新刊ラジオ第1696回 「USJのジェットコースターはなぜ後ろ向きに走ったのか?」
ユニバーサル・スタジオ・ジャパンの集客は、開業当時1100万人を達成しましたが、その後は700万人台前半と落ち込みます。この窮地を回避するため、マーケティングのプロが、その敏腕な能力で次々とヒット作を手がけていきます。2年連続100万人超up、3年間でV字回復を成し遂げ、さらに成長を続けるヒットの法則とは。
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概要
みなさんこんにちは、ブックナビゲーターの矢島雅弘です。
みなさん、USJをご存知でしょうか?
そう、あの言わずと知れたテーマパーク「ユニバーサル・スタジオ・ジャパン」のことです。 開業時は1100万人を集客していたというUSJ。 けれどもその後、実は700万人台前半に落ち込んでしまっていたのだそうです。
USJの窮地。
それを救ったのは本書の著者、森岡さんでした。
集客回復のため、USJに森岡さんがヘッドハントされたのは、2010年6月のことでした。 当時、森岡さんは、外資系のメーカーでヘアケア製品のマーケティングを担当されていました。 最初、森岡さんは急いで会社を変わる」理由も無く、エンターテイメント業界の経験はないから、自分のプロとしての能力をちゃんと理解してくれた上で買ってくれる企業かどうかを見極めてから結論を出そう。そうでなければ深みにはまる前にお断りしようと、考えていたそうです。
ところが、USJの代表取締役CEOである、グレン・ガンペルと面会し、森岡さんは、心を射抜かれてしまいます。グレンからの強烈な「変革への期待」に応えようと、「どうやってこのパークを成長させていくか」を必死に考え始めました。
素晴らしい技術もあって、社員はみんな誇りを持って一生懸命やっているのに、結果が伴わない。 なぜなのか、どこが間違っているのか、なにが集客を阻止しているのか、解決策はあるのか、資金が足りない、など問題が山積みのスタートでした。 森岡さんは、考えました。 資金がないのならば、アイデアで勝負するしかないと。 けれどもそれは、簡単なことではありませんでした。
◆著者プロフィール 著者の森岡毅さんは、1972年生まれ。神戸大学経営学部卒業。 96年P&G入社。日本ヴィダルサスーン、北米パンテーンのブランドマネージャー、 ヘアケアカテゴリー・アソシエイトマーケティングディレクター、ウエラジャパン副代表などを経て、2010年にUSJ入社。 革新的なアイデアを次々と投入し、窮地にあったユニバーサル・スタジオ・ジャパンをV字回復させます。
3段ロケット構想
社運を賭けた大冒険を森岡さんが仕掛けたのは、入社して2ヶ月目のことでした。 それが、「The Wizarding World of Harry Potter」をUSJに誘致するというものでした。
それにはどのくらいのコストがかかるのか……などということは考えずに。
当時の森岡さんは、アトラクションやテーマパークの建設に必要な規模や、品質に見合ったコストの相場の知識と感覚が全くありませんでした。
その話しを最初、社内でしたときに、最低でも400億円はかかると言われたそうです。
実際には、それ以上の450億円かかったそうですが……。
それでも森岡さんは諦めませんでした。
それから「地獄の3か月」を経て、「3段ロケット構想」を打ち立て、その「3段ロケット」がそれぞれ何かを見つけ出すこと、そして、どうすればキャッシュフローの健全な持続が可能になり、投資配分はどうすればいいのか、その数字的シミレーションをひたすら繰り返し、「3段ロケット」を実現できる方法を見つけていきます。
そうして探り当てた第一段目のロケットが、以前から問題点であった、小さな子供連れのファミリー層が長期に渡って来場してくれる新ファミリーエリアを最速で建設して、2010年の春までに開業することでした。
パークのブランドを構築していくにあたって、森岡さんが壊さなければならないと思った不必要なこだわりの一つが「映画だけのテーマパーク」ということ。」そしてもう一つが「大人だけ」のテーマパークという設定でした。
以前より、USJでは家族連れの顧客層が弱かったのだそうです。
森岡さんは、「大人だけのテーマパーク」も、「子供だけのテーマパーク」もビジネスの観点からみると間違っていると考えていました。
どちらも不必要に狭いからです。
USJが「小さな子供、お断り」なんてしてはいません。けれどもパーク内のエンターテイメントが、あまりにも大人向けに偏っていたために、小さな子供連れには支持されにくくなっていました。
