だれかに話したくなる本の話

ハートフルで心躍るファンタジー『天風』はいかに書き上げられたか

『宝島』(スティーヴンソン)、『海底二万マイル』(ヴェルヌ)など、冒険小説は何歳になっても、私たちの心をつかむ。もしかしたら、私たちには「知らない場所を、自分の知力と体力を頼りに旅してみたい」という本能的な欲求があるのかもしれない。

『天風』(小山結夏著、幻冬舎刊)もまた、私たちの奥深くに刻まれた旅心を刺激してくれる小説だ。「神子」にまつわる伝説と、その伝説に魅せられた人たちが織りなす人間ドラマと、どこにいるかもわからない人を探す旅。それは、インターネットやSNSが普及した現代に生きる私たちにはもうできないものなのかもしれない。

今回は著者の小山結夏さんにインタビュー。この物語に込めた思いについてお話をうかがった。

■ハートフルで心躍るファンタジー『天風』はいかに書き上げられたか

――『天風』につきましてお話をうかがえればと思います。昨年刊行された作品ですが、小山さんがこの作品で表現したかったもの、書きたかったことについてお話をうかがえればと思います。

小山:この作品は、まさにそれぞれの宿命が複雑に交差する物語を描いています。神子を連れ去った事により、大切なものを失ってしまった理京と、その神子である風丸の関係。命を救える玉を体に持つ風丸と、命が短い琴芽の関係。龍子を倒し、都を救おうとする斎と、龍子を連れ去ってしまった理京の関係。神子を放った爽馬と風丸、そして斎の関係。

個々がそれぞれに複雑な事情を抱えながら出会い、互いに信頼と絆を深めていくヒューマンストーリーです。

その他、旅の中で出会う人たちとの交流をハートフルに描いています。読者の方の心に残るように、物語の中には、人生を再生する力、広い世界へ踏み出す勇気、命の尊さなど、様々なメッセージが含まれています。

――わくわくするような冒険の物語です。この冒険の舞台としてイメージされた場所はありますか?

小山:実際に行った場所とかではなく、子供の頃に見た宮崎駿さんの作品や、世界名作劇場などがぼんやり浮かんでいたと思います。風景はアジアに近い国から、どちらかというとヨーロッパへと移動して行くイメージでしょうか。

この物語は冒険ファンタジーですが、おとぎの国を描いた物ではないので、臨場感を出す為にも、どこかにありそうな都、街、村というのを描きたかった。ただ、ファンタジーから離れすぎないようにする事も注意点でした。そして五人が見た事のない世界と出会うという設定にしたかったので、旅して行くにつれ、文化が発達しているのも意識しました。

――旅の情景や戦いの場面などが臨場感があってよかったです。こうした場面を際立たせるためにどんな工夫をされましたか?

小山:実はこの物語は戦いをメインとした冒険ファンタジーではないのですが、設定上盛り上がりの部分になるので避けられなかったというのが本音でしょうか。

物語を作る時は、風景も戦いのシーンも登場人物も全て先に映像として絵が浮かんでくるのですが、それをどうやって分かりやすく伝えられるかがポイントになります。

私は韓国の時代劇が大好きですが、そこからシーンが浮かんだのかは分かりません。正直、普段から戦闘物をよく見ている訳ではないので、戦いのシーンを描くのは、一番大変でしたし課題が多かった。

とにかくパッと浮かんだものを文章にしましたが、躍動感も必要ですし、読む人の頭にも場面が浮かんで来ないといけないので、情景などを作る時もそうですが、イメージがない状態で文章だけを読んで伝わるだろうかと読者の立場になって作りました。

――登場人物それぞれが背景となる物語と宿命を抱えています。彼らそれぞれのキャラクターをどのように作っていかれたのでしょうか。各登場人物の生い立ちや物語がどれも魅力的でした。

小山:作った当時、マンガ家を目指していた事もあり、キャラクター作りにはあまり苦労しませんでした。登場人物がどんな人間なのかを考え、その人格がどう作られていったのかを考えると生い立ちが浮かんできます。

物語の流れを考え、どんな登場人物が必要なのか、その役割を考えます。例えば引きこもりがちで、人間の世界にあまり慣れていない風丸を広い世界に連れて行ってくれる、好奇心豊かで行動力のある者が必要となりますので共に旅をする琴芽のキャラが見えて来ます。

龍子と戦う者、正義感のある者が必要となり、戦力として、一緒に戦ってくれる仲間もいります。斎の他の役割として、理京のよき理解者であり、引き立て役となります。爽馬は物語にユーモアを持たせる役割であり、脇役のように思われるが物語を動かす重要な人物です。

(後編につづく)

天風

天風

貧しい村と、そこに暮らす母を救おうと修行の旅に出た男がいた。理京と名を改めた男は、旅のさなか、二人の神の子に宿された玉の封印を誤って解いてしまう。龍子と風丸と名乗る神の子は、やがて別々の道を歩むことに。宿命を負った神の子と、親元を離れたひとりの少女、琴芽。そして玉の持つ威力に惑わされたものたちが繰り広げる、ファンタジー冒険小説。

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新刊JP編集部

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