新刊ラジオ第1506回 「なぜ日本は変われないのか 日本型民主主義の構造」
日本は民主主義国家ですが、政権交代があっても、何も変わっていない、と不思議に思っている方、嘆いている方も多いはず。日本人の行動様式をよく分析した山本七平氏の書かれた本書は、そんな日本的民主主義の構造に迫ります。タイトル通り、日本はなぜ変われないのか?気になった方は是非ページをめくってみて下さい。
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概要
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◆この本をひと言でまとめると 「山本七平氏の強みを存分に活かした日本的民主主義を分析した一冊」
◆著者について 山本七平(やまもとしちへい、1921年12月18日 - 1991年12月10日)。 太平洋戦争を経験し、帰国後しばらくしてから、出版社・山本書店を創業した人 物です。評論家としては、日本社会、日本文化、日本人の行動様式を分析し、執 筆されていました。また、実はクリスチャンだったようで、「なぜ日本人にキリ スト教は普及しないのか?」との疑問から書かれたキリスト教関係の本も遺して います。
◆おすすめの読者 ◎政治経済系の学生さん 超オススメです。でも鵜呑みにしないで、考え方の参考に! ◎マスコミ関係者 二元論や外面の枠組みを取り払ってこういう文章を書いて欲しいです。 ◎経営者 どちらかというと、西洋的「組織」が持て囃される現代ですが、「家族」と 「組織」の概念を理解した上で、一歩上の会社組織を作り上げて欲しいと思 います。
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本書は「なぜ日本は変われないのか?」という問いに対する分析・考察を、 日本人の根底にある社会観念と民主主義の不一致を指摘するアプローチでなされ ています。そして締め括りは、外面的には変わってても、中身はほぼ昔と変わら ない日本人に合った社会変革を進めるべきだという主張となっています。
なかなか読み応えがあり興味深い本だったのですが、こと細かに説明するのは 難しいので、まずはアウトラインを追ってみましょう。
1.日本はなぜ変われない? →社会変革のようなものはあったが、日本人の根底は変わっていない。そこに 変われない原因がある。
2.他の国は変われる? →西洋の国民は政治的関心があるので変われる。個々人が自分の変化したい方 向の政治家を選ぶ事ができるから。
3.日本にも選挙はあるし、民主主義的に政治家を選んでいるのでは? →日本人は選挙の際、『個』を元に決めていない。『伝統』あるいは『情』や 『調和精神』で決めている。
4.それはどういうことですか? 日本が変わるためにはどうしたらいい? →「・・・。」
この、「・・・。」の部分が、本書の一番の読みどころなのです。これは、山 本七平さんの分析した日本的民主主義、しいては、日本人の根底にある、全く変 わっていない社会観念のことです。
日本が変わらない社会的的理由(1)
端的な例としては、第四章の「日本的な組織」のお話が分かりやすいでしょう。
日本には「個」の組織化である「民主主義」の基礎であるべき組織(システム) という概念がない。あるのは一種、擬制の血縁集団ともいうべき「組織的家族(シ ステマティックファミリー)」である。 ※抜粋(P180より)
山本さんの論旨に従えば、現代日本が採用している「民主主義」は西洋からの輸入 品です。これを日本に当てはめて使っているわけですが、山本さん曰く、民主主義の 基礎である組織(システム)という概念が日本には無いのだそうです。
これはどういうことかというと、組織(システム)というのは、本来、目的を達成 するために構成された集団であり、目的を達成するためには、組織の構成員をさも ”部品”のように扱い、”不良品”は平然と排除し、時には、車のエンジンを積み替 えるように、トップや、主力の構成員も平気ですげ替えます。
しかし、日本の組織はこういう事をしません(1970年代の考察です)。例えば、東 芝がソニーの優秀なスタッフを全員引き抜いてソニーが倒産するという事は、まずあ りえませんよね? もしそんな事があったら、大多数の国民やマスコミはけしからん と思うでしょうし、もしかしたら、国が援助してソニーを何とか存続させようとする かもしれません。
でも、西洋では平然と行われます。かつての名門新聞社サンフランシスコ・コロニ クルは、ワシントンポストに優秀なスタッフを引き抜かれ、凋落してしまいました。 これについて、文句を言うアメリカ国民は関係者くらいのものでしょう。
そして、この日本的な組織の事を、山本さんは「組織的家族」と名づけます。つま り、日本の組織は、「組織」という名前を使っているけども、「家族(ファミリー)」 なんだそうです。
この2者の決定的な違いは、 「組織」は目的を達成するためにあり、 「家族」は存続をするためにある、ということです。
日本が変わらない社会的的理由(2)
山本さんによれば、この日本的な組織「組織的家族」の最たる例は、旧日本軍だそう です。軍隊というのは、本来、目的達成、つまり国防とか、当時で言えば、戦争に勝つ ことを目的に存在しているはずで、人事異動やその他の制度も、その目的を達成するた め、つまり、戦闘で勝つ事を主眼において行われるべきなのですが、旧日本軍はそうで はありませんでした。
旧日本軍、特に太平洋戦争の頃の日本軍は、その存続のためにあったのではないか、 という人事や制度を整えていました。
こういった組織の長所は、互いの信頼で成り立っている事のようです。 例えば軍隊ならば、上官を信頼している兵士、兵士を信頼している上官は、士気も高く、 期待以上の結果を残します。企業組織においても、かつて企業戦士といわれたサラリー マンのように、会社や上司を信頼していれば、24時間戦えて、大きな成果を残すことが できましたよね。
でも、これは同時に短所でもあるのです。互いの信頼で成り立っているので、構成員 の配置変換や、構成員の退役・解雇が行いづらい。強制的に外したところで、その本人 だけでなく、組織そのものが、世間から非難の目でみられるでしょう。
そして、日本におけるこのような組織的家族は、基本的には消滅せず、例え、社会に とって無用の長物になろうとも、本当にヤバイその時まで、存続し続け、さらには社会 から存続させられ続けます。これは政治についても同様で、各政党や政治のトップにお いても、こういう事が行われていると、山本さんは述べています。
さて、なぜこのような事が行われているのか…というと、元の話に戻りますが、日本 人の根底にそういう伝統意識があるからなんだそうです。曰く「調和精神」、「家族の つながり」という日本古来の美意識ですね。
従って、本書のタイトル「日本はなぜ変われないのか」につながってくるわけです。
まとめ
この日本人の根底にある通念に関して、キチンと知りたい、という方は、本書を読ん でみて下さい。誤解しないでほしいのは、こういった日本人の特徴を、山本さんは「け しからん!」と怒っているわけではありません。
僕なりに山本さんのメッセージを読み解くと、「これまで、西洋を模範にして、色々 と取り入れてきて、なんとなく上手くやってきたけど、外面的には変わってても、中身 はほぼ昔と変わらないから、そろそろ日本人に合った社会変革をしていこうね。」とい う事を言っています。
1975年に書かれた原稿ですが、今にも十分通じる部分がありますので、是非、ご一読 下さい。身近なところでは、政権交代しても、ほとんど変わっていない現代日本を変え るヒントが見つかるかもしれません。
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