だれかに話したくなる本の話

日本の会社が「タテマエ」ばかりになってしまう理由

どんな人でも、自分が勤める会社や組織に言いたいことはあるはず。
でも、いち社員の立場で組織に対して「物申す」のは勇気がいるし、自分と同じような意見を持っている人が他にいるのかもわからない。だから、こうした問題意識はほとんど表に出ることなく、居酒屋や家庭内での「グチ」として人知れず消えていく。

この「グチ」を「社員のホンネであり、組織変革・業績向上を実現するカギ」だとして、積極的に活用する手法を解説しているのが『「グチ活」会議 社員のホンネをお金に変える技術』(日本経済新聞出版)だ。今回は著者の仁科雅朋さんにインタビュー。日本の組織が「タテマエ」ばかりになってしまう理由や、仁科さんが提唱している「グチ活」についてお話をうかがった。

■社員の「グチ」を解放せよ 組織の生産性向上を実現する「グチ活」とは?

――『「グチ活」会議 社員のホンネをお金に変える技術』は、社員のグチに注目したユニークな本で、発売前にAmazonランキング(企業経営一般関連書籍ジャンル)で1位となるなど注目されています。仁科さんが「グチ」に耳を傾けるべきだと考えるようになったきっかけになった出来事がありましたらお聞きしたいです。

仁科:私は組織改革コンサルタントとして活動しているのですが、この仕事を始めてから、自分で「しっかりやれるようになったな」と思えるようになるまでに結構時間がかかっていて、いろいろと失敗をしているんです。

その一つなのですが、ある大手食品会社の営業部の売上を上げるために組織改革をするというプロジェクトを何人かのコンサルタントで担当することがあって、私はそのなかの3チームを担当していたんです。1チーム4人ですから全員で12人、みんな大手の社員だけあってすごく優秀なんですよ。私が「こうしよう」と提案したことをすぐに資料にまとめてくれましたし、書面や資料の提出などは非常に早くて上手でした。

――それはコンサルタントの側からしても仕事がしやすいですね。

仁科:そうです。だから営業チームの改革にしても、ある程度のことはしっかり実践できているのかなと思っていたんですね。でも、3ヶ月後にそれぞれのチームで進捗報告をしたら、私が担当している3チームだけ、まったく改革が進んでいなかったんです。

――ええ……。みんな一生懸命取り組んでいたんですよね。

仁科:資料を作っただけで、実践はまるでされていなかったんです。うまくいっていると思っていたのは私だけで、実務レベルでの改善は何もされていませんでした。

営業部のプロジェクトですから、その進捗報告を営業部長クラスの方々も見に来ています。当然、私たちの報告にはかなり厳しいコメントをいただきました。

――なぜそんなことになったのでしょうか?

仁科:建前の資料を作っていたということなんでしょうね。大手の文化として「こういうことになっています」「こういうことに取り組んでいます」という「やっています感」を出す報告書を作るのはみんなすごく上手なんですけど、本心で納得して取り組んでいるかというと、それは別問題じゃないですか。

――なるほど。仁科さんはその建前に気づかなかったんですね。

仁科:そうです。私もショックでしたから、その報告会が終わった後で3チームのメンバーを集めて「もうやめましょうか」と言ったんです。

メンバーと意思疎通ができていなかったのですから、コンサルタントとしての自分の力不足は認めないといけません。だけど、メンバーの方にプロジェクトに対するやる気がないなら、お互いに時間の無駄になってしまうので、それはやめましょうと。

そうしたら、「他の業務で忙しい」とか「クレーム対応に追われていてそれどころじゃなかった」とか、そういうメンバーの「本音」が出てきたんですね。こちらからしたら「それを最初に言ってくださいよ」という感じなのですが(笑)。

――メンバーたちの現状というか、本音がわかっていれば、他にやりようがあったのに、という。

仁科:そうした本音をお互いに理解したうえでやると、メンバーたちのモチベーションが違うんです。

実際、本心を言い合えるようになってからプロジェクトは進むようになりましたし、結果的に営業部の売上も上がりました。最初から本音で語れるような状態にしないと、組織の改革はできないと思いました。だから、今は「グチでも誰かの悪口でもいいから、何でも言ってください」と最初に話しています。これが、この本で書いている「グチ活会議」が生まれたきっかけです。

――本書にあるように、グチは悪いものだという思い込みは確かにあって、それが会社の風通しを悪くしている面があるのも事実だと思います。なぜグチが悪者にされているのでしょうか?

仁科:一つは、組織で上位にいる人にとって、部下からグチや不満を言われるのは、自分が攻撃されたり否定されたように感じやすいというのがあります。

そもそも、上司といっても社長じゃないかぎりは、不満を言われたってどうにもできないことが多いじゃないですか。だから部下からのグチや不満に自己防衛本能が働いて「俺に言っても無理だよ」となってしまう。これでは部下も言えないですよね。

上司の方も「俺には無理だから」と認めたうえで、どうすればいいか一緒に考えようという方向に持っていければいいんでしょうけど、なかなかそうはならないのが実態です。

――部下の方も、なかなか職場でグチの類は言いにくい雰囲気がありますよね。

仁科:「無能な人間」だと思われたくないというのがあるんでしょうね。ビジネスというのは、基本的には成長発展させるのを目的としてやっているのが大前提としてあって、それに貢献するために雇われているというのはみんなわかっているので、後ろ向きな発言はしにくいんだと思います。会社の中では特にしにくいから、みんな居酒屋でやる。

――「社内では本音は言わず、建前を言う」という文化はどの会社でも共通しているのでしょうか。

仁科:程度もありますけど、共通するところだと思いますね。日本人の気質としても、あまりネガティブなことは言いたがらないんだと思います。特に私はコンサルタントですから、トップからの依頼で現場に入ることが多いわけで、やっぱり最初は警戒されますね。

――その立場で現場に入った人が「本音で話そう」と言ったからといって、みんなすぐに本音を話すんですか?

仁科:そこは組織人の習性で、「許可」が必要なんです。いきなり本心を話せと言ってもなかなか話さないものですが、誰かから「グチも不満も言っていいですよ」と許可をして、どんなことを言っても人事評価には影響しないし、守秘義務があるから許可なく発言を公開することはない点を保証すると、徐々にではありますが、話してくれますね。

――誰でも組織や仕事について思っていることはあるでしょうからね。

仁科:その通りです。経験上、不満や鬱憤が溜まっているグチほど、組織をいい方向に向けるパワーがあります。だから、社員が不満を溜め込んでいる時は組織改革のチャンスです。ただ、グチが「諦め」になっている場合は、組織を変えようと思っても時間がかかりますね。

――組織改革の本と考えると、この本のターゲットは経営者と考えていいのでしょうか?

仁科:もちろん、経営者の方々にも読んで欲しいのですが、立場にかかわらず読んでいただける本になったと思っています。会社で業績向上のための施策を実務レベルで担っているのは管理職の方々にも、若手社員の方にも役立つことを書いたつもりなので。

(後編につづく)

「グチ活」会議 社員のホンネをお金に変える技術

「グチ活」会議 社員のホンネをお金に変える技術

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新刊JP編集部

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