コーチングが組織に根付かない3つの理由とは?
アメリカから日本に「コーチング」というコミュニケーション手法が導入されたのが、1997年のこと。それ以来、多くの日本企業が取り入れようとしたが、いまだに根付いているとは言えず、日本のエンゲージメントは世界から見ても低い事はデータでも出ている。
なぜ日本でコーチングは根付かないのだろうか?
その問いに対し、コーチ・コントリビューション株式会社代表取締役の市丸邦博氏は
1、「コーチングは万能である」という大いなる誤解がある
2、過去の成功体験から、ティーチング型リーダーシップが優先されてしまう組織風土がある
3、上司からの見せかけのコーチングと、コーチングアップ(上司に対するコーチング)の欠如
という3つの理由をあげている。
例えば「2」の組織風土について、コーチングを導入しようとする組織の多くはすでに何らかの成功を収めていることが多い。企業がグローバル化の流れの中で、その波に乗り遅れないようにとコーチングを導入しようとするわけだが、それまでの成功体験――リーダーがメンバーに対して知識を教えて育成する「ティーチング型」のリーダーシップが邪魔をしてしまう。
コーチングとはメンバーに主体的に考えてもらい、行動を促すためのコミュニケーション手法であり、教育型・命令型のコミュニケーションでるティーチングとは真逆だ。
こうした背景があることから、コーチングを導入しても上辺だけになってしまう。
では、どのようにすればコーチングが組織に根付き、持続的な成長を促すことができるのか。
『サスティナブル・コーチング』(同友館刊)は、福岡大学商学部教授の合力知工氏がコーチングの理論面から、そして前述の市丸邦博氏がコーチングの実践面からそれぞれアプローチし、「自走する組織」を創るために必要なものを教えてくれる一冊である。
■コーチングは「ヒトを活かす」という目的にこそ可能性がある
まず合力氏は、コーチングの目的とは「組織の生産性向上」ではなく「個人の能力の醸成」であると述べる。つまり、「コーチングによって醸成された個人の能力」が結集し、その結果として「組織の生産性向上」があると考えるのである。
コーチングは「ヒトを活かす」という目的にこそ可能性を感じると合力氏は指摘する。
本人が自分の置かれている環境や取り組んでいることにネガティブだと、その効果は発揮されない。ポジティブに業務に取り組むことができ、それが自分の望む未来につながっているという意識を持てることが、社員の幸福感の向上につながり、それが引いては組織の生産性向上につながっていくのだ。
合力氏は本書の中でポジティブ心理学の見地からコーチングを考察しており、幸福感が持続可能なコーチングの基盤になると指摘している。
■「コーチングとティーチングの使い分け」でメンバーの成長を促す
一方の市丸氏は、自身の経験を交えつつ、実践的な視点でコーチングをどのように導入すべきかを説明している。
まず指摘していることは、「コーチングとティーチングの適切な使い分け」だ。
命令型のティーチングは、日本の企業から学校、家庭にいたるあらゆる現場において、「教育の型」として浸透している。新人に業務に教えるときや、短期的に成果を上げたいときなどは、ティーチングの方が機能しやすい。しかし、それを続けていくと、指示待ち人間が蔓延してしまったり、教える人間のコピー以下しか育たないというデメリットがある。
そこで本書では、目標達成に向けてコーチングとティーチングを使い分けながら、日常の中でリーダーとメンバーが対話をしていく「実践型コーチング」という手法の実践と、個別に1対1で対話をする「1on1コーチング」を提案している。
「1on1コーチング」は2週間に1度、30分~1時間のリーダーとメンバーによる対話の時間である。対話といっても話の主役はメンバーだ。リーダーは、メンバーに質問をしながら話をじっと聴く。自分の強みは何だと思っているのか、今の組織で何を達成したいか、それを達成するためにどうすればいいのかといったことに対して主体的に考え、行動するように働きかけていく。ここで築かれた信頼関係は、職場の一体感にもつながり、組織全体の活性化にもつながっていく。
本書には「人事評価制度における《1on1コーチング》の位置づけは?」と題して、株式会社あしたのチーム代表取締役CEOの赤羽博行氏が特別コラムを寄せており、人事評価制度における面談手法として「1on1コーチング」「実践型コーチング」を導入する意義について書かれている。赤羽氏は「目標達成という同じ目的に向け大変相乗効果の高い取り組みであることが分かってきました」と効果を実感しているという。
また、株式会社あしたのチーム取締役の堤雄三氏は、1on1コーチングのプロジェクトを2020年5月より実践しており、本書の著者の市丸氏には、「日々の対話の積み重ねは、リーダーとメンバーの関係性の構築に大きな役割を果たす。評価に関連する面談というのは、非日常イベントであり、着地点である。日々の対話の積み重ねを、評価面談や目標設定面談というイベントを通じて、双方のコミュニケーションで合意形成をしていく。日常と非日常のたすき掛けで、組織を改善していくことが重要だ」というコメントが寄せられているという。
「1on1コーチング」「実践型コーチング」という分かりやすいコミュニケーションの手法やモデルがあれば、コーチングが持続的に機能していくはずだ。
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本書の5章では、コーチングを持続的に実践している事例も紹介されている。これからコーチングを学びたいと思っている人や、導入したいと考えている組織、コーチングを取り入れているけれどうまく機能していない組織には大いに参考になるだろう。
コーチングが根付いている組織は強く、メンバー自身が主体性を持っているため、成長スピードも速い。そうした組織創りをこれから目指すのであれば、「コーチング」とは何かから本書で学び直してみてはいかがだろうか。
(新刊JP編集部)