推し活エッセイの著者に聞く「好きなものを見つけるコツ」
心から好きなものを「推す」。そうすることで世界が一気に広がっていく。
現在65歳のナカムラエムさんが執筆した『推してみて』(幻冬舎刊)は、「推し」ができたことによって毎日が変わる様子がつづられたエッセイだ。
好きなものに関わるものを調べて、また新たなものを好きになる。そうしてどんどん文章が紡がれていく。
「推し活」はナカムラさんにどんなものをもたらしたのか。インタビューを行った。
(新刊JP編集部)
■好きなものを見つけて楽しむコツは「健康」から
――『推してみて』はナカムラさんにとって初の著書となる「推し活エッセイ」です。もともと文章は書かれていたのですか?
ナカムラ:はい、実は以前に一度、自作の小説を応募したことがありました。それが最終審査まで残りまして、書籍化の話も持ち上がったのですが、そのときあまり余裕がなくてお断りさせていただいたんです。もう15年くらい前のことですね。
だから、書くということに慣れていたほどではないのですが、本当はそういう仕事がしたかったという経緯があります。
――この『推してみて』というタイトルにどのような意味を込められたのでしょうか。
ナカムラ:自分はこれまで何かを「推す」ということをしてこなかったんですけど、好きなものを推してみたら、そこから世界がすごく広がりました。だから、皆さんにも自分がいいなと思うものは推してみて。世界が変わるよという気持ちでつけました。
――つまり、おすすめするような意味合いですね。
ナカムラ:そうですね。
――推すものができてからナカムラさんの生活はどのように変わっていったと感じていますか?
ナカムラ:この本にも書かせていただいていますが、私は職場でパワハラを受けていたんです。それがひと段落して、体調的にも少し戻ってきた頃に「推し活」をはじめました。
心の中に一つ何か楽しみを持っていると、それを思い出すだけで笑顔になるというか、楽しくなるようになりましたね。
――例えば好きなドラマがあると、その放送時間を毎週楽しみにするようなワクワク感が生まれますが、そういうものが心の中に生まれたわけですね。
ナカムラ:そうですね。それに自分の好きなもの、興味のあるものに関係あるものの情報も入ってくるようになるじゃないですか。そうすると、また新たな世界が広がって、「この映画観に行きたいな」とか「この本読みたいな」となるわけですよね。
それまでは仕事以外も、子育てとかあったりしたし、45歳で離婚したのですが、お金のゆとりもあまりなかったので、好きなものがあっても自由に楽しむことができませんでしたから。
――本書を読ませていただいて、「推し活」をはじめる前のナカムラさんは壮絶な日々を送っていたことがうかがえます。
ナカムラ:この4月に仕事を辞めて、その後少しは働くつもりだったのですが、まったく働く気にならなかったんです。それで子どもたちに「お母さん、もう働くのが嫌になっちゃった」って言ったら、「大丈夫だよ、働かなくていいじゃん」と言ってくれて。「ごはん食べるときはうちにおいで」と。
――家族に支えられたんですね。
ナカムラ:そうですね。そのときはラッキーと思っていました(笑)。
――本書を読ませていただいて、ナカムラさんは好きなものを見つけるのがすごく上手な印象を受けました。好きなものを見つけて楽しむコツがありましたらぜひ教えてください。
ナカムラ:最初は小さなことでいいと思います。思い出したら笑ってしまうくらいの小さなことを心の中に持っていると、それが広がって好きなものを見つけるレーダーになるんじゃないかなと。
あとは、その時の健康状態にも左右しますよね。健康じゃないと「好きなものを楽しもう!」という風に気持ちが向かないように思うんです。私がパワハラされていたときは、整体師の先生にも「すごくひどかった」と言われるような精神状態で、何事も楽しむ余裕もありませんでした。
当時、毎日ノートにそのときのことを書いていたんですけど、今からするとあのノートは開きたくないですね。怖いから。でも、書くことで自分自身の状況を眺められるところはありました。
――確かに心に余裕があるからこそ好きなものを思う存分味わえるということはありますよね。先ほど推し活を始めて「世界が広がっていった」とおっしゃっていましたが、どんなふうに広がっていったのですか?
ナカムラ:好きなものが新たな好きなものをどんどん引き寄せていくような感じです。本を読んでいて、「あれ、これはどういうことなんだろう?」と興味を持って、新たな世界に手を出すような。
だから好奇心を持ったら、ちょっと突き詰めて調べてみる。そうするとどんどんつながっていくんですよね。
――気になったら調べてみるわけですね。
ナカムラ:はい、そうです。私もすぐに調べるようになりました。
(後編に続く)