だれかに話したくなる本の話

いまだFAXが現役 日本でデジタル化が進まない理由

近年メディアでよく目にする「DX(デジタル・トランスフォーメーション)」という言葉は、「デジタル技術によって人の生活や企業活動をより良い方向に変えていくこと」を指す。

ただ、この定義は漠然としている。「より良い方向に変える」とは一体どういうことか。どうすれば変わるのか。

はっきりしているのは、DXとは単なる「デジタル化」ではない点だ。真のDXとその恩恵について『DXで会社が変わる』(幻冬舎刊)の著者・竹本雄一氏にお話をうかがった。

■日本の役所でデジタル化が進まない理由

――冒頭で書かれている、徳島県内の学校への中国メーカーのタブレット導入の話は面白かったです。現地に足を運ぶことなく大量のタブレットを買い入れることに不安はなかったのでしょうか。

竹本:不安がなかったというと嘘になりますが、導入したタブレットはAmazonで販売されていたので、取り寄せて使ってみたら値段の割に品質が良かったんです。それでメーカーにコンタクトを取ったという流れです。

――現地には行っていないものの現物は見ていたんですね。

竹本:そうです。もう一つ不安を取り除けた要素があって、コーディネーターの方の存在が大きかったんです。中国製品の日本への輸出を長年やっている方に間に入っていただいたおかげでスムーズに取引ができました。

――今回、DXについての本を書こうと思った理由をお聞きできればと思います。

竹本:2019年から文科省が「GIGAスクール構想(全国の児童・生徒1人に1台のコンピューターと高速ネットワークを整備するプロジェクト)」を始めました。

これによって子どもたち一人ひとりがタブレットを使って教育を受けるようになったのですが、もう何年かしたら彼らが社会に出てきます。そうなった時に受け入れ側の企業や自治体が彼らの能力を活かせる状態になっているのかという懸念を持ったことです。

――DXについては、日本は遅れていると言われていますね。

竹本:そうですね。世界と比較すると住民票一つとっても、今はコンビニで取得できるようになっていますが、色々な手続きをまだまだアナログで処理しなければならないのが現状です。

最近の例でいえば、山口県で起きた新型コロナ給付金の誤振込にもその一端が見えていて、振込元の自治体は報道にもあったように、振込の詳細が入ったフロッピーディスクを銀行に渡して、銀行が振り込み処理をしました。これって役所の方がオンラインバンクに慣れていれば不要なプロセスなんですよね。

――あの件でフロッピーディスクという言葉を久しぶりに聞いたという人は多かったと思います。

竹本:そうですよね。オンラインバンクだと、「この人に本当に振り込みますか?」と、振り込む前に確認画面が出るじゃないですか。それに慣れていれば一人の人に何千万円も振り込む前に気づくはずです。

――他の自治体もコロナの一律定額給付金の支給では手間取っていましたが、これもデジタル化されていないことが原因としてあったのでしょうか。

竹本:おっしゃる通りで、NTTデータさんがこの業務に関してのサービスを全て無償で提供すると全国の自治体に案内していて、うちも会社がある徳島県内の自治体に「サポートしますから一緒にやりませんか」とお声がけしていたんですけど、「そんなわけのわからないことはしない」という反応が多かったです。これまで通り紙の申請に基づいてやります、と。

――コロナ関連でいえば、陽性者の集計をFAXでやっている自治体もありましたよね。

竹本:集計用のウェブシステムを作ること自体は簡単なんですよ。問題はそれを入力する人の能力と言いますか。

――ITスキルがついていかない。

竹本:そう思います。慣れ親しんだFAXで送って、Excelに打ち込むのが、役所的には一番速かったのでしょう。

――保健所の方もプライベートでLINEを使ったりメールのやり取りくらいするだろうと思うのですが…。

竹本:陽性者数の報告をメールでやると仮定すると、データのやり取りを全部添付でやるでしょう。そうなると、新しいデータと古いデータを取り違えるという可能性が出てきますよね。

あとは誤送信もありえます。今のメールソフトって最初の3文字くらい入力するといくつかの候補が出てくるじゃないですか。送る人はこのアドレスだと思い込んでいても、実は候補に出てきた違うアドレスに送ってしまっていた、というのが一番の「あるある」だと思います。まして個人名や入院先などの個人情報もやり取りするでしょうし。

――個人情報が全然違う人に送られてしまうミスは怖いですね。

竹本:もちろんFAXでも誤送信はあるのですが、ワンタッチで登録しておけばそんなに起こるものではありません。

本当はFAXを紙で出さずにデジタル処理をして、そこから自動的に集計をするということはできるんです。ただそこまでやると、現場の人がついていけない可能性がありますし、メンテナンスの問題もあります。

――お話を聞くと、自治体のDXは長い道のりのように思えます。

竹本:長い道のりですよ。どうしても現場ではRPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)や自動化をすることで自分の仕事がなくなると考える人がいますし。

首長が若い自治体だと比較的理解が早いのですが、それでも予算を通すのには議会の承認が必要です。高額でなければ通りやすいのですが、何億単位の「目玉予算」となると長くやっている高齢の議員の方の反対にあうこともありますね。「DXなんて知らん」「RPAって何だ」ということで。

ただ、DXの道のりの長さでいうと自治体に限らないと思います。企業さんでもまだまだアナログでやっているところはたくさんありますから。

――海外のDX事情について教えていただきたいです。

竹本:隣の中国はものをたくさん作ることに長けた国とあって、いわゆる「中華タブレット」を学校に配っていましたよね。だからコロナ禍でも「今日からオンライン授業をします」と言ってすぐ対応できたんです。

アメリカはGoogleのOSが入っている「Chromebook」を100ドルで売り出していて、日本のように家電量販店でしか買えないものではなく、どこでも売っています。

――そんなに安いんですか?

竹本:そうです。その価格であれば買い替えも容易ですし、国や教育機関の負担で買うのではなく、教科書と同じように各家庭で準備する体制にするということも考えられますよね。

(後編に続く)

DXで会社が変わる

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急成長を遂げる徳島発のICT企業社長が次世代のビジネススタイルをわかりやすく説く。

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新刊JP編集部

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