新刊ラジオ第1649回 「ハーバード流「話し方・聞き方」超入門: 最高の結果を生み出す」
4つの思い込みをなくせば、交渉は劇的にうまくなる――。話し合いで問題を解決するのが苦手な人へ、ハーバード大学のキーマンが伝授する、ビジネス、家庭、社会生活という3つの場面で役立つ交渉術。話す力・聞く力を身につければ、ビジネスはもちろん、生活がよりスムーズにうまくいくようになります。本書でそのテクニックを学び、実践してみませんか?
読む新刊ラジオ 新刊ラジオの内容をテキストでダイジェストにしました
概要
こんにちは、ブックナビゲーターの矢島雅弘です。
今回紹介する本は、話し合いで問題を解決するのが苦手な人に、その方法を解説した入門書です。
コミュニケーション能力を高めるためには、話し合い・交渉とは何なのかを明らかにし、その基本的な考え方を改めるところから始める必要がある、と著者は述べています。
話し合いや交渉については、数多くの間違った通説、思い込みがまかり通っています。
まずは、その誤解を解くために、4つの思い込みから明らかにしていきましょう。
◆著者プロフィール ジョシュア・N・ワイスさんは、ハーバード大学グローバル・ネゴシエーション・イニシアチブの共同設立者の一人です。2002年にジョージ・メイソン大学の紛争分析解決研究所(ICAR)で博士号を取得し、交渉、紛争に対処する研究だけでなく、組織、企業から政府、国際レベルまでの交渉の実践にも携わるほか、講演や出版等の活動を行っています。また、3年連続、iTunesビジネスポッドキャストのトップ100に入るほどの大人気講義「Negotiation Tip of the Week(NTOW)」の制作もされています。
4つの思い込み
■思い込み? 話し合いは妥協することだと思っていませんか?
話し合いで合意に達するためには、大切なこともあきらめなければならないという意見をさまざまな場面で耳にしますが、これはまったくのでたらめです。
妥協すれば、難しい問題を一時的に解決することができます。
だからといって、与えられた状況の中で最善の結果を生み出すとは限りません。
双方の隠れた希望を明らかにし、両者が満足のいく合意を得ることが本当の意味での話し合いなのです。
■思い込み? 弁の立つ人が話し合いのうまい人だと思っていませんか?
雄弁に話ができるに越したことはありませんが、それが話し合いにもっとも重要なスキルというわけではありません。
話し合いで大切なのは情報です。
話をしていてもあまり情報は集まりません。
注意深く耳を傾けている時に情報は集まります。
情報があれば適切な質問をすることができ、その質問のおかげで解決策が発見されることもあります。
このように、「話す」より、「聞く」ことで、解決不可能に見えた問題も解決できるようになるのです。
■思い込み? 話し合いの最終目標は合意に達することだと思っていませんか?
話し合いの最終目標は合意に達することではありません。
双方の希望や要求を満たすことにあります。
話し合いの場には、自分の希望や要求をはっきり主張できない人、それどころか自分が何を望んでいるのか分かっていない人が数多くいます。
人の心の奥にはさまざまな動機や意図が隠れており、難しい問題を解決したいのであれば、その動機や意図を明らかにしなければなりません。
どのような合意であれ、単に合意に達するだけでは、話し合いが成功したことにはならないのです。
■思い込み? コミュニケーションにパターンはないと思っていませんか?
相手の言動を予測することはできない、そう思っていませんか?実は、相手を見る目を養えば、話し合いのスタイルには一定のパターンがあることがわかります。
自分の話し合いのスタイルが分かれば、そのパターンの長所や短所を考えてコミュニケーションを行うことができます。
また、相手の話し合いのスタイルがわかれば、それを自分のスタイルとどう絡めていけばいい結果が出せるのか、作戦を練ることができます。
コミュニケーションスタイルは人によってある程度パターンがあり、それぞれにスタイルの違いがあるということを理解していれば、話し合いを円滑に進めることが可能なのです。
このように、話し合いにまつわる思い込みには、誤りがたくさんあることがお分りいただけたでしょうか?
