新刊ラジオ第1484回 「幸福の秘密―失われた「幸せのものさし」を探して」
“幸せ”を間違って捉えてはいませんか?いつも満たされず不満が消えることはない毎日を過ごしていませんか? もしかしたら、いまあるその幸せは見当違いなものかもしれません。優しく美しく書かれた、まったく新しい『幸福論』です。心がさみしいとき、悲しくて仕方のないとき、なにかにおしつぶされそうなとき、そっとページをひらいてみてください。
読む新刊ラジオ 新刊ラジオの内容をテキストでダイジェストにしました
“寓話”から正義やモラルの本質を知る
● 著者プロフィール 著者のアーサー・ドブリンさんは、ニューヨークホフストラ大学・人文学科教授、ニューヨークEthical Humanist Society指導教授。アムネスティ・インターナショナルニューヨーク支部創設メンバー。1960年代より、ケニアの村「タバカ」に、アメリカ政府管轄の「ピース・コープス」ボランティアとして、しばしば訪れています。
今回の本は、「幸せ」というものを改めて考えさせられます。ニューヨークで論理学を教える著者自身が、少年時代に繰り返し読んでいた10篇の寓話を取り上げて、そこから、「正義」や「モラル」、「本当の幸せとはなにか」、といったことを説いていきます。
「僕は大学教授として教べんをとるかたわら、1960年代から、アメリカ政府管轄である「ピース・コープス」のボランティアとしてケニアのタバタ村をしばしば訪れるうち、ここに住むオンゲサ夫婦、ジョシュアとラエレと親しくなった。オンゲサ家の貧しい家で起居をともにさせてもらうたびに、自分たちが当然と思って所有している財産や「便利さ」が実は特別なものだと知って僕は愕然とする。そればかりか、彼らの娘の1人は原因不明で亡くなり、1人は行方不明、コーヒーの木の栽培は豆の市場価格下落でやめざるを得ず、ほんの20数キロ先の町に出るためのバス料金もないのだ。こんな、外から見ると「悲劇」とも見える暮らしを営みながら、それでも彼らは、心穏やかに、充足して暮らしている。 ……なぜだろう? この疑問にとらわれるようになったある日、僕は偶然、子どものころ大好きだったおとぎ話しを書きとめたメモを見つけた。神話や伝説にもとづく、「モラル」に関する美しい物語たちだ。読み返すうちに、オンゲサ一家の「充足感」の理由が、ゆっくりとではあるが明確になってきた。そして考えた。僕たちは幸せを、いつの間にか価値のないものの中に求めるようになってしまったのでは、と。そして、幸せをはかるコンパスが歪んでいるために、喪失や悲しみに際して、昔の人々よりも脆弱になってしまっているのでは、と……」 (P4−5より抜粋)
なぜ満たされないのか。その答えは?
著者は、オンゲサ家と交流を持つようになって、“本当の幸せとはなにか” “なぜ満たされないのか”ということを考えるようになります。「喪失」「貧困」なかで暮らしていても満ち足りて毎日を過ごしている人たちがいるということ、生活水準も学歴もかけ離れているのに、著者からみたアメリカ人とオンゲサ家の暮らしの満足度では大差があると感じていきます。
アメリカ人の30%が不安をかかえ、鬱状態の人が増え続けている。時間が足りない、お金が足りないと文句を言わない人はほとんどいないのが現実です。どれほどの財産、業績、名声、健康を手に入れても、それ以上のものを求めてしまうことを不思議に思っていました。
オンゲサ夫婦は、他の人と何が違うのだろうか? 幸せになるために必要なことはいったいなんなのだろう?
誰もが幸せについて思う疑問を著者は、子どものころに読んだ寓話からヒントを得ます。もしかしたら、そこに答えあるのではないか、と考えるようになりました。寓話を読むことによって、忘れられていた本当の幸せの意味を見つけだしていきます。本の中では10篇の物語が紹介され、その物語を枕に、「正義」や「モラル」といったものを説いていきます。そして“本当の幸せ”を見つける手助けをしてくれます。
そのうちのひとつの物語を紹介します。
寓話「宝の地図(1)」
「宝の地図」
「僕は財宝のありかが記された地図を持っているよ」。あるとき、1人の男がいいました。それを聞いた隣人は、地図を手に入れるため、持ち主の男を殺しました。そして財宝探しの旅に出ました。やがて期待通り、ダイヤモンドと金の山がみつかりました。光輝く財宝の上に腰を下ろしたとき、男は幸せを感じたと思いました。しかし、何年かあとにこの世を去る間際、男の心は悲しみと後悔に満たされていました。
「わたし、財宝のありかが書いてある地図を持っているの」。あるとき、1人の女がこう言いました。隣人の女はたずねました。「いくら出したら、わたしに譲ってもらえるかしら?」「お金はいらない」。最初の女は答えました。「そのかわり、あなたと一緒に財宝探しの旅に行かせて」。
ところが隣人は地図をひったくると、全速力で逃げました。期待通り、財宝が見つかりました。女はひと息入れて財宝の上に腰を下ろし、光り輝く宝石をほれぼれと眺めて、自分は本当に幸せだと思いました。しかし、何年かあとにこの世を去るとき、この女の心も悲しみと後悔に満たされました。
寓話「宝の地図(2)」
「財宝のありかが書いてある地図を持っているんだ」。あるとき、1人がこう言いました。隣人はたずねました。「どうすればその地図を見せてもらえる?」「財宝探しの旅に、一緒に行かないか」。地図の持ち主は答えました。
そこで2人は出かけました。2人で地図をよく見て、その道を行けばいいか、旅先で何が必要になるか、話し合いました。道順や持ち物についてもいろいろなアイディアが出ました。やっとのことで準備が整い、2人は旅に出ました。旅の途中で、1人が水と食料を見つけました。2人は針葉樹の葉を針にして、衣服のやぶれを縫いました。シェルターを作っては、燃料を見つけて暖を取り、旅を続けました。一人が星に詳しかったので、星を読みながら旅をして回りました。もう1人は作物に詳しかったので、2人は大地の恵みを収穫することができました。2人はときおり、歌も歌いました。1人はダンスが上手でした。
そのうちに2人は歩き回ることに疲れてしまい、住まいを定めることにしました。そして、庭の手入れもしながら、共同生活を送るようになりました。
「この料理はおいしい」。1人が皿に塩とコショーを振りながら、言いました。「きれいな花!」。もう1人がテーブルの上の花を眺めながら言いました。
やがて地図は黄ばみ、何度も折りたたんだので傷んできました。紙がもろくなってインクがはげていき、しまいにはほとんど判読できなくなりました。1人がこの世を去り、残された1人は大きな悲しみに包まれました。しばらくして、もう1人もこの世を去りました。
宝は手にせずじまいでしたが、世を去るとき、ともに後悔の気持ちはありませんでした」 (P12-より抜粋)
10篇の物語をすべて読み終えたときには、きっと心のなかで、何かが変わっているのではないでしょうか。
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