だれかに話したくなる本の話

DXで現場のリーダーに求められる3つの資質とは

DX推進が叫ばれ、デジタル人材の確保を迫られている企業。デジタル人材は外部から採用するのも選択肢だが、今いる従業員をリスキリングするのも選択肢である。

『リスキリングが最強チームをつくる 組織をアップデートし続けるDX人材育成のすべて』(柿内秀賢著、ディスカヴァー・トゥエンティワン刊)では、「DXに対応できる組織作りは現場のリーダーが重要」だと説き、変化の激しい時代に合わせて、自律的に自らをアップデートできる組織作りの方法を明かしている。

なぜDXでは現場のリーダーが重要なのか。そしてリーダーはどんな風にふるまえばいいのか。著者のパーソルイノベーション株式会社 Reskilling Camp 代表 柿内秀賢さんにお話をうかがった。

■DXで現場のリーダーに求められる3つの資質とは

――『リスキリングが最強チームをつくる 組織をアップデートし続けるDX人材育成のすべて』は、日本におけるリスキリングの現状が一望できる一冊です。まずこの本を書くにあたって、柿内さんがリスキリングについて持っていた課題感を教えていただければと思います。

柿内:一般的に「リスキリング」というと、「シニア社員の学びなおし」という捉え方をされがちなのが問題意識としてありました。

というのも、今後会社が競争に勝っていくためにデジタル技術を使いこなすことが必須で、そのために従業員はテクノロジーの進化に追いついていかないといけない。そのために従業員に従来の仕事とは違ったことを学んでもらおう、という種類の「リスキリング」もあるためです。この本で取り上げているのは後者のリスキリングです。

――DXの本質は「組織に蓄積されたデータの活用」にあります。となるとデータ分析に長けた人材が必要になってくるわけですが、こういう人材はリスキリングによって育成できるものなのでしょうか。ニュースを見ていると、比較的外から人材を引っ張ってくるイメージがあります。

柿内:これは「育成できる種類の人材もいるし、そうでない種類の人材もいる」というのが答えです。というのも、情報処理推進機構のデジタルスキル標準では、データサイエンティストは3つに分かれています。

1つは「データビジネスストラテジスト」という、データを使って企画を考える人で、2つ目は「データサイエンスプロフェッショナル」。こちらは文字通りの「データ分析のプロ」で統計学の専門家です。3つ目は「データエンジニア」で、データ活用の基盤を作るエンジニアです。

一般的には「データサイエンティスト」というと2つ目の「データサイエンスプロフェッショナル」をイメージすると思うのですが、ビジネスの現場では「データビジネスストラテジスト」も重要です。というのも、「売上を増やすために顧客データをどう使うか」とか「ビジネス課題の洗い出し」というところの仮説があってはじめて統計学の専門家はデータの分析ができるためです。

「データサイエンスプロフェッショナル」については、一種マニアの世界なので、社内の人をリスキリングして育成するのは難しいですが、「データビジネスストラテジスト」は社内の人材を鍛えることで育成できます。

――「データエンジニア」についてはいかがですか?

柿内:データの活用がDXの本質だとすると、DXを推進する際にはデータを分析する基盤を作らないといけません。案件毎に要件を決めて専門ベンダーと環境構築していくのがデータエンジニアです。これはリスキリングで育成できるとは思いますが、専門性の高い分野ではあるので、非IT系の職種の人をリスキリングするよりも、元々IT系の職種にいた人をリスキリングする方がいいと思います。

――DXの推進はまさしくそうですが、社員に新しいスキルを習得してもらうのは、組織にとって不可欠なことです。ただ、これは意識改革を伴うもので、簡単ではないとも感じました。

柿内:そうですね。経営者の立場から見た組織風土改革における問題点は、多くの場合「現場のマネジャー」です。DXの場合、経営者がチーフ・デジタル・オフィサーを置きましょうとか、デジタルに強い人を採用しましょうとか、そこに投資をしていこうというような旗振りをした時に、一旦は、その意思決定が水が流れるように組織の末端に流れます。そして、事業に反映され、お客さんに届き、付加価値になって、会社の競争力が上がるという結果に至るまでには、現場の部署含め多くの人を通らざるを得ません。そこで意思決定の実現が停滞しがち、というのが経営者の感覚としてはあると思います。

たとえば営業なら、営業パーソンが集めてきたお客様の名刺情報や商談の情報をデータ化して、それをもとにリピート率を高める工夫をしたり、新しい提案をしたりといったことが考えられると思います。ところが、それを現実にやろうとすると現場では商談情報の入力を面倒くさがってやらなかったり、マネジャーにデータを活用する発想がなかったりして、なかなか経営側の旗振りだけでは現場に浸透しなかったりするのです。そして最終的に「DXへの投資は意味がなかったね」という結論になってしまう。でも、それはDXへの投資というより、現場の問題なんですよね。

――まさしく本書でご指摘されていた「組織がリスキリングを推進する原動力は現場のリーダーである」というお話ですね。組織の変化対応を主導できるリーダーに求められる資質についてお話をうかがえればと思います。

柿内:これは3つ挙げられると思います。「ビジョンを描ける」、「グロース・マインドセットである」、「ダイバーシティを尊重できる」の3つです。

「ビジョンを描ける」は「こうやったら、もっとうまくいくんじゃないか」という発想をすることです。というのもDXはトップが旗を振って推進するだけでなく、ボトムアップで推進されることも珍しくありません。分かりやすくいうと現場のことをより解像度高く見ることができているのは現場にいる人じゃないですか。だから現場のリーダーのビジョンはすごく重要なんです。

「グロース・マインドセットである」はとにかく新しいものにキャッチアップして、取り入れていこうというマインドセットです。「俺は営業で成果を出してきてリーダーになったから、俺のやり方でやればうまくいく」というマインドだと、新しいものを取り入れることは難しいですよね。特にDXの場合、ほとんどのリーダーは自分の成功体験の外にあるものに触れざるを得ないわけで、自分の経験に固執するよりも、「もっといいものがあるかもしれない」と常に探し続けるマインドが必要です。

「ダイバーシティを尊重できる」という資質も重要です。DXを推進するとなると、どうしてもチームにこれまでとは異質な人間が入ってきます。「足で稼ぐ営業で成果を出してきたから」といって「体育会系の若い男性を」みたいな採用基準を持ってしまうと、結局は自分と似たような人ばかりのチームになってしまう。新しいテクノロジーに柔軟に対応していくには、極端な例ですが「エンジニアとして優秀なら、どんな格好をしても、寡黙に研究熱心」等々、多様な価値観があるといいと思います。

(後編につづく)

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