気の中で27歳のときに転機が訪れます。

馬場:そうです。自分が在籍していた証券会社に勤めていた女性にセールスに行ったんです。そこでアフリカのアーティストの話を一生懸命にされて、この人はキラキラしているなと思ったんです。僕はセールスに行くのも嫌だというスタンスだったし、モチベーションも全然なかったので、その人を見て自分が悲しくなりました。

――それがきっかけとなって自分のやりたいことをやろうと決断するわけですが、夢を追うときに安定した生活を捨てなければいけないケースもあります。そうしたリスクをどう考えていましたか?

馬場:自分には根拠のない自信がありました。それはおそらく自分がバブル時代の空気を経験していたからなのだろうと思います。

バブル当時はみんな浮かれていて、一万円札をぶら下げてタクシーを止めていたような時代です。なにやっても成功できるという風潮があって、その空気にすごく影響を受けていたので、リスクはあまり考えなかったですね。

――証券会社から旅行代理店、さらにスタートアップに転職をされて、その後も9・11やSARSの流行などさまざまな出来事が起こるわけですが、仕事に対するモチベーションはいかがだったのでしょうか。

馬場:スタートアップでは自分が主体的に動ける環境だったので幸せでした。自分たちで決められて、スタッフみんなでコンセンサスを取って前に進めるという環境はまったくストレスがなかったです。

もちろん、責任も自分で取らないといけないのですが、そちらの方がやりがいはありました。

――そのスタートアップから分離独立という形でブルーチップを立ち上げるわけですが、ワイナリーをはじめとした農業系の事業というのはどこから出てきたのでしょうか。

馬場:ブルーチップを創業する2年ほど前に、いちご農家を取り上げたドキュメンタリー番組を見たんですね。それで農業に興味を持ちまして、さっそくいちご農家に弟子入りをさせていただいたんです。1年半くらいそこで修業をしまして、観光農園の可能性について実感することができた。

また、農業をするには条件が必要です。その条件の1つが「認定農業者(都道府県が認定している農業者)のもとで、一定期間働くこと」なんですが、その修業を通して農業資格を手にすることができました。

実は「いちご」にこだわった理由もアメリカにあるんです。ロサンゼルス近郊にあるナッツ・ベリー・ファームというテーマパークはもともといちご農園からスタートしていて、ロスというといちご農園のイメージが強いんです。ロスで朝ごはんを食べると必ずいちごジャムが出てきます。

――そしてブルーチップを立ち上げた後に乗り出したのがワイナリーレストランの事業です。

馬場:そうですね。アメリカのオレゴン州のワイナリーに影響を受けて、これを日本でもできないかと考えたのがきっかけです。

――ただ本書を読むと、日本でワイナリーレストランを立ち上げるのはかなり難しいことだったのではないかと感じます。当時の馬場さんの中で、成功できる勝算はどのくらいあったのでしょうか。

馬場:勝算は100%です。アメリカでワイナリーレストランを見て、そこにあるものをそのまま日本でつくればいいのですから、そこに壁があるとは思っていなかったですね。ただ、実際に始めてみると壁だらけだったのですが(笑)。

まず、ワインの原材料となるブドウも、ワイン用と生食用で違うんです。そのワイン用のブドウの苗が手に入らない。そこからです。

――そうした壁がいくつも出てくるわけですが、そこで挫けてしまうようなことはなかったのですか?

馬場:ただとにかく今できることを考えて、やってみる。その連続ですね。実際に国内のワイナリーに話を聞きに行って、さらに1か月そこで草刈要員として滞在したりもしました。八方ふさがりのようでも道は必ずあるはずで、それを考え抜くことが大切です。

ワイナリーレストランはすでに存在しているものですから、できるだろうという確信はありました。

――そのポジティブな考え方の源泉はなんでしょう?

馬場:よく聞かれるんですけど、自分でも分からないんですよね(笑)。むしろ、なぜみんなそんなに心配するんだろうと思います。

――心配性であれこれ悩んでしまう人も多いと思いますが、そんな人にはどんなアドバイスを送りますか?

馬場:アドバイスというか、「君は未来に悪いことが起こると思って生きているの?」と伝えたいですね。未来のことは誰にも分からないし、今、全力で目の前のことをやれば未来が明るくなるのは当然の話だと思います。

(後編に続く)

RAIL 人生には2本のレールが訪れる

RAIL 人生には2本のレールが訪れる

40代はまだ何者でもなかった。誰にだって2本目のレールは訪れる−−。

40代で起業したものの、ワインのことを何も知らず、そして一滴もお酒が飲めなかった著者が、なぜワイナリーやワインレストランを経営するに至ったのか?
特別なコネクションはなかった。あったのは、迷わずに行動を起こすことを徹底することだけだった。その力は誰もが持っているが、ためらったり悩んだりするうちに、その力を発揮することができないでいるのだ。
ではなぜ著者は、その迷いを断ち切り行動を起こすことができたのだろう。
そして行動の先に見えてきた、人生2本目のレールとは。

本書では著者である馬場憲之氏の少年時代から現在までの変遷や、その迷いなき行動力のエピソードの数々が散りばめられている。
仕事や人生で行き詰まっている人、憧れの未来を追い求めているが不安に思っている人など、今悩んでいる全ての人に読んでほしい! 人生を豊かにするための第一歩目のスイッチは、自分のなかにある!

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