政治あり、冒険あり! 縄文時代にタイムスリップした若者たちは現代に戻れるのか?
時は2025年。浅間山からほど近い群馬県の笹見平に毎年恒例のサマーキャンプにやってきた、大学生21人と中学生32人、総勢53人からなる青少年たち。
大学生リーダー、中学生リーダーがそれぞれ決まり、竪穴式住居の宿泊など縄文文化を体験できる「縄文の家」で迎える最初の夜、彼らは今までに体験したことのない強烈な轟音と激震を感じる。
その時から辺りの様子は一変する。夜空に輝く星の数は少し多く感じ、浅間山も少し大きく見える。そして、スマートフォンは圏外。一体何があったのだろう?
青少年たちは大学生リーダーの林のもとでさっそく調査に乗り出す。
不自然に切断された道路。その先にある雑木林は、明らかに今まで見てきたそれよりも色が深い。そして、野生イノシシの襲来。不可解な出来事が起きていた。
さまざまな理由から、彼らはこう結論づける。ここは現代の日本ではない。どうやら4500年前の縄文時代にタイムスリップしてしまったようだ――。
時間を超えて、孤立してしまった若者たち。
一体なぜ彼らは縄文時代にタイムスリップしてしまったのか?
そして、無事に現代に戻ることはできるのか?
■青少年たちの中に起こる「政治」をリアルに描き出す
『異世界縄文タイムトラベル』(水之夢端著、幻冬舎刊)は縄文時代にタイムスリップしてしまった団結やいさかい、新たな友人との交流、社会の進化などを通して成長していく若者たちと、彼らが真実に辿り着くまでの冒険を描いたSF小説だ。
53人もの青少年たちが集うグループである。その中では政治が生まれ、派閥が分かれることだってある。
リーダーの林は社交的な人物であるがゆえに、原住民の縄文人たちと仲良くなるのも早く、惜しみない協力を受けることになる。特に最初に出会った縄文人の若きリーダー・ユヒトは、物語を通して林の理解者となる。
その一方で、縄文人との交流を疎ましく思う人間もいる。弁が立つ大学生の早坂だ。彼はグループの中でも一目置かれる存在で、発言に対する影響力も大きい。そんな彼は、ユヒトらとの交流を反対する。表向きは「歴史を歪めてしまう」というものだが、実は個人的な心情に由来される理由があった。女子大学生と親しくするユヒトに対する嫉妬である。
そして、早坂は林一派の失脚を狙って、凶行に出る――。
■若者たちに待ち受ける、タイムスリップの「真相」と自分たちの使命
本作で描かれるものは政治だけではない。戦争、宗教、経済、自然災害など、今日の社会をかたちづくるさまざまな要素が持ち出される。
そして、少しずつ、タイムスリップの実態が明らかになり、林たちは真実へと近づいていく。なぜ自分たちがここにやってきてしまったのか。現代に戻れる方法はないのか。そして自分たちの使命とは。 最後の章で本当のことを知るまで、ノンストップで読み込むことができる。
若者らしい柔軟な発想で適応していく彼らの姿は、読み進めていくごとに頼もしくなっていく。また、仲間に支えられながらリーダーとして真の成長を見せていく林の姿も本作を楽しむポイントの一つだ。読書の秋、登場人物たちの冒険をぜひ楽しんでほしい。
(新刊JP編集部)