「カネではなくヒトにロマンを」経営歴50年のプロが語る起業の心得
とかくビジネスでは「何をするか」が重要視されがちで、「何をすれば儲かるか」を経営者や起業家は血眼になって探す。
約半世紀の間、経営の第一線で戦い続けている経営者であり、経営コンサルタントとしての顔も持つ竹菱康博氏の著書『創業&経営の大学 ―トップは人たらしであれ』(さくら舎刊)は、そんな「常識」に一石を投じる。
自身が大切にしてきた経営哲学や、自身が主催する経営者塾で若手経営者に教えていること、これから起業する人に伝えたいことを、経験談を交えて綴るなかで、竹菱氏は「何をするかよりも誰とするか」という「ヒトの重要性」を強調しているが、この考えの根底にある哲学とはどのようなものか。全二回のインタビューの後編である。
■信頼される経営者は「裏切られても人を信じる」
――社員から信頼される経営者もいれば、そうでない経営者もいます。信頼される経営者の振る舞いや言葉がありましたら教えていただきたいです。
竹菱:私も長い間経営をやってきましたから、離れていった社員もいますし、裏切られたこともあります。私が裏切ったことだってあるかもしれません。そういった経験をしてきて思うことは、やはり経営者はたとえ社員に裏切られても信じ続けることが大切なんだということです。
どんな従業員であれ、経営者本人にはできないことをやってもらっているわけですから、そこについては信じて任せるということですね。
――「お金の使い方は人の使い方に通じる」とされています。お金だけでなく人もきれいに使うためのアドバイスをお願いできればと思います。
竹菱:これも信じることでしょう。裏切られたっていいじゃないですか。裏切られても信じることで周りからの信頼ができるんですから。
――事業をしていると、なかなか思うように結果が出ないことは少なくないと思います。竹菱さんはそんな時にどんなことを考えますか?悪い時期の乗り越え方についてのお話をお聞きしたいです。
竹菱:悪いときは何をやっても悪くなりますよ。変にジタバタしない方がいい。
――大きな流れのようなものがあるんですか?
竹菱:あります。泥沼に落ちたときにもがいたら余計に沈むのと同じで、悪い時期にもがくと余計状況が悪くなる。だから、私はそういうときはじっとしています。といっても何もしないわけではなくて、先の戦略を考えることに時間を費やしていますし、自分がコンサルティングで入っている会社でもそうするよう教えています。
――また、経営上の意思決定のプロセスについて、大事にされていることや意識されているポイントがありましたら教えていただければと思います。
竹菱:昔は他の役員の意見なんて一切聞かずに完全に自分だけで意思決定をしていましたが、今はスタッフの意見を聞くようにしていますし、広く情報を集めるようにしています。今考えると昔は直感だけで判断していましたね。今も直感で意思決定しているといえばそうなのですが、情報をできるだけ入れたうえでの直感、という感じでしょうか。
――最後に、本書の読者の方々にメッセージをお願いします。
竹菱:「自分を信じなさい」ということですね。今の日本は社会がどんどん閉鎖的になって、世界から取り残されつつあります。おそらく、これからもっと取り残されるでしょう。そんななかでも若い方々は最低限自分を信じて、何か小さいことでも夢やロマンを感じて生きてほしいと願っています。
というのも、これから起業したいという若い人と話す機会がよくあるのですが、夢やロマンという言葉が出てこないんですよ。出てくるのは「こういう事業は儲かると思いますか?」という質問ばかりです。
でも、まずやるべきことは儲けのタネを考えることではなく、「相棒」を探すことです。そこさえ決まれば「何をするか」は後でいくらでも出てくる。だから、まずは「こいつと組んだらおもしろそう」という人間を探しなさい、うまいこと成功したら一緒に酒を飲める奴、失敗したら笑って「次は何をしようか」と言える奴、そんな仲間を探しなさい、そこにロマンを持ちなさい、と答えています。お金にロマンを持ったらいけません。人探しにロマンを持っていれば、お金は後からついてくるものなんです。
――竹菱さんが今ロマンを持っていることや情熱を持って取り組んでいることは何ですか?
竹菱:60歳を過ぎて仕事をリタイアして、時間を持て余している人を再生させようというプロジェクトが走っていて、それはおもしろいと思ってやっています。仕事はしていないし、家庭では“粗大ごみ”のような扱いをされていたりもするのですが、錆びついていても能力はある。そういう人の錆びをとってまた活躍できるようにしようというプロジェクトです。
先ほど若い人にロマンを持ってほしいという話をしましたけど、おじさんだってロマンを持っていた方がいいのは一緒です。戦後の高度成長を支えていた世代の力はまだまだあなどれないということをこれから見せていければと思っています。
(新刊JP編集部)