中小企業が戦略を成果に結びつけるために必要なこととは?
企業が成長していくためには戦略が必要だが、人手不足な中小企業ほど、先々の戦略を立て、それを実行していくのは難しい。その結果、行き当たりばったりの施策を繰り返したり、組織の中で従業員らのベクトルが揃わず、生産性が上がらなかったりする。
この課題を解決するのが、経営コンサルタントの山元浩二さんが提唱する「ビジョン型人事評価制度(R)」だ。670社以上の企業が導入し、「自社を見つめなおすいい機会になった」「リーダーたちが自分の意向を汲んで動いてくれるようになった」など、経営者からの評価が高いこの制度のキーワードの一つが「戦略」である。
なぜ、中小企業が戦略で勝っていくために必要なことは何なのか。『小さな会社の〈人を育てて生産性を高める〉「戦略」のつくり方』(日本実業出版社刊)を上梓した山元さんにお話をうかがった。
■中小企業の「戦略」がうまくいかない理由
――『小さな会社の〈人を育てて生産性を高める〉「戦略」のつくり方』は、中小企業の戦略立案と実行がテーマになっています。これまで中小企業経営者に向けて経営計画や人事評価制度についての本を書いてこられた山元さんですが、今回「戦略」をテーマにした理由を教えていただきたいです。
山元:私は中小企業が人事評価制度と経営計画を連動させて組織を成長させていく仕組みとして「ビジョン型人事評価制度(R)」というものを提唱しているのですが、中小企業において「戦略」というのはもっとも弱い部分なんです。
――戦略が明確になっていなかったり、戦略を実行するためのアクションプランのPDCAを回し切れず、戦略を立てただけで終わってしまいがちというお話をされていましたね。
山元:そうです。経営計画の中に「戦略」は含まれるので、今回の本ではこの戦略の部分にクローズアップしています。
――本書は中小企業を対象に書かれていますが、どのくらいの規模の会社をイメージされていますか?
山元:従業員数が15人から30人くらいの会社です。この規模の会社だと、戦略が社長の頭の中にしかないケースが多いんです。その社長も目標と戦略を混同していたり、戦略そのものが何かわかっていないことが圧倒的に多いですね。
――目標と戦略の混同とは具体的にどんなことですか?
山元:たとえば、「今期の戦略は新規客拡大」とか「既存客の売上を増やしていく戦略」と言う社長は少なくありません。でもこれらはいずれも目標ですよね。その目標を達成するために何をするのかが戦略です。
じゃあ、混同したままどんなことをしているかというと、新規客拡大のための具体的な行動は営業パーソン任せだったりする。たまたま組織内の部署に優秀なリーダーがいる場合は、そのリーダーが部署の戦略を考えて指示しているケースもあるのですが、そうそうそんな優秀な人材はいません。会社全体の戦略があって、それが部門や個人に落とし込まれている会社となると10%もないのではないでしょうか。
――戦略自体はまちがっていなくても、その戦略が機能しないこともままあります。山元さんはその理由を3つ挙げられていて、その1つが「戦略を成果に導く体制が整っていない」ことです。なぜ、成果が出る体制を整えられないのでしょうか?
山元:中小企業はみんな現場中心で動いています。そうなると戦略立案や推進になかなか時間を割けないんですよね。そんな状況から戦略の重要性を認識させて、立案して、推進してということをやるとなると、やはり簡単にはいかないものです。戦略を推進して成果を出せる体制を作ることには年単位の時間がかかると思います。
戦略以前に経営計画を定着させて、人事評価制度を整備してといったことも必要ですから、経営計画の定着に1年、人事評価制度の整備に1年、戦略に1年で、3年くらいのスパンで考えた方がいいと思います。長いと感じるかもしれませんが、会社を成長させていきたかったらそのくらいの時間をかける価値はあります。「ビジョン型人事評価制度(R)」は100年企業を作るための仕組みなので。
――また、「戦略にゴールがない」点も挙げられていましたね。
山元:そうですね。たとえば「とにかく業績を上げること」という号令のもとにやみくもにやっているケースです。「いつまでにいくら上げるか」「その先どんなビジョンを実現するか」といったゴールがないままだと現場が疲弊してしまい、やはり戦略が成果に結びつきにくいんです。
――もう一つが「戦略で成果を出すポイントをまちがえている」です。この点について詳しく教えていただければと思います。
山元:これは「立派な戦略さえできればうまくいく」と考えてしまうことです。本来はどんなにいい戦略でも、実行しないと成果は出ないのですが、戦略を作るところまでは一生懸命やるのに実行は各リーダーや現場任せにしてしまう会社は少なくありません。
――戦略によって中小企業の生産性が上がるとされていましたが、戦略と生産性の関係について改めてお話をうかがえればと思います。
山元:戦略がない会社の場合、さっきもお話ししたように、現場の施策は現場任せ、個人任せになってしまうので、個々が一生懸命仕事をしていても、本来会社が向かうべき方向とは違うベクトルに向かって仕事をする人がどうしても出てしまうんです。これだと、組織としての生産性は上がりません。
――従業員のベクトルが揃わないと、推進力にロスが出てしまうということですね。
山元:そうです。たとえば現状5億円の粗利益を10億円にしましょう、という目標が示されたとして、その実現のための戦略が提示されないと、ある人は新規顧客の開拓に向かい、別の人は既存客の掘り起こしをやり、他の人は原価を下げるために全力を尽くす、とばらばらに動いてしまう。こういう光景はコンサルタントをやっているとよく見かけます。
(後編につづく)