だれかに話したくなる本の話

「百人一首」の順序にひそむ1000年前の謎

近年、競技かるた人気で改めて脚光を浴びている「小倉百人一首」は日本の文化遺産。あまりなじみがなくても、かるたの絵柄を見たことがある人は多いはずだ。

この「小倉百人一首」は年代が古いものから順番に100首の和歌が並んでいるのだが、もしかしたら、「秘められた別の順番」があったのかもしれない。 『秘められた真序小倉百人一首 1000年の歴史ミステリー これこそ真の小倉百人一首か?』(幻冬舎刊)はその可能性を指摘し、100首の和歌をあるべき順番に並べ替えた野心的な一冊。並べ替えがどのように行われたのか、そして並べ替えた先に見える世界観とはどのようなものなのか。著者の野田功さんにお話をうかがった。

■「小倉百人一首」には順番を入れ替えると見えてくる世界がある

――『秘められた真序小倉百人一首』は選者の藤原定家の意思のようなものが感じられてわくわくしました。野田さんが百人一首に関心を持たれたきっかけを教えてください。

野田:昔から数字パズルや図形パズルが大好きで、通勤中に数独、ナンプレ、ブリッジなど解いていたのですが、その延長で言語に関するパズルはないかなと考えていました。

もともと理系で言葉に関するものにあまり触れてこなかったというのと、記憶力にあまり自信がなくそれを改善したかったのとで、何か言葉に関するものを記憶してみようと思ったのが百人一首に興味を持ったきっかけです。

――百人一首の順序に注目されたのはなぜだったのでしょうか。

野田:最初は頭から覚えていたんですけど、それだと覚えにくかったんです。似たような歌がばらばらに配置されていますからね。だから音やテーマが似た歌をグループにして覚えたらどうかと思ったんです。それが30年くらい前のことですね。

――音が似ている歌をグルーピングすることで記憶しやすくなったのでしょうか。

野田:そうですね。おかげでかなり覚えやすくなりました。それに、そうやって覚えていく過程で、百人一首が全体で一つの絵になっていることに気づいたんです。

それで、いろいろと並べ替えていくと、選者であった藤原定家の意図のようなものがおぼろげながら見えてきた気がします。

――たしかに、百人一首はあまたある歌の中から藤原定家が100首を選んだものですが、中には響きが似た歌がいくつも含まれています。定家がなにか意図をもって編纂したと考えたくなりますね。

野田:あまりにも作為的に思えるんですよね。たとえば「いい歌」を集めようというコンセプトであれば、もっと別の歌があったはずなんです。どの歌人にも代表的な和歌があるわけですが、西行などはわざわざ比較的マイナーな歌がピックアップされています。

だから藤原定家には本人なりの意図や筋書きがあって、その筋書きに合う和歌を選んだという印象を受けています。

――百人一首には「歌番号」があります。その順序が一般的に知られている百人一首の順番ということになりますが、この歌番号はどのように決まったのでしょうか。

野田:一般的に知られている百人一首の順番は、天智天皇から始まって古いものから新しいものという順番で並べられています。内容的には自然を歌ったもの、世を憂える歌、恋の歌など、内容が異なる歌がばらばらに並んでいて、選者の意図のようなものは見えません。   内容を揃えた形に変えたらどんな歌世界が見えてくるかという関心が芽生えて、それが『秘められた真序小倉百人一首』を作るきっかけになりました。並べ替えたらまったく違う姿が見えてきました。

――真序を定めていく作業がどのように行われていったのか詳しくお聞きしたいです。

野田:通勤中に頭の中で並べ替えの試行錯誤を延々と続けました。スマホができてからは文書作成アプリを使えるようになったのでかなり楽になりましたね。自分なりに工夫してぴったりくる並べ替えを見つけていくのは楽しかったです。

――百人一首の歌の順序を入れ替えるという取り組みはこれまでにもいろいろな人が行ってきたことなのでしょうか。

野田:並べ替えた方が本来の姿に近いとの指摘は織田正吉の『絢爛たる暗号 百人一首の謎をとく』(1978)でもされています。私はこの本が刺激となって並べ替えの試行錯誤を重ねて今回の出版に至ったのですが、この本を読んでから出版まで30年以上経過しているのに驚いてしまいます。

(後編につづく)

秘められた真序小倉百人一首 1000年の歴史ミステリー これこそ真の小倉百人一首か?

秘められた真序小倉百人一首 1000年の歴史ミステリー これこそ真の小倉百人一首か?

小倉百人一首の和歌の配列は、天智天皇作を1首めとし順徳院の100首めで終わるという、作者を時代順に並べるのが、現在一般的である。
著者は、百人一首を暗記する中で、「覚えやすい」配列を試行錯誤し、4首1組にたどりつく。
同じ傾向の2首のペアを組み合わせ4首のユニットにするのである。
こうしてできた25のユニットをある順番にならべると、そこに1首を1行とする100行の長編詩が浮かび上がった。
著者は、この並び順こそ、選者の藤原定家が意図したものだったと推測する。
1235年に選歌されたとされる国民的な歴史歌集の成り立ちに迫る探求の書。
さらに著者が探し当てたこの並び順は、覚えやすく忘れにくいためカルタ遊びをしたり競技に挑戦するのに役立つ。

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