だれかに話したくなる本の話

横柄な客やクレーマーをどうする? 商売繁盛に欠かせない「客を捨てる勇気」

「お客さまは神様」とは言っても、お客にはいい客も悪い客もいる。
繁盛はして欲しいが、横柄だったり、社会常識がなかったり、過度に怒りっぽかったりする客には、できるだけ来て欲しくないというのがお店側の本音だろう。

こうした「スジの悪い客」をすっぱり捨てるのは勇気がいるものだが、それこそがスモールビジネス成功のカギだとするのが『お客を捨てる勇気』(クロスメディア・パブリッシング刊)だ。

お店はどのように「大事にする客」と「そうでない客」を選別するのか。それがなぜビジネスの成功に結びつくのか。今回は自身でも複数の店舗を経営し、成功させている著者の中谷嘉孝さんにお話をうかがった。

■「ドタキャンして謝らない客」でも店は大事にすべきか

――『お客を捨てる勇気』についてお話をうかがえればと思います。本書の冒頭に中谷さんが社員の方々に「入れなくていいよ、あんな客」と言った時のことが書かれています。中谷さんが本書で書かれている「お客を捨てる大切さ」に気づいたきっかけを教えていただければと思います。

中谷:これは「スモールビジネスあるある」なのですが、「お客と商人である以前に人間同士」ということが理解できていないタイプのお客も一部にいるんですよ。朝イチからそういう面倒くさいタイプのお客を担当してしまって一日分の気力と体力を持っていかれてしまうということが度々あって、モヤモヤした気持ちを抱えていたんです。

当時ヘアサロンを経営していたのですが、平気で遅刻やドタキャンをして謝りもしない横柄なお客を、いくらお金のためだからといって許してしまっていいのかと。もし友達や恋人だったら、次はないですよね。

こういうお客がいると当然スタッフの士気も下がります。一生懸命やっているのにその愛が通じないとモチベーションが落ちてくる。何より他のいいお客様たちに迷惑がかかるじゃないですか。時間どおり来店して下さったお客様をお待たせすることになったりするので。

――たしかに、お店もドタキャンした時間で他のお客さんの予約が取れたわけですからね。

中谷:そうです。こんな状況を放置していると店に流れる空気みたいなものがどんどん澱んで、すべての歯車が狂っていくんですよ。

それに、そういうお客って店側よりもお客の方が偉いと勘違いしているので、どんなにサービスしたところで感謝されるどころか、全て当たり前になってしまう。店側がどんなに尽くしても、結果としてそのお客は離れていくんです。それであれば、そういうお客をこの本で書いているように「捨てた」ところで、離れていくのが早いか遅いかの違いじゃないですか。

「ビジネス=価値交換」ですから、お客様とお店側はともにウィンウィン(win-win)であるべきです。こういうことがあって、常に尊重し合える関係を保てる人とだけ気持ち良く付き合っていければいいと思ったんです。

――よくわかるお話でした。具体的には中谷さんはどんなことをされたのでしょうか。

中谷:会員制にシフトしました。僕が個人的に知り合った方や会員の紹介があった方を新規会員として増やしていく形です。あとは値上げですね。値上げはいいお客さんだけを残すのに一番手っ取り早いんです。

――値上げしても通いたいと思ってくれる人だけが残るわけですからね。どのくらい値上げをしたんですか?

中谷:当時、ちょうどうちの真向かいに大型美容室がオープンしたので、そこの3倍くらいに設定しました。カットで1万円くらいに。

――それはかなり高価格帯ですね。

中谷:ただそれでも残ってくださるお客さんはいたんです。その経験は大きかったです。

――本書はスモールビジネス向けとされていて、またヘアサロンを例に出されていますが、スモールビジネスであればどんな業種でも応用可能でしょうか。

中谷:もちろん、これは専門的な戦術論ではなく本質論ですから、スモールビジネスの戦略やマインドセットとしてあらゆる職業に応用可能です。

――お店の立地などの条件が変わっても、やり方自体は変わらない。

中谷:そうですね。うちも立地がいいわけではないです。昔は店舗経営は立地が勝負みたいなところがあったんですけど、今はどんな立地でも個性の出し方で勝負できると思います。

――本書で指摘されているように、多くのお店が常連客よりも初回客を大事にし、彼らを常連客に育てようとします。これはどういう心理からの行動なのでしょうか。

中谷:例えばトレンドを「流行」や「現象」として捉えると、基本的に人間というのは“飽きる動物”です。だからいつか飽きられれば捨てられるという恐怖がお店側の心理としてはあるんですよね。ゆえに無駄に奇をてらったり、新しいお客を集め続けることでその不安を埋めようとするわけです。

ところが実際にはトレンドの根底に息づくのは「流行」でも「現象」でもなく「文化」ですから、多くは取り越し苦労なんです。例えばジーンズの色やデザインに飽きたとしてもデニムそのものに飽きたわけじゃないし、パエリアやドリアに飽きたとしてもお米そのものに飽きたわけではないわけです。

ましてや毎年新しいトレンドを追っかける先行的な人たちというのは、実をいうとかなりの少数派です。特に日本人の多くは大きな変化を嫌う保守的な人たち。いつもの居酒屋のいつもの席でいつものメニューを注文するルーティンに安らぎを感じている人だって結構いるはずです。リーバイスの501だけを繰り返し履き続ける人、晩酌のビールはキリンラガーオンリーと決めている人、同じ銘柄のお米やお味噌、同じブランドの服を一生涯愛し続ける人だっています。

要するに僕たちお店側は、こうした常連の人たちを裏切らない努力のほうに目を向けながら、自店の「文化」を育んでいくことの方が大切だと思うんですよね。

――すごく合理的で、納得できるご説明ですが、これから開店していくお店がいきなりそれをやるのはかなり勇気がいるんじゃないかなとも思いました。

中谷:苦手なことを無理にやる必要はありません。自分が得意なものを打ち出して、そこに合ったお客様だけ集めていくのが、結果としてお店を繁盛させる一番の近道だとは思いますね。

たとえばラーメン屋さんであれば、あっさりもこってりも両方作る必要はなくて、自分がこってりが好きなら、そっちを作ればいいんです。オーナー自らが理想とする味に共感するお客さんが集まってくるお店の方が、少なくともやりやすいと思いますよ。

(後編につづく)

お客を捨てる勇気

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新刊JP編集部

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