AI・ロボットによる代替は不可能 専門家が語る建設業界の未来
長引くコロナ禍で苦境に立たされているとされる建設業界。
利益が出ずに苦しむ企業が多いなかで、外的要因ではなく「売上至上主義」「どんぶり勘定」「粉飾決算の横行」など業界内部の問題を鋭く指摘するのが建設業界専門コンサルタント・中西宏一氏だ。
なぜ、この業界は赤字体質・薄利体質が染みついているのか。そしてそこから抜け出す方策はあるのか。建設業界をとりまく環境と問題点、改善策、そしてこの業界の未来について、中西氏の著書『赤字続きの会社がみるみる蘇る 建設業経営「利益最大化」の法則』(パノラボ刊)を踏まえつつお話をうかがった。今回はその後編だ。
■AI・ロボットによる代替は可能か? 建設業界の未来
――中西さんは、建設業界を「利益改善がしやすい業界」だと書かれていました。これはこの業界が売上至上主義でそもそも利益を重視しない傾向があることが理由ですか?
中西:建設業界に限らず、利益を重視していない会社は世の中には多くあります。売上至上主義そのものも建設業界に限ったことではありません。実際は他の業界でも同様です。世の中の多くの会社は売上を目指しています。その中での建設業界の特性としては、先ほどお話したように、ある一定の工期という期間があることがあげられます。その期間で「どうにかなる」と思っていた当初の目論見あるいは願いが外れて、結果的に赤字や低利益になっている現場が多いのです。
その部分のやり方であり意識を変えることさえ出来れば、赤字工事・低利益工事という決定的な損失を避けることができますし、結果、利益は大きく上がります。そういった現状の利益感覚の低さとのギャップが、建設業界は他業界に比べて大きい分、利益改善しやすい業界だと感じています。
――建設業界の未来についての章が興味深かったです。AIやロボットに代替される仕事がよく話題になりますが、建設業が人の手を必要とするのは確かです。この業界の中でもAI・ロボットに代替されにくい仕事・されやすい仕事がありましたら教えていただきたいです。
中西:住宅や建築物などでは、その構造体自体を工場で作ってきて、現場では組み立てるだけというやり方も出てきてはいますが、それはほんの一部に過ぎません。分かりやすいところでは、大工工事などは余程緻密な作業が出来るロボットでも持ってこない限り、人間の職人に取って代わることはできないでしょう。
また、屋根工事・設備工事・電気工事・道路工事・橋梁工事など、ほとんど全ての工事において、AIやロボットが代替することは不可能だと思います。今後も技術的な進歩はあるのでしょうが、少なくとも向こう数十年の間でその代替が可能になるとはとても思えません。よって、建設業界の中で代替されにくい業種としては、建設業界の概ね全業種と言えるのではないでしょうか。
――利益改善の手法として、他の利益ではなく「粗利」に注目される理由はどんな点にありますか?
中西:利益というものは経理上何種類も存在します。粗利益・営業利益・経常利益・税引き前利益・純利益と、その5種類が決算書上には明記されています。
粗利に注目する理由はただ一つ。一般社員が関与できコントロールできる唯一の利益だからです。営業利益をいくらにしよう、税引き前利益をいくらにしょうという会社もありますが、その数字を意識するには、全社の経費である一般管理費や営業外の損益の数字も把握しないといけません。そういった数字を一般社員に理解させるのは不可能です。一般社員には難しすぎますし、経営者も公開したがりません。
社員全員が関与できる数字、理解できる数字、身近な数字こそが粗利益です。よって粗利益こそが、利益改善において最も重要な利益となると言えるのです。
――また建設業界の傾向として粉飾決算の多さも指摘されていました。粉飾が横行する背景についてお聞きしたいです。
中西:先程お話しした、建設業界の工期がカギを握っています。工期は長く、現場によっては、期を跨ぐこともあります。よって建設業界においては、その期の損失を次の期に「送る」ことが比較的安易にできる点が、粉飾が多い背景として挙げられます。
この期の損失は次の期に返せばいい、皆そう思って次の期に送る「粉飾」を行っているようです。結果、その数字が雪だるま式に増えていく、という構図になっています。
――本書で指摘されていたように、会社の問題は経営者の問題です。本書を通じて彼らにどんなことを伝えたいですか?
中西:経営の軸を売上から粗利益に変えること。そこに尽きます。売上を上げることには意味も価値もありません。売上の数字はただの表面的な幻想にすぎないとも言えます。
企業は利益を上げてこそ価値があり、存続できます。そのことにのみ本気で向かってもらいたいです。その意識を持つだけでも各社の利益は確実に上がると確信しています。粗利益だけを経営数字の軸にしろ、私は建設業界の全経営者の方にそう強く言いたいです。
(新刊JP編集部)