食肉用ニワトリの捕獲に警備員、探偵…転職を繰り返す男の風変りな半生
毎日の仕事にやりがいを感じられなかったり、今の仕事が本当にやりたいものではなかったりしても、なんとなく惰性で、「これは生活のため」と心を殺すようにして、こなせていけてしまうのが仕事というもの。
しかし、「不本意ながら今の仕事をやっている」という人も、(その仕事を今後も続けるかは別として)せめて今日この一日の業務に楽しみを見つける努力をしても、損はない。どんな仕事にも、「事件」や「ドラマ」が満ちている。それに気づくことができるかどうか、それを面白がれるかどうかはあなた次第だ。
■食肉用のニワトリの捕獲に警備員、転職を繰り返す男の味わい深い人生
誰しも実は、物語みたいな日常を生きている。 フィクションのようであったり、ノンフィクションのようであったり、漫画のようであったり、それがなおかつ面白ければ、それで良し。
『わたし、探偵になっちゃいました』(オーサキ・コー著、幻冬舎刊)の序章にはこんなことが書いてある。
その主人公である「私」は、挫折に挫折を重ね、転職を繰り返した折、母を亡くして自暴自棄になり、深夜に大量の食肉用のニワトリを手づかみでカゴに入れる「捕鳥」という仕事の求人に応募する。夜な夜なニワトリを追いかけて、ひたすらカゴに入れ続けるという、かなりの重労働かつ風変りな仕事なのだが、そこで働く人々も一癖ある人物ばかりだ。特に、すさまじい速さで鳥を捕まえることができる元自衛官の通称「サウザー」は、その能力から職場で絶大な権力を振るっていた。
やけっぱちでこの仕事についた「私」だったが、やるからには「捕鳥の王」を目指す、ということで体力強化に励み、ついにサウザーと肩を並べる存在になるが、ライバルとなったことでサウザーと対立し、サウザーが職場を去ると追随する者が続出。16人いた従業員が6人まで減ってしまい、「私」もついにギブアップ。とても仕事を続けられる状態ではなかった。
またしても転職をすることになったわけだが、次の仕事に導いたのが、ほかならぬ「サウザー」だった。警備会社に転職していたサウザーの話から興味を持った「私」は、警備会社に入社。今度は交通整理で使う誘導棒の扱いに誰よりも習熟しようと、努力を重ねていくが、またしても事件が起こり、経営者と対決するハメに…。
華やかな業界でもなく、誰に注目されるわけでもない仕事を転々とする「私」だが、「日々を生きる金のために働く」というニュアンスがまったくない(もちろん、裕福なわけではないし、「私」には子どもが4人いる)のがおもしろい。ひたすら「目の前の仕事」「目の前の人間関係」に対峙して、思い通りにいかないことも笑い飛ばすたくましさは爽快さすら感じられる。
せっかくの人生、楽しむためには、悩んでいる時間なんて無駄、とばかりに先のことよりもとにかく「今」を生き続ける主人公に励まされる人は、きっと少なくないはずだ。「作り話」と銘打った割に、エピソードが生々しく、どことなく「実話くさい」のも味わい深いポイントだ。
(新刊JP編集部)