だれかに話したくなる本の話

急増する新型コロナ感染者 日常ですべき予防対策をレスキューナースに聞いた

季節が秋から冬へと移り変わるこの時期、夜の気温は10℃を下回るようになり、一段と寒さを増してきた。
そんな中で気になるのが、新型コロナウイルスの感染者数だ。11月に入るとその数は一気に急増。東京都で12月5日に584人の感染者が確認され、日本全体でも同日に2508人を記録した。

『レスキューナースが教える 新型コロナ×防災マニュアル』(扶桑社刊)の著者で、国際災害レスキューナースとして26年間活動し、被災地での感染症予防対策に詳しい辻直美さんは、新型コロナに対して日本人は「慣れてきて、気が緩んでいる」と指摘する。
「感染しない・させない」ために今、私たちがすべきことは何か。地下鉄サリン事件で現場の指揮を執った経験のある、感染症対策のプロ、辻さんに感染対策法を基礎から教わった。

(構成・聞き手:金井元貴)

■もうすぐ本格的な冬が到来。コロナ対策で気を付けるべきことは?

――新型コロナによって緊急事態宣言が発令されたのが今年4月6日です(全国を対象とした宣言は4月16日)。それから半年以上が過ぎ、新しい生活様式が定着してきたようにも感じます。ただ、その一方で「ウィズ・コロナ」への慣れも出てきたと感じるのですが、辻さんはどのように見ていますか?

辻:おっしゃる通り、気が緩んでいるように感じます。建物の入り口に置いてあるアルコール消毒をやっている人も少ないですし、手洗いうがいさえやっていれば大丈夫と思っているかもしれない。でも、髪の毛や服、カバンなど、そこまでケアをしている人も多くはないでしょう。最近、また感染が拡大してきていますが、やっているという慢心も一つの原因なのではないかなと。

また、これから本格的に冬になると、湿度が下がって乾燥するでしょう? 乾燥するとウイルスや感染症にかかりやすくなります。もともと冬はあまり水分を摂らないうえに、マスクをしているので口の中が乾燥していることに気づきにくくなるんです。

新型コロナだけではなく、インフルエンザや風邪にも注意が必要です。しっかりと感染対策しなかったらダブルパンチもありえます。

――では、冬のコロナ対策としては、口の中を乾燥させないことが大事なんですね。

辻:そうですね。まずはとにかくこまめに水分を摂ってほしいです。45分に一口でいいですよ。それだけでも粘膜が潤って、菌を排出する力が増します。水分であれば、水でも、お茶でも、コーヒーでも大丈夫です。

暖房がかかっている部屋の中にいる時にも意識してください。加湿器を使うなどして乾燥を防ぐということも大切です。

――確かに暖房を使うと余計に乾燥します。

辻:はい。それに窓を閉め切って暖房をつけていませんか? 予防の観点から換気はすごく重要! 窓を開けるのも必要になります。そうなると、自分の身体を冷やさないようにしないといけない。家の中でも靴下を履く、温かい食べ物を摂る、湯舟に浸かって芯まで温まるというような、いわゆる丁寧な生活をしてほしいと思います。免疫力を上げることも必要ですから。

毎日が忙しいとおざなりになってしまうことを、しっかり実践することが大切です。

――他にコロナの予防として、辻さんから見て詰めが甘いと思うことって何がありますか?

辻:先ほども挙げましたが、外出して帰ってきたときの服やカバンの扱いですね。実は玄関って一番のレッドゾーンなんですよ。つまり、汚染されているエリアということです。そこでしっかり消毒をしないと、リビングやベッドルームにもウイルスを持ち込んでしまう可能性がある。

その最たるものがカバンです。例えば、外で引いてきたキャリーバッグをそのままリビングに引いていくなんてもってのほか。コロナウイルスはホコリのようなものだとイメージしてください。床に多くいるんです。だから、車輪にはウイルスがたくさん付着していると考えてください。玄関付近に段ボールやシート、箱を設置して、そこにバッグを置くという対策が必要です。

――確かに電車やお店で座ったときに、バッグをつい下に置いてしまいます。そういうところからもウイルスが付着して入り込んでくるわけですね。

辻:そうなんです。地面に置いていなくても、知らないうちにウイルスが付いている可能性があります。そのままリビングに持ち込まないほうが、予防対策としては正しいですね。

服も同じ。これからの時期、コートを着る人も多いかと思います。自分の部屋やリビングで脱ぐのではなく、玄関で脱いだほうがいいです。また、できれば玄関にもアルコール消毒液を置いて、手指やドアノブを消毒してから洗面所に行きましょう。レッドゾーンの玄関に対して、洗面所はイエローゾーン、リビングはグリーンゾーンと区分けをすると、分かりやすくなると思いますよ。

■意外と扱い方を知らないマスク。感染予防のためにすべきことは?

――私は不織布マスクを洗濯機で洗濯しながら何度も使っています。それは大丈夫ですか?