だからといって、パーク内にかわいいキャラクターが歩いているのは、許せない、せっかくの大人の落ち着いた雰囲気が壊れてしまう、という意見もゲストからも、社内からもあったそうです。
それらを解決させるものが、新ファミリーエリアの建設だったのです。
今までUSJに足を運ぶことの無かった層がやってくる。うまくいけば2割増もできるかも。森岡さんは「まさに金の卵を見つけた!」と思ったそうです。
続く、第2弾ロケットは、新ファミリーエリアによって収益構造を改善させてキャッシュを貯めつつ、「The Wizarding World of Harry Potter」の開業に結びつかせていくという計画でした。
そして、この「The Wizarding World of Harry Potter」の開業を2014年内にすることを目標にしたのです。
「3弾ロケット構想」は、2010年の新ファミリーエリアの建設、2014年の「The Wizarding World of Harry Potter」の建設に、ほぼすべての設備投資予算を集中させ、それ以外の年は、低コストのアイデアで乗り切るという極端なプランでした。
最初は、グレン・ガンペル以外の経営幹部のほぼ全員がこの計画に反対だったそうです。
経営規模と投資の不釣り合いさは、まさにクレイジー。
けれどもたとえクレイジーな投資であっても、戦略的に必要なことだと森岡さんは考えていました。
そしてなによりも、森岡さんは、この戦略を成功させる勝算があったのだといいます。
必ず日本でも、ハリー・ポッターのテーマパークは成功すると。
問題はそのことよりも、450億円を投じる意思を固めた2010年から、ハリー・ポッターがオープンするまでの3年間をどうするかでした。
2012年は新ファミリーエリアで生き残るとしても、それ以外は……。
もうこれ以上、巨額の投資をして新規のアトラクションをつくることはできません。
それでも少ない投資で例年以上の集客とゲスト満足度をあげていかなければならないのです。
ハリー・ポッターをオープンさせるまでの全ての年、全てのシーズナルイベント、そのどれもひとつも的を外すことが許されない状況でした。
全ての打席でヒットを打つ・・・、並大抵のことではありません。
そこで生まれたもののひとつが、本の題名にもなっている、ジェットコースターを後ろ向きに走らせる、というものでした。
後ろ向きに走るジェットコースター「ハリウッド・ドリーム・ザ・ライド?バックドロップ!」。
これはかなり話題にもなりましたから、映像で見たり、実際に乗ったという人も多いのではないでしょうか。
これぞまさに資金がないという条件の中から生まれたアイデア。
既にあるジェットコースターのレールや、プラットホームを活用して、新しく後ろ向きにゲストを乗せる特別車両だけを開発すればいいのではないかと、森岡さんは考えたのです。
ところが、実際はそう簡単なものではありませんでした。
技術陣の猛反対にあいました。
そんなにいいアイデアならば、世界中にいるジェットコースターの専門家が既に思いついているはずなのに、存在してないということは、存在できない理由があるからだとまで言われてしまいます。
けれども、いま「ハリウッド・ドリーム・ザ・ライド?バックドロップ?」は、現実に存在しています。
なんと9時間40分という驚くべき待ち時間まで記録したほどの人気を誇っています。
まとめ
その他にも、森岡さんは、数々のヒットを打ち出していきました。
いくつかあげてみますと、お金がない10周年!コンセプトをハッピー・サプライズとして、ストリート・パフォーマンスの強化とトリックアートの設置、そして、ハリウッドのスタント技術や映像技術を駆使した、マンガの最強ブランド「ワンピース」のハイクオリティなショー。
それ以外にも、ゲーム「モンスターハンター」を世界最高の製作クオリティーで表現したイベントの開催。
高さ36メートル、ギネス認定世界一の光のクリスマスツリーが輝くUSJのクリスマス。
夜になると昼間のパークとは一転して、夜のダークサイドな「コワ楽しい」体験、「ハロウィーン・ホラー・ナイト」。
夜になると、パーク内でゾンビがゾロゾロと徘徊するホラーエリアになってしまうというものでした。これもかなり話題になりましたよね。
2万人の集客を見込んでいたのだそうですが、予想をはるかに上回る6万人だったそうです。
このように森岡さんの打ち出したアイデアは100発100中。
誰もが今まで思いつかなかったような戦略でUSJを見事V字回復させていきます。
USJ改革の軌跡をたどっていくと、USJのアトラクションのようにワクワクドキドキするものばかり。
ヒットが次々と打ち出される森岡さんの成功戦略をさぐってみませんか。
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