だれかに話したくなる本の話

創刊94年『子供の科学』の伝統を支える「分かりやすさ」を生む技術とは?

1924年(大正13年)創刊という古い歴史を持つ子ども向け専門雑誌があるのをご存知だろうか。
『子供の科学』(誠文堂新光社刊)だ。

子どもに最先端の科学を分かりやすく面白く伝えてきた本誌は、科学・技術界の著名人・研究者にも読者の「OB・OG」が多い。

この『子供の科学』を母体に生まれた単行本シリーズ「子供の科学★ミライサイエンス」には、テクノロジーについてまったく知識がない人に向けて書かれた入門書が連なっており、「コンピューター」「プログラミング」、そして5月22日には第3弾『統計ってなんの役に立つの?』(涌井良幸著)が出版予定だ。(ラインナップはこちらから

本誌94年の伝統を支えてきた「分かりやすく説明する」技術は一体どのようなものなのか。編集長の土舘建太郎さんにお話をうかがった。

(取材・文:金井元貴)

■理解できているかどうかは「図解」を見れば分かる!?

――『子供の科学』は子ども向けの専門雑誌ですから、取り扱う情報の一つ一つがとても分かりやすく説明されています。その「分かりやすく説明する」ノウハウを少しだけ教えていただけますか?

土舘:私は今でこそ『子供の科学』の編集長をしていますが、実はバリバリの文系出身でした(笑)。だから、自分たちがちゃんと理解できるところまで噛み砕いて落とし込むことを第一に考えています。

うわべだけの理解だったり、知ったかぶりをすると、伝わらないことが多いんです。特に図解ですね。『子供の科学』でも「子供の科学★ミライサイエンス」でも図解を重要視しているんですが、例えば研究者からもらった資料を「なんとなく分かるな」と思って浅い理解のままイラストにすると、他の編集部員から分かりにくいという声が上がります。

本当に分かりやすいように自分で腑に落ちるまで噛み砕いていき、これなら理解できるぞ、というところまで落とし込む。図って、ちゃんと理解していないと、分かりやすく作れないんですよ。

――図解の分かりやすさのレベルが、その人の理解度をあらわすわけですね。

土舘:そうです。専門家に取材に行って、お話をされている言葉をなんとなく理解したまま帰ってくると、後で図解にしたときに「なんだこれ」ってなるんです。だから取材の場で編集部の人間がどれだけ知ったかぶりせずにちゃんと腑に落ちるまで質問できるかが「分かりやすさ」への第一歩ですね。

――その意味では「子供の科学★ミライサイエンス」は徹底的に図解をシンプルにしていますね。

土舘:そこは工夫した点です。第1弾の『コンピューターってどんなしくみ?』は「コンピューター」がテーマで、どのような仕組みで動いているのかが説明されていますが、いきなり専門的なことを言われても、子どもも、そしてその親御さんも分からないだろう、と。だから、文章とイラストのスペースが半々になるようにして、分かりやすく努めました。

――「コンピューター」の仕組みを知ることの意味について、どのように考えていますか?

土舘:今の子どもたちはパソコンもスマートフォンも当たり前に触れていますが、どういう仕組みで動いているのか、なぜインターネットを見られるのかといったことは理解していなくても使えてしまいます。
ただ、自分が実際にさまざまな商品を開発する立場になったとき、どんなものをつくるにしても、コンピューターとのつながりは必須です。今後、プログラミングや人工知能を含めてテクノロジーの知識を持っていないと新しいアイデアを実現できない時代になっていくはずなので、そこに対応できる人を育てたいというところがありました。

――本の中にファミリーコンピュータ―が出てきて、懐かしく感じました。

土舘:私もファミコン世代ですけれど、調べるほど面白いんです。ファミコンって、Windowsよりも前に出ていますからね。よくあの時代にこんなマシンが出せたな、と。

――第2弾の『プログラミングでなにができる?』で、「プログラミング」はどこまで取り上げているんですか?

土舘:実際にプログラミングで何かを作るというところを意識しています。作れるものは「ゲーム」「AR」「ロボット」「ウェブサイト」「スマホアプリ」で、「ゲーム」と「AR」と「ロボット」はScratchで、「ウェブサイト」と「スマホアプリ」はJavaScriptとHTMLです。

今店頭に並んでいるプログラミングの本は、何も知らない人にとってレベルが高めなんです。だからこれから勉強をする人のための、まさに「入り口」の本ですね。それがこの本のタイトルや表紙を考えるうえでのコンセプトで、この本でいろんなものを経験して、自分のやってみたいことを伸ばしてもらうのがいいのかな、と。

――気になったのですが、こうしたテクノロジー系の書籍は電子の方が親和性は高いようにも思うのですが、紙の本での出版ですよね。

土舘:実は『子供の科学』本誌自体が圧倒的に紙で売れています。電子版の読者は大人が中心で、子どもはやはり紙です。また、紙で読ませたいという保護者もいますし、子ども自身も紙で読む傾向にあります。いずれ紙から電子に切り替わる時が来るのかもしれませんが、現状は紙ですね。

――子どもの頃から科学に親しむことの重要性について教えて下さい。

土舘:なぜパソコンでインターネットを見られるのかといったところから、この食べ物は何で出てきてるのかまで、世の中の仕組みに触れるのが科学です。もちろんそういうことを知らなくても生きていけますけど、知ると脳が刺激されて新しい発見や創造につながっていくんです。

日本人は、私も含め自分のことを文系と理系で分ける傾向があって、私は文系の人間だと思って理科を避けてきましたが、科学のことを分かっていれば、もっと世の中のことを理解できると思うことが多いんですね。だから『子供の科学』を通して、科学やテクノロジーに興味を持ってもらって、文系・理系関係なく好奇心を育んでほしいと思っています。

――では、最後に「子供の科学★ミライサイエンス」シリーズの意気込みをお願いします。

土舘:人工知能の時代が来ると言われていますが、その中で「人間の仕事を奪うんじゃないか」という話もありますよね。ただ、恐れているだけでは人工知能と上手くやっていくことはできないと思っていて、子どもの頃からテクノロジーや人工知能に慣れ親しむことで、将来自己実現の助けになったり、アイデアをどんどん形にできるようになっていけると思うんです。

そうなってほしいという思いを込めて、シリーズの最初の4冊をつくっているので、ぜひ子どもたちにとって、テクノロジーや人工知能を将来の夢をかなえるためのツールにしてもらえると嬉しいです。

(了)

前編「子どもに科学を伝えて94年。伝統と最先端が共存する雑誌『子供の科学』に迫る」

この記事のライター

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金井元貴

1984年生。「新刊JP」の編集長です。カープが勝つと喜びます。
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audiobook:「鼠わらし物語」(共作)

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