辻:使ったマスクをそのまま洗濯機に入れるのは危険です。マスクの繊維がつぶれて効果が落ちますし、洗剤でウイルスが100%死滅するかというと正直分かりません。他の衣類にウイルスを付着させてしまう可能性があります。

だから、洗ってまた使うのであれば消毒液に30分浸す。また、洗濯機に放り込むのではなく、手洗いの方がいいですね。

――そうだったのですか。洗剤の力でウイルスが死滅するんじゃないかと思っていました。

辻:洗剤でウイルスが100%死滅するかどうかは分かりません。ただ、それだけでウイルスを殺せない可能性がある以上は、他の衣類とまとめて洗濯していると、逆にウイルスを広めてしまうかもしれません。

私は基本的には1回使ったら捨てます。再利用可能なマスクは、使用後は消毒液に浸して殺菌しています。マスク用に100円ショップで売っている小さな桶を用意して玄関に置いていますね。外から帰ってきたら、まずそこに消毒液をつくって、そのままマスクを浸します。

最初は面倒だと思うかもしれませんが、生活の流れの中に組み込んでしまうとやりやすくなると思いますよ。

――それでも手間だと思う人は…。

辻:使い捨ての不織布マスクを買って、1回使ったら捨てる。私は面倒くさがりなので、1回で使い捨て派です(笑)。節約したいなら手間をかける、面倒ならそれなりの対価を支払う、の選択だと思います。

――例えば、リモートワークをしていて、ちょっとコンビニに行って何か買ってこようというときに、15分くらいしかマスクを使わない。そういう時でもマスクは替えたほうがいいですか?

辻:基本的には変えたほうがいいです。不特定多数のお客さんが来るわけじゃないですか。もちろん、お店側も気をつけていると思いますが、どんな人が出入りしているかわからないという以上は、注意すべきだと思います。

――外出をして家に帰ってきて、マスクを処理して、それと衣類ですね。その対策はどうすればいいですか?

辻:コートなど、上着の扱いがポイントです。私は「ガウンテクニック」といって、脱いだ服を内側が表になるようにして1日かけておきます。これは看護師が感染症病棟に出入りしたり、被災地でも感染症予防のために行っているテクニックですね。

家に帰ってきて、玄関ですぐに脱ぐのですが、玄関近くに上着をかけるためのハンガーを用意しておいて、そこにかけておくんです。そして、上着は2日連続で同じものを着ないようにしています。

――徹底されていますね。

辻:そうですね。これは医療や被災地での現場でも常に実践しているものなので、職業柄苦にならないんですよ。新人の頃は習慣化するまでが結構きつくて、「なんでこんなことをやるんだろう」と思ったこともありました(笑)。でも、“自分の身を守るため、そして患者さんに移さないようにするため”と自覚してからは、しっかり身につきました。

だから皆さんも、家族を守るために行うという意識を持ってください。その意識が芽生えたら当たり前に実践できるようになりますから。

■食事中のスマートフォン操作はやめよう

――日常的な活動としては、スマートフォンの扱い方ですね。本書にも対策が書かれていましたが、スマホって電車やお店の中でつい見てしまったり、外でも使うことが多いじゃないですか。そういう時のために常に除菌シートみたいなものを持って拭いたほうがいいんですか?

辻:大前提として、手にウイルスがついただけでは感染しません。その手で目や鼻、口の粘膜に触れると感染するのです。つまり、ウイルスのついたスマホに触っただけでは感染しないけど、その手で自分の顔に触ったりすると感染する。だから、外でスマホを使うときもマスクをして触っている分には構わないと思います。スマホを触れた手で直接目をこすったりしなければいいんです。

ちなみに、感染対策として私が行っていることで「利き手と逆の手でものを触る」があります。買い物では商品を左手でしか取らないし、エレベーターのボタンも左手の指で押します。人は無意識に自分の顔を触ってしまうものなので、利き手はなるべく汚染させないようにしているのです。

――食事の時にもついスマホを見がちなのですが、見ない方がいいですか?

辻:これは絶対に見ないほうがいいですね。食べながらスマホを見る、操作するのは、ウイルスを自ら口に運んでいるのと同じです。一説には、若者の感染者が増えた原因のひとつは、食事中のスマホ操作だと言われているんですよ。食べることにもっと集中したほうがいい。

――なるほど。食事をするときはそこに集中するということですね。

辻:そうです。オンオフをつけること。丁寧に暮らす、それを意識することが予防や抵抗力アップにつながっていくと思います。やはり目の前のこと一つ一つに集中するということが、新型コロナの感染を防止するためにも必要なのではないでしょうか。

(後編に続く)

レスキューナースが教える 新型コロナ×防災マニュアル

レスキューナースが教える 新型コロナ×防災マニュアル

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この記事のライター

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金井元貴

1984年生。「新刊JP」の編集長です。カープが勝つと喜びます。
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