だれかに話したくなる本の話

起業の成功を妨げる 日本人特有の「借金忌避体質」

独立・起業は人生を賭けた大勝負。その成否を決める大きな要因の一つが「資金」だ。

自己資金だけで開業できない場合、銀行から融資を受けるのが一つの方法になるが、これらについて知らなかったり、「お金を借りる」ことへの嫌悪感から乏しい自己資金で起業し、資金繰りが不安定な創業期を乗り切れずに倒産してしまうケースは多い。その意味で融資のリテラシーは起業に必須だ。

『増補改訂版 独立開業から事業を軌道に乗せるまで 賢い融資の受け方38の秘訣』(田原広一著、幻冬舎刊)はこれから起業する人、事業を成長させたい人に向けて金融機関からの融資を受けるノウハウを解説する一冊。どうすれば融資を受けやすくなるのか、あるいは融資を受けにくい人とはどんな人なのか。著者の田原広一さんにお話を聞いた。

■住宅ローンは組むのに事業融資は忌避する日本人の特性

――『増補改訂版 独立開業から事業を軌道に乗せるまで 賢い融資の受け方38の秘訣』は、これから起業する人や既に起業していてこれから事業を拡大していこうとしている人に向けて融資の知識を授けてくれる一冊です。本書の中で借金に対する抵抗が強い日本人の気質を指摘されていましたが、この気質が起業時の資金集めや資金繰りにどう作用しているのかを教えていただければと思います。

田原:そもそも、なぜ日本人の多くが「借入=悪」と考えているのかというと、テレビなどで事業を起こしたはいいものの借金苦で自殺してしまった人のエピソードを見たりしたことによる刷り込みが大きいのかもしれませんね。

ただ、おもしろいのは住宅ローンを組むのはいいことだとされて、奨学金を借りるのも悪いこととは考えられていません。これらも起業時の融資も金融機関からの借入という意味では同じです。

もちろんカードローンやサラ金からの借金はダメですけど、創業時の融資は政府系金融機関からの借入であって、悪いものではないということはわかっていただきたいですね。実際、旦那さんが独立開業をするのに融資を受けようかという話をすると奥さんが頑なに嫌がる、という話はまだたくさんあるので。

――奥さんの側に借金に対するまちがった刷り込みがあるということですね。

田原:そうですね。たとえばその奥さんの両親が昔ビジネスをやっていて、借金で生活が苦しかったとか、そういう記憶から借金に対して否定的なイメージがあったり。

あとは、親族の家に行って起業の話が出た時にポロッと「借入をする予定なんだよね」と言った途端に、そんなこと一言も言っていないのに担保を取りに来たんだと親族が勘違いするパターンもままあります。

ただ、それで借入を断念した結果、タイミングを逃してしまって、借りたお金で成長させられたはずの事業を成長させられず、にっちもさっちも行かなくなって逆に変な借入に手を出してしまうパターンは本当に多い。

――それでは本末転倒ですね。

田原:問題は創業時というタイミングを逃して、業績が良くない状態だと借りたくても借りられないことです。あの融資金があればもうちょっと成長できて次の出資も受けられたのに、ということはあり得る話なんです。

――無借金経営信仰についても指摘されていましたね。

田原:無借金経営も良し悪しなんです。たとえば任天堂の経営者が「うちは無借金経営です」と言ったら、「無借金でそこまで成長したのはすごいですね」となるのですが、町の小さな会社の社長が同じことを言っても「借金していればもっと成長できたかもしれませんね」となる。

これも「借金=悪」と捉える人が多いので、「無借金=悪い部分がない」と考えるんでしょうね。ただ、銀行と取引実績を重ねて関係を維持することは、会社にとって大事なことなんです。

一度ある会社から相談を受けたことがあるのですが、その会社は手元資金が400億円あって、それに加えて銀行から融資も受けていました。ただ会社の規模的に400億円あれば融資されたお金は使わないので、「金利が高い」と言って返済してしまったんですね。その時に「もう使わないから返すわ」という感じで、銀行員への態度が悪かったこともあって、その会社は銀行からの評価が下がってしまった。結果、その後の融資を受けられず、やりたかったM&Aができなくなってしまったんです。

借りるときは丁寧な態度なのに、返す時に悪態をつくというのは当然銀行からの印象が悪いですし、借りたい時だけやって来て、手元にキャッシュがいらない状況になると銀行との接点を切る経営者はあまりいい経営者だとは見なされないということは知っておくべきです。

――なるほど。

田原:400億あると言っている会社が1億、10億借りたいっていうのは銀行側からすると意味がわからないじゃないですか。さらにM&Aで新しく会社を買うと言っている。

銀行側からしたら「貸した後に飛ばれるんじゃないか」となるわけです。それまでに継続して付き合いがあれば絶対貸すはずなんですけど。

――銀行側からすると信頼性が疑わしく映ってしまうわけですね。

田原:そうです。結果貸してくれなくなる。そうなると新しいことにチャレンジできなくなってしまうんです。もちろん、ちょっとずつ成長していくなら手元に現金がそこまでなくても資金繰りは回るんですけど、今がチャンスということでアクセルを踏んで勝負に出る瞬間も、やっぱり経営をしていたらあるはずなんですよ。

一気に事業を伸ばそうとすると出ていくお金が増えますから、資金繰りが一時的に悪くなります。でも、銀行と付き合いを持っておけばそういう時に助けてくれるんです。成長しやすくなりますし、潰れにくくなるんですよね。

――資金繰りが不安定な創業初期を乗り切れずに資金ショートしてしまう会社は融資を受けていないケースが多いのでしょうか?

田原:多いですね。一番悪いパターンは融資を受けずに創業して、三ヶ月くらいやってみたら売り上げが立たず、カードローンでお金を借りてしまい、その限度額ギリギリになってから「低金利で借りられますか?」と言って銀行に来るパターンです。

創業時に融資を受ければ半年くらいは潰れない資金を確保できたりするので、積極的に融資は活用すべきだと思います。

――融資を受ける最大のチャンスは“創業前”とされています。現在の創業時融資を受ける難易度について教えていただければと思います。

田原:準備さえすれば9割9分通ると思います。ただ、あくまで「準備をすれば」という前提があっての話で、やろうとしている事業の分野での経験もなく自己資金もないという状態で相談に行っても落ちてしまうことが多いです。

私の会社には元日本政策金融公庫の社員として創業時融資に携わっていたスタッフがいるのですが、彼が言うにはいきなり窓口に来て融資を頼んで審査を通る人は5割かもっと低いくらいじゃないか、と。これを高いと捉えるか低いと捉えるかですが、僕は低いなと思っています。

――今おっしゃった準備というのは、本書でも解説されているような説得力のある創業計画書を用意したり、自己資金を用意したりといったことですよね。

田原:そうですね。あとは信用情報を傷つけないように生活するのも準備です。たとえば個人的な支払いで遅延を繰り返していると信用情報に傷がついてしまいます。「先月遅延した」みたいな人は、融資はすごく通りにくくなります。期日がある支払いは遅延しないほうがいいですね。

――準備のところで他にアドバイスはありますか?

田原:あとは起業した後のことを考えて経験をつけておくのも準備だと思います。同じように脱サラしてラーメン屋さんを始めるのでも、半年くらい本気で修行してからやるのと、何もしないで始めるのとでは結果も変わってきます。

自己資金を貯めて経験を積んで信用情報も完璧だったら、あとはビジネスをどう運営していくかを考えておく、というのも準備です。あまり背伸びしすぎない、妥当な事業計画を立てるのが大事です。

(後編に続く)

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新刊JP編集部

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