テレワークでもパフォーマンスを落とさない、人事評価「トップ5%社員」の習慣とは?
ビジネスパーソン約18000人を対象に、ヒアリングやアンケート、定点カメラなど様々な角度からその行動・言動を調査し、データをAI分析。その結果分かった、人事評価「トップ5%」社員と、その他「95%社員」の違いとは――。
元マイクロソフト役員で現クロスリバー代表の越川慎司氏は、『AI分析でわかった トップ5%社員の習慣』(ディスカヴァー・トゥエンティワン刊)で、5%社員の習慣や行動を明らかにし、無駄を削減し、生産性を向上させるためのポイントを書きつづっている。そんな本書は共感する人が続出、発売直後に大増刷となりベストセラーとなっている。
コロナ禍でテレワークが普及する中でも、5%社員たちの行動・習慣には際立っていたという。一体、突き抜けた成果を出し、高い評価を受ける人たちは何をしているのか。 越川氏にお話をうかがった。
(新刊JP編集部)
■「5%社員」は常にギャップから考えている
――『AI分析でわかった トップ5%社員の習慣』は働く人たちにとって興味深い一冊だと思います。まず、この「5%社員」の定義から教えていただけますか?
越川:多くの会社の評価査定はSABCDなどの5段階評価で、20%くらいの人は最上位評価を得ています。ただ、トップ評価の中でも突出した成果を残している、いわゆる「SS級」の方っているんですよ。
それは例えば、1年だけ突出した成果を上げているというわけではなく、売上目標を3年続けて200%達成している人ですとか、社内異動をしても全く評価を落とすことなく高いパフォーマンスを維持できている人です。ジョブ型雇用にシフトする中で、人柄や上司に好かれるといった評価基準ではなく、安定して最高評価を受けていて、社内外から認められる人を抽出しました。
――この「5%」はプレイヤー、マネージャーといった役職を分け隔てなく抽出しているのですか?
越川:そうですね。執行役員、管理職、一般社員分け隔てなく抽出しています。ただ、成果の出し方というのは職能や職責によって違っていて、評価されにくい人も中にはいます。例えば、労働時間や売上を管理するようなタイプのマネージャー職は評価されにくくて、評価されやすいのはリーダー職だったりします。
特に「5%社員」に当てはまるリーダーは、常に未来を見ていて、今年だけでなく、来年再来年も目標を達成して行き続けられる人たちです。
――分析の結果、「5%社員」はどんな共通点を持っていたのですか?
越川:この調査では、対面・リモートによるヒアリングやWebアンケート、定点カメラなどでの行動分析を「5%社員」9142人、それ以外の社員8827人行い、そのデータをAIで分析しました。そこで分かったことは、「5%社員」は聞き上手で、変化に対して柔軟に対応できるという共通点がありました。常に変化を感じ取っていて、それに対応しようとする姿勢を持っているんです。
――だから社会の変化だったり、自身の異動だったりと変化に対しても、成果を安定して出せるんですね。その変化への対応力の高さは具体的にどこに出ているのでしょうか。
越川:彼らの言動を分析すると、意識が社内ではなく社外に向いています。仮に人事や経理といったコーポレート部門であっても、社内の閉ざされた環境にこもるのではなく、社会全体を俯瞰し、アンテナ高くして情報収集を行い、自分の業務に生かそうと努力しているんです。
――そういう方は転職してもその場で成果を残せますね。
越川:そうですね。私自身ヒアリングを行ってみて、「5%社員」は惹きつけられるような方が多かったです。話していると心地よくなるんですよ。私がヒアリングする側なのに(笑)。コミュニケーション能力が非常に高いのでしょうね。
また、私たちの調査に対して興味を抱いて、他社の「5%社員」はどういう人たちなのかということをすごく聞かれました。面白かったのは、その時に彼らは自分との共通点を探るのではなく、「自分との違い」を探しているんです。つまり、自分にはないものを吸収しようとしていたわけですね。
常に「ギャップ」を意識していて、自分にプラスになることはないかという貪欲な視点で物事を捉えてくる姿勢を感じました。
――「5%社員」は常に「ギャップ」から考えているわけですね。
越川:そうです。皆さん、最も嫌なことは「思考停止に陥ること」だとおっしゃっていました。言われたことだけをやるとか、社内を上手く渡り歩いていけばいいという考え方はすごく危険であると考えていて、だからこそ、社内の常識に染まらないように、社外に対して常にアンテナを張って見ているように感じます。
■テレワークでも集中力を保つ「5%社員」の工夫とは?
