学生の中途退学は予測可能か? 大学教授が論じる「学生との向き合い方」
スタートは皆しっかり講義に出席しているが、時間を追うごとにだんだんと空席が目立ちはじめ、途中脱落者が続出する……。大学の講義でよく見られる光景だ。
教育者としては、学生が意欲を持って授業や講義を受けているのか気になるところだろう。しかし、それを測ることはなかなか難しい。モチベーションが高いかどうかを直で聞くわけにはいかない。
では、どのようにすれば、意欲を測ることができるのか。
桃山学院大学経済学部教授の中村勝之氏が執筆した『文庫改訂版 学生の「やる気」の見分け方 経済学者が教える教育論』(幻冬舎刊)は、「学生・生徒の意欲等をどこで見るか」から始まり、中村氏が授業で使用している小レポート「レスポンスシート」を通した学生との向き合い方について論じた一冊である。
■学生が中途退学をしてしまう要因とは?
モチベーションを失った学生が行き着く先が「中途退学」だろう。
中村氏は、「どんなカリキュラムシステムやイベントなどの仕掛けを導入しても、そこから抜け落ちる学生は必ず存在する」(本書p.137より)と述べた上で、抜け落ちる可能性のある学生を早期発見し、必要な対策を講じることが重要だと指摘する。
そこで本書では、除籍や中途退学をしてしまう学生たちを「除退者」と呼び、除退予備軍をどのようにあぶりだすのかを論じている。
せっかく大学に入学しても、さまざまな理由から除退する学生が必ず存在する。中村氏は日本中退予防研究所の調査結果を参考にする。
●初期型
入学早々に顕在化するのがこの初期型だ。偏差値の低い高校出身者だったり、高校在学中の評定平均が低い「典型的初期(落ちこぼれ)型」や、安易に進路先を決めた「学科ミスマッチ型」が典型的な例となる。
また、大学に通い始めてから生活リズムを崩してしまう「生活リズム不安定型」、人間関係の構築につまずき、そのままフェードアウトする「人間関係苦手型」、さらには学習する上でのハンデを持った学生が除退を余儀なくされる「福祉対応必要型」も初期型に分類される。
●失速型
続いては「失速型」だ。「典型的失速型」は何らかのきっかけで突然学習意欲がなくなり、それが習得単位数やGPA(Grade Point Average)の急速な低下にあらわれる。前述の「福祉対応必要型」はこの類型にも含まれる。学習上のハンデがもとで専門教育についていくのがより困難になることが考えられるからだ。一方、習得単位もGPAも申し分ないのに、突然除退となる「隠れ不満型」も失速型に分類される。これは、所属している大学に対する教育水準に不満を持つことから顕在化すると考えられる。
●突発型
最後の「突発型」は、家庭の経済状況の急変から除退を余儀なくされるもので、「貧困型」が典型だ。
新型コロナウイルス感染拡大の影響で、このタイプの除退が増えたと思われがちだが、実際はそうなっていないと中村氏。2020年4月から12月の文科省の調査を見ても、前年同時期に比べて除退者は減っているという。
■学生の除退予測は可能か?
大学の運営上重要なことは、こうした除退者たちが出ることを事前に予測することは可能かどうかということである。
中村氏は、先行研究から「3年生4月時点で除退となる学生の特徴は入学直後から顕在化する」(本書p.143より)という見通しを立て、彼らへの対策を適正に講じれば、除退防止の有効な手段になるのではないかと考える。
では、どのタイミングで除退阻止に向けて動けばいいのか。
先行研究では、講義への出席状況や初年次段階の成績で学習態度が把握される。だが、成績が明らかになったタイミングはもちろんのこと、講義を休みがちになったことに気づいたタイミングで既に手遅れだろう。現場にとって重要なことは、「逃げ出す前」の段階で発するシグナルが何かを見出すことだ。
本書では、レスポンス「シートに書かれた文字情報が重要なシグナルである」(本書p.143より)という仮説を立てた上で、ある講義の受講登録者を対象にレスポンスシートで書かれた自己評価の文章をデータ化。その語彙数と内容が、学生の除退予測に利用可能かを検証している。
教育者向けに書かれている一冊ではあるが、自身が学生であったり、学生の子を持つ親であれば気になる内容であるはず。さらに、レスポンスシートの採点表であるルーブリックを使うことの効果、ある講義を起点にした学生の履修行動の追跡調査、アクティブラーニングの実践など、中村氏の教育現場の様子もうかがうことができる。
教員はどう学生と向き合えばいいのか。そのヒントを提示してくれる一冊だ。
(新刊JP編集部)