体育会系人材が持つ特別なポテンシャルとは?
学生時代に部活やスポーツに打ち込んできた人が社会に出ると、上司や先輩から「体力と根性はあるはずだ」と見られやすい。同時に本人も、「スポーツばかりやってきて世間を知らない」という自覚から「体力だけが取り柄です」と自己紹介しがちだ。
しかし、スポーツに没頭してきた人材は、競技を極める過程で社会人になっても必要とされる様々な能力を社会に出る時点で既に身につけており、特別なポテンシャルがある、とするのが『アスリート人材 飛び抜けた突破力と問題解決力で100%やり遂げる!』(松本隆宏著、マネジメント社刊)だ。
今回は著者の松本隆宏さんにインタビュー。アスリート人材が備えた能力と、その活かし方についてお話をうかがった。
■体育会系人材が備える、ビジネスで活きるすごい能力
――『アスリート人材 飛び抜けた突破力と問題解決力で100%やり遂げる!』についてお話を伺えればと思います。まず、今回の本を書いた動機についてお聞かせください。
松本:アスリートとして競技に没頭していた人は、その過程で社会に出ても通用する得難いスキルを身につけています。たとえば目標達成のために自分自身をコントロールする術であったり、勝つために何が必要なのかを考えて訓練を積む分析的な思考などです。
それらは社会に出てからも必要な能力で、社会に出る前に身につけているのは大きなアドバンテージになるはずなのですが、「そういった能力を身につけている君たちはすごいんだよ」と言ってくれる人がどのくらいいるのか、というと少ないと思うんですよね。
――体育会でスポーツに打ち込んでいる学生やアスリートに、自分達が競技の過程で身につけた能力に気づいてもらいたいというのが、本書を書いた動機になっていたのでしょうか。
松本:そうですね。私は大学まで野球をやっていたのですが、野球を通じてこうした能力が既に身についていることが就職する当時はわかりませんでした。
その意味では今回の本は私自身が学生時代に欲していた情報を盛り込んだものだと言えます。競技に打ち込んできた人は「スポーツしかしてこなかった人」ではなく「実社会でも活きる経験を培ってきた人」だということを知ってもらいたいと思います。
――松本さんは高校・大学と名門チームで野球をやってこられました。となると、頭の片隅には「プロ野球」があったかと思いますが、当時は社会に出た後の自分についてどんなイメージを持っていましたか?
松本:高校時代に運よく春の選抜高校野球に出ることができたのですが、そこで全国レベルの選手を見た時に、自分は到底プロに進める選手ではないと感じて、途中からはプロ野球に進むイメージは湧きませんでした。大学で野球を続けて、社会人野球に進めたらいいな、くらいのイメージでしたね。
――会社員になった自分のイメージは持っていましたか?
松本:それは全然なかったです。父が消防士だったので、そういう仕事への憧れがあったのですが、大学でケガに泣かされたこともあって自分は体が強くないということはわかっていましたし、痛みもありますし、何より消防士になるには筆記試験があるじゃないですか。それまで勉強らしい勉強をせずにきていましたから、筆記試験に通らないだろうと思って、どうしたものかと考えていました。
――アスリート自身が「自分はスポーツしかやってこなかった人間」だと考えて、スポーツをする過程で身につけてきた様々な能力を自覚していないというご指摘には納得しました。アスリートが競技以外でも活きる能力に自分で気づかないことにはどのような背景があるのでしょうか?
松本:一つ言えるのは助言者がいないことでしょうね。
ましてチームメイトは基本的に自分と同じ経験をしているわけで、客観的な視点を持っているわけではありませんし、寮生活をしていたりすると一般学生との接点も少ないでしょう。誰かが助言してくれれば気づけるのに、助言してくれる人がいないというのが一つの背景だと思います。外の世界との接点が限られていますから、自分で気づく機会も少ないですしね。
――確かにそうですね。
松本:ただ、競技ごとに特性はあれど、身につけてきた能力は必ず社会で活きるものです。コンマ何秒を縮めるために毎日トレーニングを積む陸上選手が、そのストイックさを持ち続けたら他のことでも成功すると思うんですよ。ただ、その追求心が他の人は持ち合わせていないすごい能力なんだということに気づける機会がない、ということですね。
――アスリートが社会に出たときに「自分に何ができるのか見当がつかない」という状態はよくわかります。そういうことにならないように、アスリートは現役中から競技を離れた後の自分についてある程度考えておくべきなのでしょうか?
松本:競技をやっている間はそれに全身全霊打ち込めばいいと思います。何かを追い求めながら他のことも考えるって、そう簡単なことじゃないですよ。後ろの扉を閉めてでも一定期間没頭するのはいいことだと私は考えています。
結果、競技生活を終えた時点では「自分に何ができるのかわからない」となるかもしれませんが、それは当たり前のことです。その状態から「こんな人生がいいな」「あの人みたいになりたいな」とモデルを見つけながら模索していくのが大切なんだと思います。
(後編に続く)