だれかに話したくなる本の話

新刊ラジオ第1380回 「哲学で解くニッポンの難問」

団塊世代の芥川賞作家が、フツーの人々の抱える人生の不安に、超具体的に回答した60の結論。日本人が抱える小さな悩みにこそ、人生の真実が宿っている。そんな誰しもが直面するかもしれない悩みとの付き合い方を「三田流の哲学」でシンプルに教えてくれます。

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定年退職後、誰しも直面する悩みごと

どんな人でも、何かしらの悩みを抱えながら、日々を過ごしていることと思います。 悩みというものは、年齢とともに移り変わり、質も変化します。そして、年をとってくると、年齢に関わる不安や、悩みが増えてくるのではないでしょうか。

「哲学で解くニッポンの難問」は、団塊世代や、初老にさしかかる年代の方を対象に、定年退職後に遭遇する老人問題や、夫婦関係の問題などを取り上げて、助言を与えてくれる一冊です。

● 著者プロフィール 三田誠広さんは武蔵野大学教授。日本文藝家協会副理事。 1977年、「僕って何」で第77回芥川賞を受賞。前著に、「いちご同盟」「マルクスの逆襲」「はじめての宗教」など多数。

本書では、定年退職を向かえる方、すでに向かえた方々に向けて、多くの人が直面する問題に対して哲学を通じたアドバイスをしてくれます。

哲学を通じた、といっても不要に難しい言い回しをしていたりはしません。 三田さんのアドバイスは、非常に痛快で、本質を突いた回答が心地よくもあります。 また、取りあげられている悩みや問題は、ごく日常に根ざしたものです。

その一例をご紹介しましょう。

定年後、のんびりするのは悪いこと??

Q.定年後はのんびりしたいのに、妻の目にきびしさを感じます。(63歳 退職者)

A、夫が冴えない毎日を送っている……妻はこのことに絶望するのです。

老後というものを考える上で基本的な問題です。 「テレビの前でごろごろ」「パジャマでうろうろ」はなぜ嫌われるのか?

夫婦関係の基本は、信頼と尊敬です。 あなたの奥様は、あなたのことを信頼し尊敬していただろうと思います。 しかしそれは、あなたが会社に勤め、それなりの社会的地位を有していたからでしょう。

「ご主人は何をしていらっしゃるのですか?」 そんな話題になったとき、今までなら、そこそこの企業名と、部長や課長だとか役職を告げることが、奥さまにとって、誇らしい瞬間だったのではないでしょうか?

ところが今は、「テレビの前でごろごろしてます」とか、「朝起きてパジャマのままでうろうろしています」といったことを言うこともできず、答えに窮していらっしゃることでしょう。

必要なのは、自分なりの存在意義を持つことです。自宅にいて、テレビの前でごろごろしているのはただの粗大ごみであり、産業廃棄物と言われても仕方ないのです。

難しいことではありません。やりたいことをやって、元気に活動すればいいだけです。 そうすれば奥さんの心は救われ、あなたに優しく接してくれるのです。

仕事の経験を活かしたかっただけなのに……嫌われてしまった。

Q、ボランティア活動で皆から嫌われた。何故なんだ。(63歳 無職)

A、元部長ではなく、二十歳の若者の気持ちで接してください。

「ボランティア活動に参加したら、主婦たちが効率の悪い作業をしていたので意見をしたら嫌われてしまった」。

気持ちはわかるのですが、そもそも女性には論理は通用しません。好きか嫌いかで判断します。 そしてあなたは嫌われたのです。あなたの敗けですね。 ボランティアに参加する人は、定年の直前には課長が部長くらいになっています。課長や部長を勤めた人は、労働者を仕切るのは得意かもしれませんが、ボランティアは企業とは違うのです。

皆が対等の立場で参加し、助け合いながら作業に当たるというのが基本で、命令を出すだけの人などかえってチームワークを乱すことになります。

ボランティアに取り組むときも「二十歳の若者のような気持ち」で接することが必要です。主婦の方々はお母さんかお姉さんだと思って、教えを請うような気持ちでいることが大切です。そして力仕事だけをこなせばいいのです。

定年後、気合の入った料理は迷惑でしかない!

Q、私は家事が得意だ。なのに妻はいい顔をしない。(62歳 NPO職員)

A、蕎麦打ちが自慢、料理が得意な夫ほど迷惑な存在はない。

家事の得意な夫というものが存在します。 整理整頓が得意、料理も上手い。ハムを作ったり、バーベキューの準備をしたりします。こういう夫は、妻にとって迷惑な存在です。

妻としては助かるように思いますが、主婦を続けてきた女性は、家を守ることに生き甲斐を感じている人も多いのです。そこに定年退職した夫が乗り込んできたら、ストレスが溜まるのも当然です。

家事を手伝うのはよいことですが、あくまで手伝いということに徹するべきでしょう。仕切ってはいけないのです。自宅では、奥さまが女王さまです。その指示にしたがって、下僕のようにかしずく。それが、定年後の夫のあるべき姿です。

今回のまとめ 回答例を聞いて、「どこが哲学なんだ?」と思ったかもしれませんが、この本が指す「哲学」とは、ソクラテスやら、プラトンやらといった、議論も難解な「フィロソフィ」ではなく、もっと身近で生活感のある問題を、「根底まで掘り下げて考え、的確な答えを引き出す」という実用的なものです。 三田さんのアドバイスも、問題の本質をシンプルに捉えて、理解しやすいように構成されています。

「この本は、一種のエンターテイメントになりうる」つもりで書かれたそうなので、真面目なことも扱いつつも、非常に面白く仕上がっています。 冗談も含んで、ウィットに富んだ回答も見所のひとつです。

哲学で解くニッポンの難問

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哲学で解くニッポンの難問

哲学で解くニッポンの難問

団塊世代の芥川賞作家が、フツーの人々の抱える人生の不安に、超具体的に回答した60の結論。日本人が抱える小さな悩みにこそ、人生の真実が宿っている。そんな誰しもが直面するかもしれない悩みとの付き合い方を「三田流の哲学」でシンプルに教えてくれます。