では、これらを踏まえたうえで、実際に私たちが遭遇する場面では、どういった話し合い・交渉をすればいいのか、今回はビジネスの場面、給与に関する交渉について、その具体例を見ていきましょう。
給与に関する交渉で大切なこと
給与に関する話し合いとなると、たいていは金銭というごく狭い範囲に焦点を絞りがちです。
しかし、重点を置くべき事柄は、ほかにも山ほどあります。
それを念頭に、給与契約の話し合いのポイントを見ていきましょう。
第1に、できるだけ幅広い視野に立って自分の希望について考えることです。
「この会社に勤めるにあたって、一番気になっていることはなにか?」と自分に尋ねてみて下さい。
お金のほかにも希望があるのに、金銭面ばかりにこだわっていませんか? 会社側に大した負担もなくかなえられそうな要求や希望があれば、前もって考えておきましょう。
第2に、話し合いの際に金銭の話題に慌ててとびついてはいけません。
まずは他の話題から始め、金銭などのデリケートな問題については、会社側との間に友好的な雰囲気が生まれてから取り上げるようにしてください。
仕事というものは給与がすべてではありません。
もちろん給料が多いに越したことはありませんが、ほかにも聞いておくべきことはたくさんあります。
職場の雰囲気はどうなのか、家族を大切にできる労働環境なのか、といった給与以外の話題について話すことで、こちらがこの就職の機会を十分に検討していることや、さまざまな角度から自分にぴったりの仕事を探していることを会社側に伝えることもできます。
第3に、会社側が提示した条件を受け入れるかどうか判断する基準を、あらかじめ定めておいてください。
つまり、提示された条件は公平なものかどうか、さらに上を要求すべきかどうかを判断するための基準です。
基準を定めるには、2つの方法があります。
1つは「ハーバード流交渉術」の真骨頂とも言えるバトナ(BATNA)を考えておく方法です。
バトナ(Best Alternative to Negotiated Agreement)とは、話し合いが合意に達しなかった場合の代替案として最善のものを指します。
給与契約の交渉の場合、失業を受け入れる、他の求人を探す、などのバトナがあります。
これから行う話し合い以外に、自分がどんな選択肢を持っているかをじっくり考えてみてください。
そしてもう1つは業界の標準を利用する方法です。
会社側が給与額を提示する場合、そこに大した意味はなく、ただこの程度の給与しか払いたくないという会社側の要望を表しているだけ、というケースがあります。
これは何ら受け入れる価値のない提案です。
このような提案に対しては、同等の立場にいる人間がどのような条件を提示しているのか、この業界の標準的な待遇とはどの程度なのかを知っておくと便利です。
第4に、契約が成立すれば、その会社との長い関係が始まるのだということを肝に銘じておいてください。
会社に利用されたり、不当に扱われたりすることを望む人などいません。
契約交渉の場で、業界標準に照らして不公平な提案、理不尽な条件に同意してしまえば、それを後悔しながらその会社で働いていかなければなりません。
このように、給与に関する話し合いで一番重要なのは、とにかく尋ね、要求を述べることです。
現状よりも悪い結果になってしまうのではないかと心配するあまり、口が開けなくなってしまうのかもしれませんが、そんな不安は払いのけなければなりません。
「聞くは一時の恥、聞かぬは一生の恥」ということわざを忘れずに行動しましょう。
■ まとめ
ハーバード流の交渉術、お分りいただけたでしょうか?
本書は3部構成になっており、今回取り上げた内容以外にも、第1部では、上司を説得する方法やインターネットを使った交渉など、職場での話し合い・交渉について、第2部では、世代間の価値観の違いや、子供との話し合いなど、家庭での問題・私生活における話し合いについて書かれています。
そして第3部では、強硬な相手との対話や、車など高価な買い物をする時の交渉など、社会生活を営んでいくうえで避けては通れない話し合い・交渉について、より詳しく論じられています。
また、各章にチェックリストもありますので、こちらを利用して習熟度合いを確認しながら学ぶことも可能です。
本書を読めば、生活の様々な場面で交渉を成功させるために必要な知識やコミュニケーションスキルを学ぶことができるでしょう。
皆さんもハーバード流のテクニックを学び、実践してみてください。
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