だれかに話したくなる本の話

意外な奥深さ 駅名からわかる日本の歴史

普段何気なく利用している電車の駅。その駅名の由来には地名や神社仏閣、「前」や「東西南北」のつく駅名など、さまざまな由来がある。そんな奥が深い駅名の研究を紹介するのが『駅名学入門』(今尾恵介著、中央公論新社刊)だ。

本書では、地図研究家の今尾恵介氏が、注目の駅名、お馴染みの駅名、キラキラ駅名まで、駅名の世界を解説し、駅名のメカニズムを通して、社会構造の変化や地名との関係、公共財としての意義や今後のあり方を展望する。

■意外に多い「駅名が地名になる」ケース

駅名は「所在地の地名」を名乗るのが当たり前と考えられているが、実はその逆も多い。新たな駅名ができた後で、所在地の地名を駅と同じものに変えてしまう、というケースだ。駅名は毎日のように通勤通学で利用されるため年月を経ると「通称地名」になりやすいという。住居表示の実施や町名番地整理事業など、地名統合をしようとする際に利用されるのである。

たとえば山手線の駅名のうち、五反田、恵比寿、高田馬場、目白、大塚の各駅の所在地は、従来の地名ではなく駅名に合わせたものだ。高田馬場駅の場合、明治43年9月15日の開業時の所在地は、豊多摩郡戸塚村大字戸塚字清水川というもの。

駅名候補としては当初、上戸塚駅、諏訪之森駅もあったが、人口に膾炙した江戸期からの名所ということで、高田馬場の駅名が選ばれた。駅の所在地は東京市内になってから淀橋区戸塚二丁目となり、戦後までこの町名は続く。その南側も歴史の長い諏訪町が続いていたが、昭和50年に両町のうち、明治通りから西側を駅名に合わせて高田馬場と改称している。戸塚町は長らく早稲田大学の所在地でもあり、大学名に合わせたのか大半が西早稲田となり、戸塚町一丁目が大隈庭園付近のわずかな面積が残るのみとなっている。

また、駅名にも「キラキラネーム」のようなネーミングの駅がある。そんなキラキラ駅名の本場が平成17年開業のつくばエクスプレスだ。都心の秋葉原を起点に埼玉県、千葉県を抜けて茨城県つくば氏までの58.3キロをつなぐ。都内を走っているうちは他線と接続する駅の他の地名を採用しているが、南流山駅の先は、流山セントラルパーク、流山おおたかの森、柏の葉キャンパスなど、ひらがな、カタカナを使い、新しそうな言葉をちりばめた駅名が並ぶ。

最寄りの駅など、身近な駅名にも由来があることが本書を読むとわかる。駅名をめぐるあれこれを調べてみると、その土地の時代背景も見えてくる。駅名を通じて、土地や歴史も楽しく学べるはずだ。

(T・N/新刊JP編集部)

駅名学入門

駅名学入門

「高輪ゲートウェイ」で一躍注目を集めた駅名。日本の駅名とは、そもそもどういうものか。

明治以来の歴史的変遷から浮かび上がってくる、思想、そして社会的・政治的・文化的背景とは。

さらに、カタカナ・ひらがなを多用した「キラキラ駅名」はいかなる文脈から発想されるのか。

駅の命名メカニズムを通して、社会構造の変化や地名との関係、さらに公共財としての意義や今後のあり方を展望する。多くの発見と知的刺激に満ちた本。

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T・N

ライター。寡黙だが味わい深い文章を書く。SNSはやっていない。

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