低くても高くても人生の価値は同じ 人気カウンセラーが語る「自己肯定感からの解放」
昨今、ビジネスも人間関係も、恋愛も子育ても「自己肯定感が大事」だといわれます。
そんな中で「自己肯定感の高め方がブームのようになると、かえって危険」だと警鐘を鳴らすのは『「自己肯定感低めの人」のための本』(アスコム)を上梓した、山根洋士さん。
山根さんは、これまで延べ8000人の悩みに答え、「心のクセ」を直すサポートをしてきた、実践第一のカウンセラーです。今回は、そんな山根さんに、自己肯定感の間違った高め方と、悩み解消におすすめの心のエクササイズを聞きました。
■自分で考えたり決めたりする感覚を養う
————前回は、自己肯定感を高めようと思うのではなく、自己否定をやめることが大事だとうかがいました。つい「自分なんてダメだ」と思ってしまう人は少なくないと思うのですが、どうしたらそういうクセを手放せるのでしょうか。
山根:最初は「ダメな自分」の原因になっている、心のノイズを知ることです。ノイズはあなたの思考や行動を無意識に偏らせてしまうお邪魔虫。幼少期から蓄積してきた思い込みや偏見の塊であり、まったく無自覚なノイズもあります。
そこで本では、よくある代表的なノイズの14タイプを紹介していますから、自分もこれかもしれない、というヒントになると思います。
————「思考停止ノイズ」「他人ファーストノイズ」「完璧主義ノイズ」など、確かにあるかも、と思えます。幼少期の体験がこれらの根っこにある、というのも、言われてみると思い当たることがありますね。
山根:6歳までの体験は、潜在意識の中に非常に強く残っているといわれています。でも昔のことなので、表面的にはあまりよく覚えていないことも多々ありますよね。だからこそ、どうして自分にはノイズができたのかを探ってみると、「あ、そういえばそうだ」と腑に落ちることも多いんです。
————では、「ダメな自分」の原因であるノイズに気がついたあと、どうすればその影響を遠ざけることができるのでしょうか。
山根:今回の本で提示したのは、「受け身のクセをなくす」「自分を客観視する」「思考を切り替える」という3つの感覚を養う方法です。普段のカウンセリングで使っている10種類の心のエクササイズを紹介させていただきました。
————これらは「自分をほめよう」などという、自己肯定感の高め方とはまったく違いますよね。
山根:そもそも自己肯定感は「ありのままで生きていい」という感覚ですから、ああしよう、こうしようと言われて、高められるようなものじゃないんです。
ですから私のエクササイズは、ストレッチのように少しずつ続けて、感覚的に慣らしていくものになっています。ポジティブシンキングのように、できなきゃダメという類のものでもありません。自己否定のクセがある人でも続けやすいものだと思います。
————具体的には、どんな変化が表れるのでしょうか。
山根:例えば受け身のクセをなくす感覚を養うと、今度は自分で選んだり、決めたり、判断したりする感覚が生まれてきます。
客観視する感覚ができると、気分や感情に支配されることが減ります。そして、なぜ自分は悲しいのか、怒っているのか、喜んでいるのかを理解して、受け入れる感覚に変わります。こんなふうに感覚を養うことで、いずれ、ノイズに影響されて「ダメな自分」になってしまうことを、少しずつ回避できるようになるはずです。
■「心のノイズ」は、世の中を一歩引いて見るためのヒント
————最近は家で過ごす時間が増えて、子どもとの接し方に悩む方も多いと聞きます。心のノイズの考え方は、子育てや、あるいは仕事での部下の育成などにも応用できるのでしょうか。
山根:何が相手のノイズになるのか、という視点で考えるといいように思います。例えば部下が、言われたことしかやらないのはなぜ? みたいなことがあったときは、何らかの思考の偏り、思い込みが邪魔をしている可能性があります。だとしたら、ああしろ、こうしろと言う前に、本人にノイズを自覚してもらうことのほうが大事かもしれません。
子育てについては、私も子どもがいるので悩む親御さんの気持ちはよく分かります。特に最近は子どもの自己肯定感が大事だといわれますから、「どうすればいいの?」という悩みはよく聞きます。
————山根さんご自身はどのように子どもと接しているのでしょうか。
山根:私自身の気持ちや考えで、子どもに話をすることです。
例えばファミレスで子どもが騒いでいると、「みんなが迷惑している」とか「お店の人に怒られる」「ここは静かにしないといけない場所」なんて言いがちじゃないですか? でも私は、そういう言い方は避けるようにしています。
「みんなが迷惑しているのが、パパは嫌だ」とか、「オレは静かにご飯を食べたいんだ」というように、“自分を軸にして”話をします。
子どもの自己肯定感は、親の自己肯定感の写し鏡のようなものです。だから、まず親自身が“自分で考えて決めている”姿を見せておくといいんじゃないかな、と思います。
子どもはそこまで考えないかもしれませんが、親の態度を見て鋭く感じ取っているものです。親の一挙手一投足が子どものノイズになることは、本にも書いたとおりです。
————それは参考になりそうですね。では最後に、この本を読んでほしい方々へ、メッセージをお願いします。
山根:自己肯定感が低めだと、目の前の「良い・悪い」にとらわれてしまいがちです。そして自分を「悪い」ほうにジャッジしてしまうと、つらいし、苦しくなってしまいます。
でも一歩引いてみると、世の中は意外と「どっちでもいいんじゃない?」ということばかりです。見方や解釈を変えてみると、世界はガラッと変わります。
心のノイズは、見方や解釈を無意識に狭めてしまうものです。だから「ノイズがあるんだな」という考え方を、一歩引いてみるためのきっかけにしてくれたらいいなと思っています。
たとえ自己肯定感が低くても、高くても、誰だって等しく生きている価値があるはずです。でも、ありのままでいい、なんて言われても、悩んでいる本人は、なかなかそう思えないですよね。その行き詰まり感をちょっとでも打ち破るヒントにしてもらえたら嬉しいです。
(新刊JP編集部)