――越川さんにとってこの分析を通して意外だったことはなんですか?
越川:私はマイクロソフトなどの外資系企業で働きましたが、そういった企業で評価される人は自己アピールが強い人が多いのは事実です。ただ、日本企業の場合は物静かな方が評価される傾向にあると感じました。話し上手よりも圧倒的に聞き上手の方が評価される。彼らは話を聞くときの頷きが大きいですし、ちゃんと最後まで聞くという姿勢が徹底されている印象です。
ヒアリングはコロナの影響で、マスクをしながらだったり、Zoomで行ったりということもあったのですが、とにかく大きく頷く方が多かったです。そこは先ほど話したように、ギャップを見つけて吸収しようという姿勢が行動に出ているのだと思いますね。
あともう一つ意外だったことがあります。生産性が高い人たちなのでマルチタスクで仕事を進めているかと思っていたんですよ。例えば、メールを打ちつつ、PowerPointで資料をつくって、Slackで反応して、ということを同時にやっているというような。
そうしたら意外とシングルタスクといいますか、一つの作業に集中をして、タスクを終わらせて、リラックスタイムを取り、また集中するという方が多かったんです。いわゆる「一点集中主義」ですね。
――シングルタスクの方が、業務を早く、そしてクオリティ高く完了できるということなんでしょうか。
越川:そうなのだと思います。脳科学上では、人間は3つくらいだったマルチタスクができると言われているのですが、それでもタスクを変える瞬間に若干集中力が落ちるんです。それを知ってか知らずか、「5%社員」は集中力を落とさないように意識しているんです。特に午前中の集中力がみなぎっている時間帯は、一点集中主義を徹底している感じでしたね。
――そういう点が生産性の高さにつながっているわけですね。
越川:そうですね。この結果を踏まえて、私のクライアント各社で「キッチンタイマーをセットして、その間は集中して仕事をする」というルールを展開してもらいました。「締切り効果」もあり、成果が上がったと答えた人が67%もいました。これは特にオン・オフの切り替えが難しいテレワークに有効です。
――テレワークはなかなか集中できないという人と、集中して仕事できるという人が分かれるように思います。テレワークでも成果を出せる「5%社員」はどんなことをしているのでしょうか?
越川:テレワークではセルフマネジメント力が求められますが、実は「仕事をサボりたい」「早く終わらせたい」と思っている「5%社員」って意外と多いんです。だから、意識的にタスクに締め切りを設けて、「あと30分は頑張ってこのタスクを終わらす。終わったらコーヒーを飲んでリラックスする」と決めて集中するんですよね。
つまり、「5%社員」は集中と緩和の切り分けを完全にコントロールしているんです。集中の邪魔にならないよう、TeamsやSlack、メールなどの通知設定を細かく設定していて、特定の人しかアラートが来ないようにするとか、雑談チャンネルはアラートが鳴らないようするみたいな工夫もしています。あとは自分の仕事の進捗と状態を外に向けて見えるように、集中したい時間はわざとオフライン状態にするみたいなことをしたり。
自分の名前のところに「越川@●時までプログラミング集中」と書いて、自分の状況を意図的に見せている点は特徴的でしたね。
――テレワークで姿が見えないからこそ、そういったところで集中する工夫を行う。
越川:そういうことですね。ただ、その一方で、「5%社員」の中で、テレワークの休憩中にラジオを聴いている方が多かったのも興味深い事実です。
それはどういうことかというと、聞き流しができる点もあるのですが、ラジオパーソナリティーの言語化のレベルが高く、そこから説明の仕方や話し方を学んでいるんです。そこが「5%社員」のコミュニケーション力の高さに結びついていくのではないかと思います。
(後編に続く)